無党派層で「石丸が蓮舫上回る」…一体何のバグ? 全国紙記者困惑「一部の社で特定の候補者に投票したとする数字が高く現われた」(2024年7月2日『みんかぶマガジン』)

 7月7日投開票の東京都知事選は、主要マスコミの調査で中盤情勢でも現職の小池百合子都知事のリードが伝えられた。小池氏は保守層や無党派層を中心に支持を固めており、序盤から先行した戦いを展開している模様だ。前立憲民主党参院議員の蓮舫氏と広島県安芸高田市の前市長、石丸伸二氏が追っており、「2位争い」にも注目が集まる。選挙分析に定評がある経済アナリストの佐藤健太氏は「これまでの小池都政を評価している人は多く、他候補は『批判票』だけに依存しない戦いが求められそうだ」と指摘する。

2期8年の小池都政の評価については、6割強が「評価する」
 主要マスコミは7月1日付朝刊で都知事選の情勢調査の結果を報じている。読売新聞は6月28~30日の調査をもとに1面記事で「小池氏が先行 蓮舫氏・石丸氏追う」と題して詳細を分析。小池氏は自民党支持層の7割、公明支持層の9割を固め、立憲民主党の支持層からも2割が小池氏を支持していると報じた。蓮舫氏は立憲支持層の6割強、共産支持層の7割弱が支持しているという。2期8年の小池都政の評価については、6割強が「評価する」と肯定的だった。ただ、有権者の2割以上が態度を明らかにしておらず、情勢は変わる可能性があるとした。
 JNNは6月29、30日の調査から中盤情勢を分析し、「小池氏ややリード」と報じた。蓮舫氏は「激しく追い上げ」、石丸氏については「追う」としている。小池氏は自民支持層の約6割と公明支持層の約8割を固め、蓮舫氏は立憲支持層の約7割、共産支持層の約9割の支持とした。
蓮舫氏が続き、石丸氏が激しく追い上げる展開
 産経新聞は1面の記事で共同通信が6月29、30日に実施した調査の結果を掲載。小池氏が「一歩リード」とした。蓮舫氏が続き、石丸氏が激しく追い上げる展開という。小池氏は自民支持層の5割強、公明支持層の7割を固め、蓮舫氏は立憲支持層の7割、共産党支持層の8割弱の支持を得ているという。小池都政の評価は「評価する」が55%に上っている。
 毎日新聞は1面の記事で「小池氏やや先行」し、蓮舫氏が「追い上げ」、石丸氏が「続く」展開と報じた。東京新聞も2面記事で「小池氏ややリード」と報じ、蓮舫氏と石丸氏が「追う」としている。いずれの中盤情勢調査の記事でも小池氏が先行し、蓮舫氏と石丸氏が追う展開となっているのだが、面白いのは無党派層と女性の支持分析だ。
無党派層の支持を石丸氏が蓮舫氏を「やや上回った」
 読売新聞の調査によれば、有権者の5割近くを占めるとされる無党派層は、小池氏が最も多い3割の支持を得ており、蓮舫氏と石丸氏はともに1割強だった。男女ともに小池氏の支持が厚く、蓮舫氏と石丸氏は女性の支持が少なめだったという。JNNの調査では無党派層は小池氏と石丸氏を支持する人がそれぞれ約3割、蓮舫氏は約2割となっている。女性の支持は小池氏が4割あまり、蓮舫氏は約3割、石丸氏は2割弱だったという。
 共同通信の調査をもとにした産経新聞の記事は、無党派層の支持は小池氏が3割弱で最も多く、石丸氏と蓮舫氏がそれぞれ2割強だった。毎日新聞の記事では、小池氏が年代別で30~60代に幅広く浸透し、女性から「かなり強い」支持を得ているという。
 無党派層や女性の支持を得る候補は、一般的に支持の上積みが期待される。投票先未定の人も一定数いるので情勢は変化する可能性があるが、主要マスコミの調査分析を見る限りにおいては中盤情勢でも小池氏が「リード」しているのだろう。ただ、読売の調査分析では無党派層の支持を石丸氏が蓮舫氏を「やや上回った」としており、JNNの報道でも同様の分析がなされている点は興味深い。
田崎四郎も「無党派層で石丸が蓮舫をリード」
 6月末に櫻井よしこ氏の言論テレビに出演した政治ジャーナリストの田崎史郎氏は「世論調査を見ると、小池氏が他候補を10ポイント以上引き離している」と説明。「東京は無党派層が一番厚い。誰が一番アプローチできているかといえば、小池氏が最もできている。3~4割は小池氏だ。その他の人たちは蓮舫氏に大きく傾くかとみられていたが、実は石丸氏が少し上を行っている」と指摘している。2期8年の小池都政に対しても約6割が「評価する」としており、小池氏は「無党派層の獲得・女性の支持・現職への肯定的評価」という3点セットを背景に先行した戦いを展開しているようだ。
