国会の憲法改正論議結 論を急ぐべきではない(2024年6月4日『毎日新聞』-「社説」)

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衆院憲法審査会で議論する各会派の議員ら=国会内で2024年5月16日午前10時7分、平田明浩撮影
 国会で憲法改正の議論が進んでいる。だが、今なぜ改正が必要なのか。国民の理解が深まっているとは言えない。
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 衆院憲法審査会で、自民党改憲条文案の起草委員会を今国会中に設置するよう求めている。大規模災害などで選挙実施が困難になった場合に備え、国会議員の任期延長を可能にする改正を目指している。
 
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 緊急時に参院が国会の機能を担う規定は憲法にある。54条で定められた「参院の緊急集会」だ。
 ただ、緊急集会は衆院の解散・総選挙により衆院議員が不在となる最大70日間を想定している。このため自民党は、長期間にわたって選挙が実施できず、国会が機能しなくなる事態を防ぐ必要があると訴えている。
 衆院憲法審では自民党公明党日本維新の会、国民民主党、有志の会の5会派が任期延長の改正に賛成している。立憲民主党は選挙権の制限につながると批判し、共産党改憲自体に反対する。一方、参院では自公両党内にも慎重論がある。
 自民党は2018年に(1)自衛隊の明記(2)緊急事態対応(3)参院の合区解消(4)教育充実――の改憲4項目をまとめた。コロナ禍や大規模災害の多発を背景に、憲法審で議論が具体化してきたのが緊急事態への対応だった。
 だが、緊急事態条項の創設には、政府に過大な権限を与えかねないとして公明党などにも懸念がある。衆院で5会派が一致できたのが議員任期の延長である。
 派閥裏金事件で国会議員の脱法的行為が明るみに出て、政治への信頼が失墜している。任期を延長する改憲案が、果たして国民に受け入れられるだろうか。
 岸田文雄首相は、9月までの党総裁任期中に憲法改正を実現したいと繰り返し表明している。
 条文案の起草に前のめりな自民党の姿勢には、保守層への配慮がうかがえる。改憲への賛否で温度差のある野党を分断するという政治的な思惑も透けて見える。
 毎日新聞の4月の世論調査では、岸田首相の在任中の憲法改正への賛成は27%にとどまり、反対は52%に上った。憲法は国のあり方の根幹にかかわる。改正について結論を急ぐべきではない。