韓国与党の大敗 対話重ね丁寧な運営を(2024年4月14日『北海道新聞』-「社説」)
韓国の総選挙で、尹錫悦(ユンソンニョル)政権の保守系与党が大敗した。
選挙は来月で就任2年を迎える尹政権の中間評価と位置づけられていた。政府と国会の「ねじれ」は解消されず、尹氏は引き続き少数与党で政権を担う。
韓悳洙(ハンドクス)首相や大統領府高官らが引責辞任を表明し、単独過半数を大きく上回った革新系の野党第1党は勢いづいている。尹氏の求心力の低下は避けられまい。
元検事総長で政治経験のなかった尹氏は突破力をアピールしてきたが、独善的との批判もあった。民意はそうした政治手法に厳しい判断を下したと言えよう。
敗北を受けて尹氏は「謙虚に受け止めて国政を刷新する」と表明した。対話を重ねて合意を導く丁寧な政権運営が求められる。
尹氏は日韓関係の改善に取り組んできたが、野党には批判的な声がある。良好な関係を続ける努力が日韓双方に欠かせない。
尹氏はもともと大統領選では僅差の勝利で、国会も少数与党だった。にもかかわらず政府の要職に検察出身者を多く起用したり、国会を通過した法案への拒否権を乱発したりして支持率は低迷した。
最近も医療界の改革問題に関して強硬一辺倒で、混乱を招いた。
政治手法を改めなければ早々にレームダック(死に体)化しかねないことを認識する必要がある。
韓国社会は超少子化や格差拡大、若者の就職難、物価高など、問題が山積している。
選挙戦では本格的な政策論争が期待されたものの、結局は与野党間の激しい非難合戦が目立った。
韓国政治に根強い保守と革新の分断は、さらに深まった。尹政権は野党の協力なしでは予算や政策の推進が困難である。
国内の分断がますます広がり、社会は不安定化する一方だ。与野党とも亀裂の修復に努め、協調を図ることが不可欠である。
尹氏は戦後最悪と言われるほど冷え込んだ日韓関係の改善に努めた。方針は変えないとみられる。
ただ、韓国国内には歴史認識問題への不信感が根強い。
尹政権は昨年、最大の懸案である元徴用工を巡る問題で、韓国政府傘下の財団が日本企業の賠償金相当額を肩代わりする解決策を示した。野党は撤回を訴えており、問題が再燃する可能性がある。
知日派の与党議員が相次ぎ落選したことも影を落とす。
日韓関係を後退させないためにも日本政府は歴史問題を直視し、共に解決策を模索するべきだ。
韓国総選挙 関係改善の流れ止めるな(2024年4月14日『茨城新聞』-「論説」)
韓国総選挙は、最大野党「共に民主党」が議席の半数以上を獲得する圧倒的勝利を収め、尹錫悦(ユンソンニョル)政権の保守系与党「国民の力」が惨敗する結果となった。尹氏の政権運営がさらに厳しくなり、野党は対日政策にも批判を強めることが予想される。関係改善の流れを止めないためにも、今こそ日本は積極的な努力をすべきだ。
大統領就任から2年となる尹氏にとって、今回の総選挙は「中間評価」の意味合いを持つ。尹政権を支える与党は少数派で、国会での対応に苦慮してきたことから、政権と議会のねじれを解消し、安定した基盤で残り3年の任期を送ることをもくろんでいた。
しかし、共に民主党は議席を増やし、文在寅(ムンジェイン)政権で法相を務めた曺国(チョグク)氏の率いる革新系新党「祖国革新党」も躍進した。迅速な法案採決が可能となる5分の3以上の議席を野党勢力が占め、与党の自由度はさらに狭まることとなる。
こうした結果を招いた最大の原因は、尹氏の独善的な政治手法にある。批判に耳を傾けず、過去に自らがトップを務めた検察出身者を政権で厚遇し、妻の不正疑惑では特別検察官が捜査する法案に拒否権を行使した。物価高騰などで庶民の生活が苦しさを増す中で、身内に甘い姿勢は「不公正」と映り、政権審判を訴える野党の主張が支持を集めた。
