日本版ライドシェアは第一歩にすぎない(2024年6月8日『日本経済新聞』-「社説」)

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タクシー会社が運行を管理する「日本版ライドシェア」の出発式(4月8日)
 政府は一般のドライバーが有料で乗客を運ぶ「ライドシェア」の全面解禁について、6月に出す予定だった結論を先送りし、期限を決めずに議論を続ける方向だ。移動手段の不足は経済活動や社会生活の重大な支障であり、ライドシェアの積極的な活用に向けて政府は迅速に動くべきだ。
 日本でも4月から「日本版ライドシェア」と称する独自の制度がスタートした。今回、「期限なしの議論継続」が固まった背景には、始まったばかりの日本版の効果を見極めたうえで、クルマ不足が解消するならこれ以上の改革は必要ない、とするタクシー業界や国土交通省の意向がある。
 成果の検証は必要だが、かといって「議論を封印する」というのでは困る。日本版には諸外国にはない様々な制約が課され、働く人からみて魅力的な仕組みかどうかにも疑問符が付く。さらなる規制改革が当然の道筋だ。
 日本版の最大の特徴はサービスの実施主体をタクシー会社に限定し、その管理下で一般の運転手がハンドルを握る点だ。仮にある地域で深刻なクルマ不足が起きた場合、地元のタクシー会社がそっぽを向けば、対処は難しい。
 安全性の確保などの要件を定め、それを満たせば業界外の企業にも広く公平に門戸を開くのが本来の姿だろう。外から知見や人材が流れ込むことで、デジタル技術を生かした安全確保などサービスの高度化も期待できる。
 日本版のもう一つの制約は、時間帯や地域の限定である。例えば東京23区では平日の午前7時から10時台までサービスが認められるが、11時を過ぎると打ち切りとなる。だが、急な雨などの天候の変化やイベント開催で11時以降も需給の逼迫が続くケースはある。
 スマートフォンと配車アプリの普及で時々刻々の需給変動を把握できる今の時代に、時刻や地域を硬直的に決める規制は時代錯誤の印象を免れない。料金についても需給に応じて柔軟に上下させるダイナミックプライシングを導入することで、客と車両のマッチング率も上向くだろう。
 業界の努力もあり、減り続けたタクシー運転手の数は足元では若干反転したようだ。それでも日本全体では人手不足が厳しさを増し、高齢のタクシー運転手が多い現実も変わりない。国民の移動の自由を確保するため、岸田文雄首相の指導力を期待したい。