機能性表示食品に関する社説・コラム(2024年4月11日)

機能性表示食品 迅速な被害報告を義務づけよ(2024年4月11日『読売新聞』-「社説」)

 

 健康への効果をうたう食品があふれている。安全性をどう確保するかは重要な課題だ。健康被害があった場合に、迅速に対応できるルールを整えなければならない。

 小林製薬が製造した機能性表示食品の「 紅麹べにこうじ 」サプリメントを摂取し、腎臓病になる人が相次いでいる。これまでに5人が死亡し、200人以上が入院した。

 機能性表示食品は、科学的根拠となる資料を消費者庁に届け出れば、国の審査なしに効能を示して販売できる。2015年に規制改革で制度が導入され、今では6800を超える製品がある。

 今回の健康被害で、まず問題なのは報告が遅れたことだ。効果や安全性の担保を企業に委ねる制度である以上、被害の情報があれば、即座に拡大防止策を講じる仕組みがなければいけないはずだ。

 小林製薬は1月半ばに問題を把握しながら、国や自治体への報告は2か月以上後だった。

 消費者庁が定めた機能性表示食品の指針は、健康被害が発生した場合、「情報が不十分であったとしても速やかに報告することが適当」としているが、どの段階で報告しなければならないかがあいまいだ。法的な義務づけもない。

 体調不良があっても、健康被害が発生していることを知らずにサプリを使い続けた人もいる。企業がすぐに行政と情報を共有し、使用中止を呼びかけていれば、被害の拡大を防げた可能性がある。

 判断を企業任せにせず、ルールを法的に義務づけるべきだ。

 紅麹問題では、健康被害が報告された原料から青カビ由来の有害物質「プベルル酸」が検出された。腎臓病との関連性は調査中だが、紅麹から自然に発生することはないとみられ、製造工程で混入した疑いが指摘されている。

 サプリは特定の物質を濃縮しており、長く使用するケースが多いため、健康被害が出れば、一般の食品より体への影響が大きい。

 メーカーが消費者庁に届け出る際、製造工程や品質管理について第三者機関の評価を受けるような制度の活用も一案だろう。

 機能性表示食品については、これまでも表示に関するトラブルがたびたび起きている。

 昨年は、消費者庁が血圧低下をうたうサプリの表示を取りやめるよう求める措置命令を出した例がある。効果を裏付ける合理的な根拠がないと判断されたためだ。

 国は現在、制度の見直しを検討している。表示の妥当性を点検する仕組みも強化してほしい。

 

【機能性表示食品】制度の検証が必要だ(2024年4月11日『高知新聞』-「社説」)

  
 小林製薬大阪市)の「紅こうじ」サプリメントを巡る健康被害問題を受け、商品に利用されていた機能性表示食品制度の課題が浮かび上がってきた。
 制度は2015年、健康食品市場が拡大する中、規制緩和による成長戦略の一つとして、当時の安倍晋三政権が導入した。
 健康食品は通常、医薬品のように効能や効果をうたうことはできないが、機能性表示食品は、安全性と効果を示した科学的根拠を企業が販売前に消費者庁に届け出れば、効果を表示できる。特定保健用食品(トクホ)とは異なり、国は安全性データを審査しない。
 今回のサプリも、「悪玉コレステロールを下げる」という効果を示して販売され、健康の改善を期待した人が大勢購入していた。ところが、その商品で腎機能障害などの被害が相次いだ。死者も報告され、制度の在り方に不安が広がっている。
 機能性表示食品は国の審査はないが、届け出された情報が消費者庁のサイトで公開されている。消費者自らが確認できる仕組みだ。
 しかし、内容をどれほどの人が理解できるだろうか。専門知識のない消費者に判断を委ねるのは無理がある。
 効果をうたっておきながら、安全管理の規制も厳格でない面がある。医薬品の製造工場は、品質や衛生管理に関する指針「GMP(適正製造規範)」の認証が必須だが、サプリは任意となっている。小林製薬のサプリ原料を製造した工場も取得していなかった。
 健康被害が生じた場合の報告の基準にも不十分さがあったのではないか。届け出のガイドラインでは、発生や拡大の恐れがある場合は、消費者庁へ速やかに報告することを企業に求めている。しかし、義務ではなく、今回も急速に被害が広がる恐れがあるにもかかわらず、把握から公表まで約2カ月かかった。
 機能性表示食品制度は健康食品市場の拡大に貢献すると期待され、中小企業も相次いで参入してきた。今年3月時点での届け出は約6800件に上り、国内市場は18年からの5年間で3倍超となる6865億円にまで膨らんでいる。
 市場が拡大している分、健康被害が出れば影響は大きくなる。消費者団体や日弁連などは制度ができた当初から、安全性が事業者任せだと問題視してきた。
 今回の健康被害の拡大についてはいまだ不明な点も多く、まずは実態把握と原因究明が急がれる。併せて、企業任せの制度の在り方や導入時の論議が十分だったのか、きちんと検証するべきだ。
 今回の事態を受け消費者庁は、5月末をめどに制度の在り方について取りまとめるという。3月時点で届け出のある約1700事業者を対象に行っている緊急点検の結果を踏まえて議論するとともに、近く専門家による検討会も立ち上げる。国は健康被害を真剣に受け止め、誠実に対応する必要がある。