2022年3月の大統領選で、尹氏は共に民主党の李在明(イジェミョン)代表を破って当選したが、その票差はわずか0・7ポイントで、民意が分断された中での船出だった。それだけに、尹氏には謙虚な姿勢が求められていたが、トップダウン形式で進めるワンマンな手法に、当初は様子見だった有権者も、次第に批判を強めてきたと考えられる。
もっとも、そうした尹氏のスタイルによって、事態が進展したものもある。
その一つが、日本との関係改善だ。歴史問題を巡って文政権下では日韓関係が冷え込み、その水準は戦後最悪とも言われた。だが、最大の懸案だった元徴用工訴訟問題の解決策を昨年3月に発表し、シャトル外交の復活など日韓関係は急速に改善した。
日本重視の姿勢には、韓国世論から「一方的に譲歩しすぎだ」との批判を浴びた。
だが、日韓関係の改善は尹政権にとって成果であり、総選挙での敗北を受けて、その方向性が揺らぐとは考えにくい。むしろ、米国との連携強化や、北朝鮮への強硬策と並び、対日政策も政権のカラーとして強化していく可能性もある。
一方で、野党は外交面でも尹氏に対して批判を強めるとみられ、日本との関係もその対象となることは確実だ。
李氏は日韓の歴史問題に関する尹氏の姿勢を強く非難してきただけに、対日政策の見直しを迫ってくるだろう。その背景に、歴史問題について日本からの積極的な対応がない、という韓国での根強い不満があることを見逃してはならない。
27年の次期大統領選を見据え、与野党内での権力抗争が高まっていく中で、日本との関係が政争の渦に巻き込まれることも予想される。尹氏は世論への丁寧な対応が求められるが、日本も長期的な関係維持に向け、歴史問題で韓国にくすぶり続ける不満を和らげるための、より一歩踏み込んだ対応をとっていく必要がある。
韓国与党大敗 日米との結束を堅持せよ(2024年4月14日『産経新聞』-「主張」)
韓国総選挙で尹錫悦大統領を支える保守系与党「国民の力」が大敗した。3年余の任期を残す尹氏が困難な政権運営を迫られるのは必至だ。
だが、尹氏には日米韓の協力を基軸とする安全保障政策を堅持してもらいたい。
尹政権はこれまで北朝鮮の脅威を直視し、自衛隊、米軍、韓国軍の共同訓練を進めてきた。日本との間では、文在寅前政権が運用を止めた日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を正常化させた。
中国から圧力がかかるにもかかわらず、台湾情勢に関し「台湾海峡の平和と安定が重要だ」との認識も表明してきた。このような姿勢は評価できる。
今回の選挙戦では、安保政策の議論は深まらなかった。最大野党「共に民主党」は、「徴用工」問題などで政権や与党を「日本に譲歩した『親日』だ」と攻撃して、圧勝した。このようなレッテル貼りが通用するような韓国社会は、極めて残念である。
共に民主党の李在明代表は選挙期間中に「台湾海峡がどうなってもわれわれには何の関係もない」と発言した。中国の台湾侵攻と北朝鮮の韓国攻撃が同時に起こる可能性が指摘されているにもかかわらず、まるで人ごとだ。
2008年に大統領に就任した保守系の李明博氏は当初、未来志向の日韓関係を掲げていた。だが、実兄や側近の金銭スキャンダルが原因で支持率を落とし、政権末期の12年、島根県の竹島に不法上陸した。
在位中の上皇陛下に対し「歴史問題」で謝罪を要求するという極めて非礼な発言までした。これらの暴挙や暴言は、多くの日本国民に「負の記憶」として刻まれている。
外交・安保は大統領が主導するものである。親北傾向のある野党の圧力に屈しないでもらいたい。日韓、日米韓の安全保障の結束が弱まることは、専制主義国家である中露朝の独裁者を喜ばせるだけだ。
林芳正官房長官は11日、記者会見で、日韓の「関係改善を持続的に実感できるよう、引き続き韓国側と緊密に意思疎通する」と述べた。レーダー照射や「徴用工」などをめぐる日本側の懸念は解消されていない。これらに毅然(きぜん)とした態度を貫く必要がある。