 ただ、不思議なのは中盤情勢調査を一緒にした社で表現が異なっている点だ。たとえば、共同通信毎日新聞とTBS、東京MXテレビ、フジテレビと共同で電話調査を実施している。共同通信の加盟社は調査データを共有し、それぞれ掲載しているわけなのだが、毎日新聞は「2位」の蓮舫氏が追い上げ、石丸氏が「続く」展開と報じている。しかし、共同通信の調査結果を報じた産経新聞の記事では、「蓮舫氏が続き、石丸氏が激しく追い上げる展開」と掲載した。
一部の社で特定の候補者に投票したとする数字が高く現われた
 もちろん、それぞれ取材を加味して情勢を探っているとは思うが、JNNの調査では「蓮舫氏が激しく追い上げ」、産経新聞では「石丸氏が激しく追い上げ」と二分している。小池氏が優位とする分析に変わりはないが、これは一体どのような意味なのか。
 調査結果を報じた全国紙の記者は「期日前投票の調査では、一部の社で特定の候補者に投票したとする数字が高く現われた。それを加味して報じたということではないか」と指摘する。中盤情勢の調査は6月29、30日の週末に実施されたところが多いが、同時期には期日前投票の調査も行われていた。しかし、「出口調査で一部の候補者が一時的に不思議なほど多くの“得票”があったとのデータが見られた」のだという。
 支持傾向を分析する世論調査とは異なり、出口調査は回答者がウソを答えない限り「票」に直結する。ただ、この“異変”は社によっても異なり、一時的なものであると受けとめられている。別のテレビ局記者も「組織的に調査に回答すれば、数字を上げることにつながる。データだけでなく現在の情勢を冷静に見るか否かでメディアの報道が変わり、投票行動に影響を与える可能性がある点は注意しなければならない」と指摘する。マスコミ各社の調査結果や内容、それぞれの候補者の主張や政策などを有権者はきちんと見極めた上で投票したいところだ。
残される選択肢は「評価する」層をいかに取り込むか
 チャレンジャーである蓮舫氏と石丸氏としては、「小池都政を評価しない」層を取り込みつつ、「評価する」層に切り込んでいく戦略が求められる。ただ、各社の調査で「評価する」は6割近くに上っており、「評価しない」層は3割程度しかない。それを2人で分ける形では自ずと限界もあるだろう。残される選択肢は「評価する」層をいかに取り込むかというわけだ。
 小池氏への対抗心をむき出しに立憲民主支持層と共産党支持層を固める蓮舫氏、若者や無党派層からの支持に期待する石丸氏はどう終盤戦を戦うか。7月7日の投票日まで1週間を切り、「首都決戦」はますます面白くなってきている。
七夕決戦の勝者は誰になるーー。
 今回の「首都決戦」は4年前の前回知事選(22人が出馬)を大幅に上回る過去最多の56人が立候補し、メディアの注目度も高まるばかりだ。 今回の都知事選には過去最多の56人が立候補し、すでに選挙ポスター掲示板をめぐる問題が勃発するなど波乱も起きている。マスメディアの公平性、「ジャーナリスト」を名乗る人物やYouTuberの“突撃”と選挙活動のあり方、選挙妨害の範囲、大勢の立候補者が届け出た場合の対応・・・。もはや報道も法令も時代遅れであるのは間違いない。
NHKから国民を守る党」から大量の立候補者がみられ、東京都内に約1万4000カ所ある選挙ポスター掲示板を“占拠”したことが話題になっている。ほぼ全裸状態の女性ポスターを貼った候補者は警視庁から都迷惑防止条例違反の疑いで警告を出されたが、掲示板の“占拠”そのものは「想定外」とはいえ、合法とされている。
 マスメディアの公平性、「ジャーナリスト」を名乗る人物やYouTuberの“突撃”と選挙活動のあり方、選挙妨害の範囲、大勢の立候補者が届け出た場合の対応・・・。もはや報道も法令も時代遅れであるのは間違いない。七夕決戦に向けて誰が飛び出るのか。熱い、暑い戦いから目が離せない。