定額減税開始 円滑な執行で消費刺激を(2024年6月2日『産経新聞』-「主張」)

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都内のスーパーマーケットを視察する岸田文雄首相。政府は定額減税で家計負担の軽減を図る=令和5年10月16日、東京都江東区 (春名中撮影)
 所得税と住民税で計4万円を軽減する定額減税が始まった。サラリーマンの場合、6月以降の給与や賞与に減税分が反映される。デフレからの完全脱却を目指す岸田文雄首相肝いりの政策である。
 電気・ガス料金の負担軽減策が5月分で終わったほか、円安で物価高が進めば家計負担はさらに増す。そんな中での定額減税が、賃上げと相まって所得増の実感を十分にもたらすかが問われよう。
 減税の仕組みは複雑で分かりにくく、所得や世帯構成を踏まえ個々に対応しなくてはならない企業や自治体の事務負担は大きい。減税効果を減じないよう円滑な執行が求められる。
 1人当たりの減税額は所得税3万円と住民税1万円だ。納税者本人のほか扶養家族も対象である。低所得で納税額が少ないため減税しきれない場合は給付金を組み合わせて支給する。
 一度にまとまった金額を受け取る一律給付金とは異なり、今回の減税は条件次第で1回当たりの減税額やタイミングに差があるため、財布が潤う実感を得にくいケースもあるだろう。
 定額減税は、関連給付も含めると5・5兆円もの巨額さである。景気を浮揚させる効果を最大化するには、減税の実感を少しでも高める工夫が必要だ。
 ただし、企業の給与明細に減税額を明記するよう政府が義務付けたことは新たな企業負担につながった。今回の減税は準備期間が短く、企業は対応に忙殺されてきた。給与明細への明記などに手間取り混乱につながっては元も子もない。その点での影響にも注意を払いたい。
 昨秋の総合経済対策で定額減税の実施を決めた際には、減税よりも即効性がある給付金の方が望ましいという声もあったが、岸田首相は減税の実施にこだわった。政策効果が問われるのは当然である。
 物価高に賃上げが追い付かず実質賃金は3月まで24カ月連続のマイナスだ。今後は減税に加えて春闘の賃上げも給与などに反映される。問題はそれが個人消費を上向かせるかだ。減税分が消費よりも貯蓄に回れば巨費を投じた政策効果は薄まる。
 政権内では、1回限りではなく来年以降も定額減税を続ける可能性も言及されているが、その必要性については、今回の成果を十分に見極めた上で冷静に判断しなければならない。