岸田首相、「負担増」はあくまでステルスで? 子育て支援金の明細記載の考えを問われ、またもはぐらかす(2024年5月31日『東京新聞』)

 政府は6月1日から、所得税と住民税の「定額減税」を実施する。企業には減税額を給与明細に明記させ、手取り増を実感させる狙いだ。一方、2026年度から公的医療保険料と合わせて徴収する「子ども・子育て支援金」の給与明細への記載については歯切れが悪い。岸田文雄首相は30日の参院内閣委員会で「どのような明細が適切なのか考えていく」と述べるにとどめた。(高田みのり、坂田奈央)
◆減税は「しっかり実感いただきたい」
 定額減税額の明細明記の狙いについて、首相は「手取り増の効果をしっかり実感いただくことで消費マインドを喚起し、さらに次の投資や賃上げにつながる」と説明した。ただ、1回限りの措置にもかかわらず減税額の明記が義務付けられたため、一部企業からは事務作業やシステム改修の負担に悲鳴も上がる。
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30日、参院内閣委で答弁する岸田首相(千葉一成撮影)
 明細明記の義務付けを巡っては、子育て支援金の負担額も対象にすべきだとの指摘も出ている。首相は30日、支援金の額を給与明細に明記するかを問われ「制度の効果を生み出すために、どのようなあり方が望ましいかという観点から考えていかなければならない」と煮え切らなかった。
 支援金は少子化対策の財源として、公的医療保険料と合わせて幅広い世代から徴収する。こども家庭庁の試算によると、28年度は会社員らの「被用者保険」では、負担額が年収200万円で月350円、年収1000万円では月1650円となる。首相はこの日も社会保障の歳出改革を踏まえ「新たな負担は求めない」との説明を繰り返した。
◆担当者は「書くことが効果的」
 首相は22日の参院予算委員会で、定額減税と支援金の額の明細明記に関し「(定額減税では)控除される額等は明らかにする。支援金については医療保険と位置付けられ、取り扱いは異なる」と答弁。「詳細は制度導入までに確定する」と述べるにとどめ、野党からは「減税はアピール、負担増は隠す姿勢だ」などと批判があがっていた。
 こども家庭庁の担当者は取材に、あくまで詳細は今後決まると前置きした上で「明細に書くことは、『子どもは世の中全体で支えるもの』という意識の一助になると考えている」と説明。少子化対策の観点から、明細への記載は効果的との考えを示した。
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◆4人世帯では計16万円
 所得税と住民税の定額減税が6月から始まります。減税の仕組みについて、あらためてまとめました。(市川千晴)
Q 減税額はいくらですか。
A 1人当たり4万円で、内訳は所得税が3万円、住民税が1万円です。扶養家族も対象です。夫婦と小学生2人の4人世帯では計16万円の減税になります。年収2000万円超や海外に住む扶養家族は対象外です。
 所得税の非課税世帯は、1世帯あたり計10万円の給付金、子育て世帯には子ども1人当たり5万円の加算がすでに始まっています。
◆6月の住民税はゼロに
Q 減税の方法を教えてください。
A 所得税の減税は、6月の給与や賞与から始まります。6月で減税しきれない場合は、7月以降も続きます。
Q 住民税の減税方式は。
A 今年に限り、6月分の住民税はゼロになります。その上で、もともと支払いが必要な1年分の住民税額から、減税分(1人当たり1万円)を差し引いた残額を7月から翌年5月まで11分割して納めます。政府は、住民税を徴収する自治体の業務負担の軽減を理由としていますが、6月の手取りを少しでも大きくして、政権浮揚につなげたい思惑が大きいです。
◆過去の減税効果は限定的
Q  4万円を納税していない人の扱いは。
A 納税額が低く、減税しきれない人は約3200万人で、片働きの夫婦と小学生2人の4人世帯であれば年収170万〜535万円程度の所得層です。
 減税できなかった額が生じた場合は、1万円単位で自治体からの給付で補います。例えば、減税できなかった額が1万8000円の場合は、給付は2万円となります。給付は、自治体への申請などを通じて7月下旬以降に行われます。
Q 経済効果はありますか。
A 1998年に橋本龍太郎内閣が2回計4兆円規模の定額減税を行いましたが、景気への効果は限定的でした。第一生命経済研究所の熊野英生氏は「数カ月にわたる減税で複雑なので、事務負担が大きいという不満も耳にする。厳しい財政状況で行われた減税の効果を検証すべきだ」と指摘しています。