ライドシェア解禁 実効性のある制度に(2024年4月8日『茨城新聞・山陰中央新報』-「論説」)

自治体ライドシェア」で送迎を依頼し、車両に乗り込む利用者=2月29日、石川県小松市


 一般ドライバーが自家用車を使って有料で客を運ぶライドシェアが部分的に解禁された。4月はまず東京、横浜、名古屋、京都などの都市部でスタート。その後、札幌、仙台、大阪、福岡などでも始まる。

 管理運営主体をタクシー会社に限定し、IT企業が主体の欧米などとは異なるため「日本版ライドシェア」と称されている。国が指定した地域、曜日、時間帯に限られ、それぞれの区域で運行する台数には上限がある。

 やや窮屈な印象も受けるが、安全性確保に万全を期さなければならない。地域の公共交通システムの激変も好ましくなく、慎重なスタートは理解できる。

 ただ、乗客の利便性向上に効果が得られなければ、導入した意味はない。運行を請け負う一般ドライバーにとっても、一定の収入が見込めるなど魅力ある仕事にならなければ、人材も集まらず事業としての成立も危うくなる。

 政府は6月までに、タクシー会社以外の他業種の参入を可能にする法制化の是非を判断する方針だ。安全確保は大前提だが、硬直的な運営は、新たなサービスの可能性を奪ってしまいかねない。

 担当閣僚の河野太郎デジタル行財政改革担当相は「(部分解禁で)結果が出なければルールをどんどん変え、移動の自由の制約を解消する」との考えを表明している。運行状況や乗客の満足度、ドライバーの収入など各種のデータを分析した上で、各種規制の妥当性を再点検することが欠かせない。タクシー不足を補い、必要なときに、いつでも利用できるサービス供給に向け実効性ある制度を求めたい。

 ライドシェアを巡っては、規制緩和をにらんで新興企業が参入を表明する動きも目立ってきた。フリマアプリ大手メルカリなどが出資する「newmo(ニューモ)」は今秋に大阪で事業を始め、2025年大阪・関西万博の輸送需要に対応するとしている。

 当面は地元のタクシー会社と提携。25年以降は全国各地で展開し、交流サイト(SNS)などでPRを強化、1万人のドライバー確保を目指す。

 ライドシェアの制度設計では、デジタル経済の利便性を活用して、既存の公共交通体系を時代に適応したシステムに改めるチャンスととらえる視点も重要だ。何も、米配車大手ウーバー・テクノロジーズが市場を席巻する欧米のようなスタイルを目指すべきだと言っているのではない。日本の経済社会に適した形があるはずだ。

 タクシー会社は長年、地域に密着し、きめ細かいサービスを通じて地域社会に貢献してきた。デジタル技術を活用してこうした分野のサービスを強化すれば、新たな需要も生まれてくるのではないか。ライドシェアの部分解禁を担うタクシー会社は、ライドシェア運営のノウハウを取得することができる。これも活用できるはずだ。

 「日本版ライドシェア」の一方で、自治体が主導する「自治体ライドシェア」も、石川県小松市で始まるなど活発になってきた。これまでは過疎地域などが対象だったが昨年末、夜間などバスやタクシーが乏しい時間帯も運行が可能になり、より多くの地域で導入できるようになった。各地の事情に合わせた交通サービスの発展に官民で知恵を絞りたい。

 

ライドシェア 安全と利便を見極めたい(2024年4月8日『西日本新聞』-「社説」)

 

 一般ドライバーが自家用車を使い、有料で客を運ぶ「ライドシェア」のサービスが、きょうから東京都で始まる。地域や時間帯を制限しての運行開始となった。

 九州では福岡都市圏で最初に導入されそうだ。利用者の安全と利便を両立し、新たな移動サービスとして信頼できるかどうかを見極めたい。

 外国人観光客の増加と運転手の減少により、大都市や観光地でタクシーが不足している。ライドシェアはそれを補う手段で、タクシー会社が運行管理を担う。

 国土交通省は福岡、札幌など11区域も対象区域にした。各地の配車アプリのデータを基に、タクシーが足りない地域、曜日や時間帯を設定し、運行可能な台数を決める。

 ライドシェアは与党や首長の有志が必要性を主張し、この1年足らずで導入に向けた動きが急加速した。推進派が新規事業者も参入できる全面解禁を求めているのに対し、タクシー業界や関連の労働組合は反対している。

 米国や中国のように手軽な移動手段として普及している国と比べ、かなり限定的な運用になったのは、こうした事情が影響している。ライドシェアの制度設計は中途の段階と言える。

 移動の不自由を解消する手段が多様化することは歓迎できる。新しい技術の活用も大いに進めたい。

 それは利用者の安全確保が大前提だ。海外ではライドシェアの利用者やドライバーが被害を受ける事件が起きている。トラブルを防ぐため、国交省がいくつもの運行条件を課したのは理解できる。

 ドライバーは直近2年間は無事故で、管理するタクシー会社の研修や車両整備を受ける。料金の支払いは原則として現金を使わない。発着地のどちらかはタクシーの営業区域とする。

 政府は新法が必要となる全面解禁の是非について、6月までに検討する方針だ。4月以降の運行状況を参考にして判断するとみられる。

 結論を急ぐことはない。利用者の声を聞き取り、丁寧に改善点を洗い出すべきだ。

 サービスを安定して維持するにはドライバーを確保しなければならない。待遇を含む働きやすい環境づくりが課題となろう。

 新型コロナウイルス禍を経て2割減少したタクシー運転手の人材確保にも、並行して取り組む必要がある。

 移動手段の悩みは地方でも深刻だ。鉄道、バスの廃止や減便で、高齢者を中心に買い物や通院に不自由する住民が増えている。

 対策は自治体によってさまざまだ。市町村やNPOが自家用有償旅客運送の制度を活用し、マイカーに移動困難者を乗せている地域もある。

 九州でライドシェア導入に前向きな首長は少なくない。その是非にとどまらず、公共交通を含む幅広い移動手段の議論を喚起したい。