連続ドラマ「セクシー田中さん」の原作者で漫画家の芦原妃名子さんが死去した問題を受け、日本テレビの石沢顕社長は2月の定例記者会見で、「痛ましい結果。極めて厳粛に受け止めている」と語った。ドラマ化に当たり取り交わされた契約書や「特別調査チーム」のヒアリングについてなど、1時間余りにわたる会見の内容を詳報する(※記者会見でのやりとりを基に、発言内容や質問の順序を再構成しています)。
【時事ドットコム取材班】
【画像】日本テレビが記者会見で公表した「特別調査チーム」に関するプレスリリース
◇「速やかに調査を進める」
【記者会見は2024年2月26日午後2時から、東京・汐留の日本テレビ本社で行われた。石沢社長のほか、取締役専務執行役員の福田博之氏と於保浩之氏、取締役執行役員の沢桂一氏が出席。まずラジオ・テレビ記者会の幹事社から代表質問が行われた。主なやりとりは以下の通り】
ードラマ「セクシー田中さん」の原作者、芦原妃名子さんの急逝に関して、石沢社長の受け止めを。
石沢社長:痛ましい結果だった。まず芦原妃名子さんに哀悼の意を表したい。そして、ご家族の皆さまにも心よりお悔やみを申し上げたい。今回の事態については極めて厳粛に受け止めている。外部の有識者に入っていただき、特別調査チームを発足したので、速やかに調査を進める。真摯(しんし)に客観的に検証し、全ての原作者、脚本家、番組制作者の方々が一層安心して制作に臨める体制の構築に努めたい。
ー事実関係の経緯は、いつどのような形で明らかにされるのか。
石沢社長:言うべき最小限のことについてはホームページなどで情報発信しているが、経緯を改めて客観的に検証する必要があると考えており、既に調査チームがヒアリング等の調査に入っている。動画コンテンツをどう展開していくかについては、原作者側にもさまざまな考え方があり、脚本化する際のワークフローも多様だ。「セクシー田中さん」の制作上の経緯を客観的に、真摯に検証し、教訓部分を見つけ出して再発防止を図る。調査結果や対応策のとりまとめには時間も必要かと思うが、可及的速やかに作業を行って、公表すべき調査結果については適切なタイミングでしっかりお伝えしたい。
ー芦原さんは原作に忠実なドラマ化を求めていたようだが、そうではない脚本ができあがっていたようだ。脚本家の方が自発的にアレンジしたのか。それとも日テレ制作陣による指示だったのか。
石沢社長:経緯については社内で確認し、一通りまとまっているが、客観性を持って事実関係などを検討するためには、外部の有識者に調べていただくことがより良いと考えている。
◇遺書の内容「把握せず」
【幹事社からは、ほかに旧ジャニーズ性加害問題やお笑いコンビ「ダウンタウン」の松本人志さんの訴訟などについての質問があった。
続いて各社から質問が寄せられたが、セクシー田中さんの問題について尋ねるものが大半を占めた】
ー第三者委員会設置という選択肢もあったかと思うが、外部有識者による調査チームとした理由は。
石沢社長:ドラマ制作の基本的な流れと、今回の事案についてしっかり記録に残しておくことも含めて、日本テレビがしっかりとサポートし、第三者の先生(外部有識者)のご意見も含めて幅広く受け止めながら、再発防止ができるように進めていきたいと考えている。
ー原作者の方が何にストレスを感じて亡くなられたか、遺書などの内容については、小学館経由で把握しているのか。
石沢社長:基本的には小学館さんを通じて、これから協力をいただくことになる。 福田専務:こちらではまだ正確に把握している状況ではない。調査チームからヒアリングをさせていただきたい。
ー小学館から情報が入ってきたときは公表するか。
石沢社長:小学館さんに協力いただけるということなので、これからヒアリングして全体像を把握した上で、より良い制作体制があるのであれば、そこを求めていくという方向性になる。
◇契約書はどうなっていた?
ー原作を使うに当たって契約書が当然あると思うが、原作者の方が主張していた「原作に手を加えない」という取り決めは書面に書かれていたか。
福田専務:できあがった作品の二次利用等については契約を結ぶことになっているが、ドラマ制作の詳細についての契約書は存在していない。
ー契約書は作品の二次利用についてのみで、制作過程や著作者人格権については文書を交わしていないということか。
福田専務:作品ごとには(著作者人格権などについて定めた契約書は)ないということ。法律に基づいた部分での約束事は当然あるが、それをその都度文書で取り交わしているわけではない。
【この部分について、日本テレビ側は会見終了後に文書で補足。セクシー田中さんについては「通常作品ごとに交わす『原作契約書』が存在する」とした上で、福田専務の説明は「著作者人格権だけを定めた契約書を(個別に)交わすことはなく、著作者人格権の扱いについては原作契約書の中で規定されることが一般的ということ」と説明した】
ー日本テレビのドラマ制作の現場では、個別の作品について通常、権利者と契約を交わすことはないということ?
