識者「日テレは当事者としての猛省がない」 セクシー田中さん問題で(2024年5月31日『毎日新聞』)

  • 芦原妃名子さんのX(ツイッター)への最後の投稿=スクリーンショットより
芦原妃名子さんのX(ツイッター)への最後の投稿=スクリーンショットより

 昨年秋の日本テレビ系連続ドラマ「セクシー田中さん」の原作者で漫画家、芦原妃名子(ひなこ)さんが急死した問題を巡り、日テレは5月31日、外部弁護士も加えた社内特別調査チームによる調査報告書を公表した。芦原さんは1月末に亡くなる前に、脚本を巡って日テレ側と食い違いがあったことなどをネットに投稿していた。報告書は主な原因として、日テレなどの制作者側と、原作者や版元の小学館側のコミュニケーションがかみ合わず、芦原さんのドラマに対する要望がドラマ化許諾の条件に当たる強い要求であると制作者側に伝わらなかったことなどを挙げ、両者の信頼関係が失われていったとした。

 今回の報告書について、元毎日放送プロデューサーの影山貴彦・同志社女子大教授(メディアエンターテインメント論)に話を聞いた。【平本絢子】

 「報告書では今回の事態を招いたことへの一定の反省は感じられるものの、当事者としての猛省が感じられない。芦原さんが亡くなったこととの因果関係やどれだけの責任があるのかを明らかにしなければいけなかった」

 記者向けに開かれた報告書の説明会で、石沢顕社長が「ドラマの制作関係者や視聴者を不安な気持ちにさせてしまったことに、おわび申し上げる」と謝罪したものの、出席は冒頭だけですぐ退席した。27日の定例社長記者会見で一切説明しなかった姿勢にも疑問を呈する。

 「日本テレビ社長会見の場で説明しなかったことは組織として『逃げ』だと感じる。コミュニケーションを重視するとしていながら、小学館へのヒアリング調査が書面でのやり取りになった点も疑問だ」

 ドラマなど番組の制作現場では、さまざまなトラブルに見舞われがちだ。今回の報告書が、今後に向けた「提言」になっているかはあやしい。

 「ドラマの制作現場では、人手や制作費が少ない現状がある。日本テレビに限らず、今回の問題に似たケースを経験したことがある現場は多いはずだ。報告書には、十分な制作期間を確保することも記されていたが、どのように実現させるのか具体策に乏しく、組織の立て直しも含めて検討すべきではないか」

 その上で「今回の問題を受けて、ドラマ化での原作至上主義や制作現場の萎縮につながるようなことは避けるべきであり、そのための制度作りをする必要がある」と現在の作り手たちを思いやった。