受刑者「さん」付け 再犯防止つながる改革に(2024年3月13日『福井新聞』-「論説」)

 全国の刑務所などで4月から、受刑者の呼称が「さん」付けとなる。刑務所内で過去に繰り返されてきた受刑者への人権侵害の反省であるとともに、「懲らしめ」から更生支援へ、刑務所の力点が移りつつある状況も反映した取り組みだ。受刑者の人権尊重と所内の規律維持をどう両立するか。目的である再犯防止につなげられるか。転換期にある刑務所に注目したい。

 「さん」付けは2021~22年に名古屋刑務所で起きた暴行・暴言問題の再発防止策の一環。同刑務所では、刑務官22人が受刑者3人に対し、顔をたたいたり暴言を吐いたりしていた。法務省の第三者委員会は昨年6月、再発防止策として各施設で一般的な、呼び捨ての再考を提言。改善更生や円滑な社会復帰のために、刑務所職員と受刑者の良好な関係やコミュニケーションが必要としていた。

 ほかにも刑務官を遠隔サポートできる通信機能付きの装着式カメラを、全国の大規模施設に配備するなどし再発防止を進める。

 同刑務所の問題が発覚する2カ月前の22年6月には、懲役・禁錮を廃止し「拘禁刑」を創設する改正法が成立したばかりだった。懲役受刑者の刑務作業を義務でなくし、薬物依存や暴力団からの離脱といった指導や教育により多くの時間を割けるようにする。刑罰の位置づけを「応報」から「更生」重視へ変える大改革で、25年の導入が迫っている。「さん」付けを含む再発防止策も、更生重視の方向に沿ったものだ。

 収容定員が国内最大の東京・府中刑務所は先月、日本記者クラブの報道陣に所内を公開した。「さん」付けの取り組みを既に試行しており、大きな問題はないと説明した。ただ、刑務作業の工場で受刑者を指導するような場合に、戸惑いを訴える職員はいるという。

 同刑務所は現在約1600人を収容し日本人の4割が暴力団関係者。一般的に暴力団関係者は、徒党を組んで暴力で職員に対抗したり、タバコなど禁制品を得るために職員籠絡を図ったりする傾向があるといい「職員は緊張しながら勤務している」とも明かした。

 視察冒頭で報道陣に示したのも、受刑者が居室の備品を破壊したり、壁に汚物を塗ったりといった、緊迫した非常時対応を記録したビデオだった。刑務所内の秩序維持はきれいごとで済まない。改革には難しさも伴うだろう。

 刑務所の役割の一つは犯罪者を社会から隔離することだ。そのこともあって、一般には内部の状況は分かりにくい。刑務所の「居心地を良くする」ような今回の改革に、違和感を覚える人も多いかもしれない。社会全体で理解を深め、取り組みを後押ししたい。