裁判員制度15年 司法参加の意義広めたい(2024年6月2日『毎日新聞』-「社説」)

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初めての裁判員裁判が開かれた東京地裁の法廷=東京・霞が関で2009年8月3日午後1時26分(代表撮影)
 刑事裁判に国民が参加する意義を再確認したい。
 裁判員制度が始まってから15年がたった。今年2月末までに、12万人以上が殺人など重大事件の審理に関わり、約1万6000人の被告に判決を出した。
 法廷での証言が重視されるようになり、検察側と弁護側の立証も分かりやすくなった。導入前に比べ、性犯罪や児童虐待では、より重い刑が言い渡される傾向にある。市民感覚の表れとみられる。
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判決後に記者会見する裁判員と補充裁判員=東京都内で2023年7月14日午後4時18分(代表撮影)
 課題も浮き彫りになった。
 裁判員候補者に選ばれながら、仕事などを理由に辞退する人が多い。当初は5割強だったが、近年は7割近くになることもある。
 時間に余裕がある人が参加するだけでは、裁判員の構成が偏る。多様な立場や経験に基づく市民の意見を、判決に反映させるという制度の目的が果たせなくなる。
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意見交換する裁判員経験者ら=奈良地裁で2024年2月22日午後2時6分、川畑岳志撮影
 勤務先の協力が欠かせない。厚生労働省の委託調査では、裁判員休暇を認めている企業は半数にとどまる。小規模なところほど浸透していない。
 大学などの取り組みも重要になる。成人年齢の引き下げで、昨年から18、19歳も裁判員に選ばれるようになった。参加した学生が成績などで不利益を受けないように配慮すべきだ。
 公判が始まるまでの時間が、年々長くなっていることも問題視されている。事前に裁判官と検察側、弁護側で争点を整理する手続きが長期化しているのが原因だ。
 法廷での審理を短くし、市民が関わりやすくするための手順だが、裁判の開始が遅れれば証人の記憶が薄れ、審理に影響する。改善の努力が求められる。
 最高裁が今年実施した国民意識調査では、裁判や司法に興味があるとの回答は3割に満たない。
 一方で、裁判員を務めた人のほとんどが良い経験だったと振り返っている。「人生や社会について深く考えた」と話す人もいる。こうした声を社会で共有していくことが、関心を高める一助になる。
 法や司法制度を学ぶ場を増やすことも不可欠だ。
 裁判を身近なものにして、司法への国民の信頼を高める。裁判員制度を導入した理念の実現に向け、多くの人が参加しやすい仕組みにしていかなければならない。