外交青書 国際協調へ積極的に行動せよ(2024年4月25日『読売新聞』-「社説」)

 自由と民主主義、法の支配を前提とする秩序が危機にさらされている。国際協調体制の立て直しに向け、日本は積極的に行動せねばならない。

 外務省は2024年版の外交青書を公表した。昨年1年間の日本外交を総括し、国際情勢の認識や政策の方向性を示したものだ。

 青書は、ロシアによるウクライナ侵略や中東情勢の悪化などを踏まえ、国際情勢が「歴史の大きな転換点にある」と位置づけた。

 そのうえで、全ての人が安全・安心に暮らせる「人間の尊厳」を外交政策の中心に据え、世界を協調に導いていく方針を掲げた。

 体制や歴史観の違いで一致できなくても、人類の根源的な価値に焦点を当てることで、協調の基盤を見いだそうという考え方は時宜に 適かな っている。だが現状では、そうした基本理念に基づいた外交を実践できているとは言い難い。

 中東情勢は領土、主権の問題や、宗教上の対立で一触即発の状況にある。日本は、中東諸国と良好な関係を築いてきた強みを生かし、緊張緩和に向けた外交を主体的に展開していくことが重要だ。

 青書は、日本周辺の安全保障環境について、中露や北朝鮮の動向を踏まえ、「戦後最も厳しく複雑な状況にある」と指摘した。

 世界の中でも、日本ほど脅威にさらされている国はそうはない。近年、そうした認識は国民の間にも広がっている。

 読売新聞社が2~3月に行った世論調査では、安保環境に脅威を感じている人は84%に上った。

 中国に脅威を感じている人は91%に上り、同様の質問をした前年調査より5ポイント上昇した。ロシアは4ポイント上がり88%、北朝鮮は前年と同じ87%だった。日本の防衛力強化には71%が賛成した。

 日米同盟は日本外交の基軸だが、脅威はかつてなく増大しており、これまでのような米国頼みでは安全は守れない。自ら対処能力を高めていくことは急務だ。

 青書はまた、日中関係について双方の利益を追求する「戦略的互恵関係」という表現を5年ぶりに使い、協調の必要性を唱えた。そのためにもまず、威圧的な活動を自制するよう中国に求めたい。

 青書は、韓国を「協力していくべき重要な隣国」と位置づけた。尹錫悦政権が日韓関係の改善に取り組んだことを踏まえている。

 ただ、先に行われた韓国総選挙では尹政権の与党が敗れたため、日本に批判的な左派勢力が勢いづく可能性がある。政府は韓国の政治情勢を注視する必要がある。