政治家の寄付控除悪用 倫理観の欠如にあきれる(2024年5月31日『毎日新聞』-「社説」)

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安倍派から還流された資金を原資に税優遇を受けた疑惑について記者会見する菅家一郎氏=衆院第1議員会館で2024年5月27日、平田明浩撮影
 国民から税を集め、必要な施策に配分するのが政治の役割だ。国会議員が税制度を悪用して優遇を受けるようでは、信頼を失うばかりである。
 菅家(かんけ)一郎元副復興相ら複数の自民党議員が、政党支部に寄付することで所得税の控除を受けていた。自分が代表を務める政治団体に資金を移しただけで、「利益」を得ていたことになる。
 個人が政党または政治資金団体に寄付した場合、所得税の軽減や還付を受けられる制度がある。これを使って、菅家氏は2018~21年の4年間で政党支部に計2378万円を寄付し、数百万円の税優遇を受けたとみられる。
 寄付のうち1289万円は、派閥裏金事件で安倍派から還流された資金が原資だった。この分の控除は148万円に上った。
 そもそも、公益性の高い団体への寄付を促進するために導入した制度だ。特定の企業や団体に頼ることなく、幅広い献金で政治資金を賄い、健全な民主主義を育むという理念に裏付けられている。
 にもかかわらず、政治家が優遇を受けるのは、法の趣旨にそぐわない脱法行為だ。
 「寄付した者に特別な利益が及ぶ」場合は適用されないとの規定はある。政治家個人が自身の後援会や資金管理団体に寄付しても、優遇は受けられない。だが、政党支部については明確な基準がないため、「抜け道」となってきた。
 政党支部が、代表の政治家と一体になっている実態が背景にある。政治家が自由に使える「財布」の役割を果たしており、菅家氏の場合も支部を通じて自らの後援会や自身に資金が還流していた。
 問題はかねて指摘されていた。13年には自民、旧民主、日本維新の会の3党の国会議員計17人が税優遇を受けていたと報じられた。
 菅家氏は「何ら法に違反していない」と強弁し、「私だけじゃない」と開き直った。倫理観の欠如にあきれるしかない。
 自民の森山裕総務会長は「国民の理解を得られないことは慎むべきだ」と語った。国会で審議中の政治資金規正法改正の自民案には、税優遇措置見直しの「検討」が入ったが、それだけでは不十分である。制度の悪用を直ちに禁止すべきだ。