ドラマと原作 問われる作家への敬意(2024年3月1日『信濃毎日新聞』-「社説」)

 原作者の意思を尊重する原則を改めて徹底しなければならない。

 日本テレビが制作したドラマ「セクシー田中さん」の原作者である漫画家芦原妃名子さんが、1月末に死去したことを巡る問題だ。

 芦原さんはブログなどに、ドラマ制作過程で日テレ側と見解の相違があり、混乱した経緯などを投稿。その3日後に栃木県内で死亡しているのが見つかった。

 自殺とみられる。理由は不明だ。原作を出版した小学館と日テレ間のやりとりも明確ではない。

 ただ、芦原さんがつづったとされる文章からは、「必ず漫画に忠実に」を前提にドラマ化に同意したのに、意向に沿わない形で制作が進み、何度も修正した苦悩が浮かび上がっている。

 死去が報じられた後、一部の漫画家や編集者が過去のドラマ化で原作を勝手に改編された経験をSNSに投稿するなど、ドラマ制作の問題点を提起している。

 小学館は2月8日の声明で「芦原先生の要望をドラマ制作サイドに誠実、忠実に伝えた」と説明。一方で担当した脚本家はSNSに「ブログに書かれた経緯は初めて聞くことばかり」と記している。

 現場で何が起きていたのか。痛ましい出来事を繰り返さないために、事実の解明が必要だ。日テレの調査が鍵になる。弁護士らが参加する特別調査チームを発足させ、経緯を検証するという。客観的に調査を進め、詳細な結果を迅速に報告する必要がある。

 ドラマ制作では、宣伝力の大きいテレビ局側の発言権が強くなる傾向があるとされる。

 日本シナリオ作家協会が配信した動画もその一例だろう。芦原さんの死去後に「原作者と脚本家はどう共存できるのか」と題した対談を動画サイトに掲載。この中で脚本家が原作者を揶揄(やゆ)するような発言をして問題視された。協会は削除して謝罪している。

 二次的著作物を制作するには、法律上、原作者の承諾を得なければならない。ドラマ制作の現場に原作を軽視する風潮があるとすれば看過できない。演出上、改編の必要がある時でも原作者の意向を尊重し、対話を重ねて承諾を得るのが当然だ。

 契約の問題も指摘されている。ドラマ化では原作者と包括的な契約書を交わすものの、演出の詳細までは書面で取り決めないのが一般的だ。専門家からは原作者の意向を文書にする重要性を指摘する声が出ている。各局は検討していく必要がある。