福田専務:通常は、内容について(契約書で)約束を確認していることはない。
ー調査結果の具体的な取りまとめ時期は。
石沢社長:できるだけ早くが望ましいが、締め切りを切って無理なまとめになってはいけない。過不足のない調査をしていただいた上で、まとまり次第できるだけ早く共有したい。
ードラマの放送枠が増え、ネット配信との競合関係もあり、制作現場はマンパワー的にも制作時間的にもかなり厳しい状況にあるのではないかと感じるが。 福田
専務:ご指摘の通り枠自体も増えているし、作る本数という意味でも増えている。これについては必要な増員をすべく取り掛かっている最中。セクシー田中さんの案件について「コミュニケーション不足だったのではないか」「人が足りていなかったのではないか」といった想像はできると思う。そのあたりを特別チームがしっかり調査をしてくれると認識している。
ー調査対象は日テレ社員だけではなく、小学館や脚本家、制作会社などもヒアリング対象と考えていいか。
石沢社長:対象にさせていただきたいと考えている。 ◇別の漫画原作ドラマも制作中止に
ー4月期に放送予定だった小学館の漫画原作のドラマ制作を見送った。改めて経緯の説明を。
福田専務:先ほどからご質問いただいている事案が起きてしまったことを前提として、関係者で検討を進めた結果、企画を変えるという決心に至ったということ。準備していたタイトルの扱いはまだ決まっていないが、4月枠で何を放送するのか、どういう作品を作るのかについては鋭意検討中だ。
ー小学館原作のドラマの制作は、調査が進んで再発防止が徹底できてからということか。
福田専務:「小学館さんとはもう組まないのか」ということですか?ないともあるとも言えないが、特別チームが調査しているので結果を待ちたい。(Q.原作があるドラマの制作はしばらく見送るということか)そういうことではない。
ー準備されていた俳優、演者さんは大変だと思うが。
福田専務:丁寧にご説明をしておわびをしている状況。本当に申し訳ないと思っている。
(Q.放送すべきだという意見も出演者やスタッフから出ていた?)
当然さまざまな意見はあった。
ー契約書に「原作に触らない(改変しない)」という文言がなかったのであれば、小学館を介した、日本テレビのプロデューサーとの口約束でしかなかったという解釈でよいのか。
福田専務:そのあたりを特別調査チームが調査します。
(Q.契約書に書かれていなかったらそれが事実になるのでは)
契約書はないです。
(Q.原作者の方は『何度も約束した』とSNSに書いていた。原作者の方はそういう認識だった)
原作者の方はそういう認識で、そうおっしゃっているということです。
ー死去当日に日本テレビから出されたコメントの中では、「最終的に許諾をいただけた原稿」を前提に放送されているとあった。これは、この時点でどういう根拠があって発信したのか。
福田専務:根拠があるので、あのような申し上げ方になった。 石沢社長:私も冒頭で申し上げた通り、しっかり公表できることについてHPでご報告申し上げたということですので、報告できる話として公表しております。
◇社内対応に問題はなかったか
ー昨年12月末時点で、既にトラブルと言っていい状況だった。そこから調査に至るまでにだいぶ時間が掛かったと思うが、どういったプロセスで社内調査に至ったのか。
石沢社長:個人攻撃とかいろんな形で情報が飛び交っている状態で、情報発信そのものを控えていた。ただ、遅すぎたという批判については、そのようには考えてはいない。しっかり客観的な検証ができればと思って今進めているところで、速やかに皆様にご報告する。
ー亡くなってから2週間程度で調査を行うと公表に至った。事案が起きたあと、どうするか対応を考えるのに時間がかかったということか。
石沢社長:そうかもしれませんね、私たちも余りにも突然で、少しびっくりしたところからスタートしていますので…。
ー個人攻撃につながるので情報発信を控えていたというのはどういうことか。
石沢社長:一つの情報を解釈・拡散して、それがまたステークホルダーの方々に伝わるということが起きているように感じたということ。新しい情報をいちいち発信するのがいいのかどうか、総合的に考えた結果、批判はあるかもしれないが、これが一番良かったのかなと思って決めた行動です。
ー最初に「事実関係を調査し結果を発表する」と表明する方法もあったと思うが。
石沢社長:調査はもう始まっていましたからね、実際的に。ご批判はあるかもしれませんが、表立った対応についてはご指摘の通り。
ー先ほど芦原さんの急死が「あまりにも突然でびっくり」とおっしゃっていたが、芦原さんは10月10日時点で、ドラマ化に戸惑いを示すコメントを出していた。日本テレビとしてはその状況を軽視していたのでは?
福田専務:軽視はしていなかった。社内でトップも含めて把握していたかというとそれはなかったと思うが、現場ではドラマ10話を制作するために努力を重ねていたとご理解いただけるとありがたい。
(Q.現場レベルでは既に対応に動いていた)もちろんそうです。
石沢社長:誤解がないように申し上げますが、驚きと申し上げたのは芦原先生が自死なされたと聞いてあまりにもびっくりしたということ。知りうる限り、各ステークホルダーの皆さんはしっかりと努力しながら最善を見定めて動いていたと思う。
福田専務:原作のあるものを作品化するのであれば、約束事を(書面で)取り交わしておいたほうがいいんじゃないかという考え方もあるが、各局の中で日本テレビだけが突出して突っ走るわけにはいかないところもある。原作者の方がいらっしゃるタイトルの映像化について、今までのやり方だとこういうことが起きてしまったというのは事実。今後そのようなことがないよう、なんとかしていかないといけない。
◇原作トラブル「過去にも」
ー過去、こうした原作者とのトラブルはあったか。
福田専務:どこからがトラブルかということもあるが、映像化するまでの意見の食い違いは全く起きないこともあるし、起きることも過去においてあった。
(Q.今回は原作者の思いとのずれがこれまでより強かった?)
それは分かりません。それを調べようとしているところです。
ー脚本家の方は昨年11月24日、SNSに脚本について投稿し、28日に追加で「9話、10話を書いたのは原作者だ」という内容を投稿していた。24日に投稿した時点で、現場レベルで投稿を差し止める方向に動いたことはなかったのか。
福田専務:脚本家ご本人と話はしていたと聞いています。細かい時系列は把握できていません。
ー「セクシー田中さん」は、動画配信サービス「Hulu(フールー)」で今も配信されている?
石沢社長:配信は続いています。
(Q.特に中止予定はない?)
福田専務:はい。
《開始から約1時間10分で会見終了》