「伝単」は敵の戦意喪失などを狙った宣伝ビラのことで…(2024年5月31日『毎日新聞』-「余録」)

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ゴミや汚物を入れた袋を付けて韓国の田んぼに飛来した風船=2024年5月29日、ロイター
 
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北朝鮮を批判するビラを付けた風船を飛ばす脱北者団体関係者ら=韓国・坡州の臨津閣で2012年4月28日、西脇真一撮影
 
 「伝単」は敵の戦意喪失などを狙った宣伝ビラのことで「紙の爆弾」とも呼ばれた。元々は中国語だが、抗日の伝単に悩まされた日本軍もそのまま使った。太平洋戦争では日米双方が飛行機でばらまいた
 

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▲日本の伝単は若い女性のイラストなどを使い、望郷の念を引き起こすことを狙った。米側は日本に不利な戦況を伝え、戦争継続の無意味さを強調した。心を揺さぶるか。理性に訴えるか。対比が興味深い
▲韓国語も伝単由来の「チョンダン」。朝鮮戦争では日本で印刷した宣伝ビラを国連軍がまき、北朝鮮も対抗した。総計28億枚という。休戦後も風船でビラを落とす宣伝合戦が続いた。かつては医療費無料など体制の優位性を主張する北朝鮮のビラもあったらしい。時折、日本にもたどり着き「謎の風船」とニュースになった
▲通信手段の発達で伝単は過去の遺物と思っていたが、イスラエル軍もガザに人質の情報提供を求めるビラを散布した。韓国にはビラではなくゴミや汚物の入った袋をぶら下げた大量の風船が飛来している
▲韓国の脱北者団体が金正恩キム・ジョンウン)体制を批判するビラや動画入りメモリーなどを入れた風船を飛ばしたことへの対抗措置らしい。中身を選ぶのは「表現の自由」という北朝鮮側の言い分の支離滅裂さに戸惑う
日中韓首脳会談に合わせて衛星発射を試み、弾道ミサイルの発射実験も続けて「強国」を装うが、体制批判が国内で流布されるのは困るのだろう。とにかく風に流され、東に到来することだけはご免こうむる。