裁判員制度15年 参加しやすい環境こそ(2024年5月31日『東京新聞』-「社説」)

 市民が刑事裁判に加わる裁判員制度の開始から15年。経験者の大半が「良い経験」とする一方、裁判員候補となっても辞退する人は約67%に上る。国民に広く浸透したとは言い難い。より参加しやすい制度への改善を求めたい。
 最高裁が昨年、裁判員経験者に調査したところ「良い経験と感じた」人は「非常に良い経験」と合わせて96・5%に達した。
 大いに評価できるものの、残念な数字もある。裁判員裁判が始まった2009年当時に53・1%だった辞退率は徐々に高まり、23年は66・9%と高止まりしているのだ。多くの人が辞退、欠席しては制度の意義が薄まってしまう。
 原因の一つは、裁判員の在任期間である審理期間の長期化だ。09年は3・7日だったが、23年には14・9日になった。長期化に伴い参加できる人は限られていく。
 国は企業などに有給の裁判員休暇を積極的に導入するよう促すべきだ。裁判員年齢が18歳以上となり、大学などの授業や試験と裁判が重なった場合にどう対応するのか、ルールづくりも必要だ。
 気掛かりなのは、争点や証拠を絞り込む公判前整理手続きの期間が長期化していることだ。検察側が段階的に証拠開示するため、1年余りを要する事例もある。
 被告人側がいち早く防御の準備ができるよう、検察側は有罪立証の証拠ばかりではなく、無罪方向の証拠も提出すべきだ。
 裁判員が死刑を選択し得る制度であり、誤判があってはならない。そのためにも、証拠の全面開示に踏み切るべきではないか。
 裁判員制度には、集中審理による迅速な公判審理も期待されており、公判前整理手続きの迅速化は必須であろう。
 前述の最高裁による調査によれば、裁判員に選ばれる前には「やりたくなかった」「あまりやりたくなかった」と回答した人は43・4%に上っていた。
 半数弱が消極的姿勢では裁判員制度が本当に身近な仕組みになっているのか疑わしい。裁判員に厳しい守秘義務が課され、その体験が社会に広く共有されていないことも一因ではないか。
 裁判員制度を充実させ、有効に機能させるには、職場や学校で貴重な経験を語り合えるような環境づくりに努めるべきである。守秘義務を緩和すれば、評議を巡る検証も可能になるだろう。