だいぶ花弁を落とし、葉が出てきてもまだ咲き誇る桜並木を眺めていると、良寛和尚の辞世の句が頭に浮かぶ。<散る桜 残る桜も 散る桜>。出会いと別れの季節である春は、特に無常を感じさせる。人生には限りがあり、いつか必ず最期が訪れる。だからこそ与えられた時間は大切なものである。
▼米国訪問中の岸田文雄首相は10日、ワシントンのホワイトハウスで開かれた歓迎式典で、米国に新たに250本の桜を寄贈すると表明した。近くのポトマック川沿いには約3800本の桜が植えられており、日米友好の象徴となっている。
▼「日米同盟という桜の絆はこの地で、インド太平洋で、そして世界各地でさらに太く強くなっていく」。12日の読売新聞によると、式典で首相はこうあいさつした。日米同盟の深化は、世界の平和と繁栄に資する。米側の厚遇は、日本に対する期待の表れだろう。
▼首相が政府専用機に乗せ持参したソメイヨシノはもともと1本の木のクローンであり、花は咲いても実を結ぶことはない。一定の美観を保つには、新たな株を植え続けなければならない。不断の手入れが必要という点でも、国同士の同盟と一緒だろう。
▼<明日ありと思ふ心のあだ桜 夜半に嵐の吹かぬものかは>(親鸞)。今はきれいに咲き乱れていても、明日の朝には散っていることもあるだろう。首相が米民主党のバイデン大統領との友情をいくら強調しようと、11月の大統領選では共和党のトランプ前大統領が返り咲くかもしれない。
▼首相は相手が誰であれ、唯一の同盟国の大統領とは良好な関係を築くほかない。<散ればこそいとど桜はめでたけれ うき世になにか久しかるべき>(作者未詳)などと言ってはいられない。
日米同盟強化 国民への説明軽んじるな(2024年4月13日『西日本新聞』-「社説」)
訪米中の岸田文雄首相がバイデン大統領と会談し、安全保障分野の連携強化に合意した。自衛隊と米軍の一体的な運用が加速する。
日米同盟が「前例のない高みに到達した」と誇らしげだが、国民への説明もなければ国会論議も経ていない。首相の姿勢は前のめり過ぎる。
首脳会談で両国は「グローバル・パートナー」として、世界的な課題に協力して取り組むことを確認した。
特に注目すべきは、自衛隊と在日米軍の部隊運用に関わる「指揮・統制」の連携強化である。これまでの米軍再編に伴う司令部機能の集約、基地の共同使用、集団的自衛権の行使容認から、さらに踏み込んだ。
指揮・統制の連携強化が進めば、有事の際に自衛隊が米軍の指揮下に組み込まれる恐れがある。当然、憲法との兼ね合いが問題になる。日本の指揮権の独立を損なうことがあってはならない。
アジア太平洋地域では、力や威圧による現状変更の試みを強める中国やロシア、北朝鮮の脅威が増している。平和と安定を維持するために、日米両国が連携して抑止力を高める必要性は理解できる。
ただし安保政策の変更はリスクや負担を伴う。国民の理解や合意を得る必要があるのに、首相はその過程をあまりにも軽んじている。
反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有を明記した安保関連3文書の改定が象徴的だ。防衛政策の大転換であるにもかかわらず、国会閉会中に閣議決定だけで済ませた。殺傷能力のある武器の輸出解禁もそうだった。
今回の日米同盟強化は米国で初めて明らかにされた。国民の生命に関わる防衛、安保政策をなし崩し的に変更することは許されない。
岸田首相の訪米は、2015年の安倍晋三氏以来の国賓待遇だった。日本が22年に反撃能力の保有や防衛費増額を決めたことに対し、バイデン政権が高く評価した結果だといわれる。
同盟の強化により、今後も米国からさまざまな協力を求められそうだ。中国や台湾に近い九州・沖縄の防衛関連施設の使用を求められる可能性もある。
地域の平和と安定は、安全保障の強化だけで実現できるものではない。日本政府には中国との対話を求めたい。
日米首脳が共同声明で中国を名指しで批判すると、中国政府は「強烈な不満」を表明した。日米の連携が対中包囲網の強化と映れば、中国との溝はますます深まる。
米国は中国と厳しく対立する半面、政権幹部や高官が中国政府との対話を継続している。その積み重ねは危機管理になる。日本にはこのような動きがほとんどない。
外交まで米国偏重になるのは危うい。日本は戦後築いてきた平和国家として独自の外交を展開し、地域の緊張緩和に貢献すべきだ。
日米首脳会談 沖縄無視の同盟強化だ(2024年4月13日『琉球新報』-「社説」)
日本の米国追随姿勢は目に余る。沖縄にさらなる基地負担を強いるような同盟強化、軍事一体化を受け入れるわけにはいかない。
岸田文雄首相とバイデン大統領の日米首脳会談は、日米同盟の抑止力、対処力の一層の強化は急務とした上で、自衛隊と在日米軍の連携強化に向けた指揮・統制枠組みの見直しで合意した。
発表された日米首脳共同声明は沖縄を含む南西諸島での同盟の戦略態勢の最適化を明記した。普天間飛行場の返還・移設については「辺野古が唯一の解決策」という従来の姿勢を繰り返した。
「南西シフト」を軸に自衛隊と米軍の一体化運用を強く打ち出した日米首脳会談や共同声明は基地負担の軽減を求める県民の願いと逆行するものだ。沖縄を無視した同盟強化だと言わざるを得ない。
在沖米軍基地がもたらす人権侵害や環境破壊に苦しみ、有事の際に攻撃目標となる自衛隊基地の増強に危機感を抱く県民の姿は眼中にないのだろう。沖縄の苦境を打開しようという意思がうかがえないことに深く失望する。
普天間飛行場の返還合意から28年が経過した。「辺野古唯一」への固執は日米両政府の思考停止を示すものだ。軟弱地盤の存在から難工事が予想される新基地建設が現実的な手法なのか、両政府は再検討に踏み切るべきだ。普天間飛行場の危険な状態を放置することは許されない。
首脳会談や共同声明を通じて、日本の米国への追随姿勢は一層鮮明になった。それは岸田首相による連邦議会上下両院合同会議における演説でも如実に表れている。
2015年の安倍晋三元首相以来、日本の首相として2例目となる演説で岸田首相は、日本を「米国のグローバル・パートナー」と位置付けた。両国が世界の平和と繁栄に「責任を担っている」と強調し、日本は「堅固な同盟と不朽の友好を誓う」と述べた。
さらに、中国は国際社会の平和や安定への戦略的挑戦をもたらしていると言明した。北朝鮮の核・ミサイル計画に関しても東アジアにおける直接的な脅威とした。その上で、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保持を可能にする22年末の国家安全保障戦略の改定に触れ、「私自身、日米同盟を一層強固なものにするため、先頭に立って取り組んできた」とアピールした。
中国や北朝鮮を日米両国の共通する脅威と見定め、米国の戦略に追随し、補完するような日本の外交・防衛政策は沖縄を固定的に軍事拠点とするものだ。武力に武力で対抗するのではなく対話重視の外交姿勢に転じるべきだ。
首相演説では「平和」「安定」と共に「自由と民主主義」という言葉が出てくる。残念ながら沖縄はその埒外(らちがい)に置かれている。民主主義国家を掲げるならば、日本政府は沖縄の声を国内政治と対米交渉に反映させなければならない。
日米首脳会談 一体化で増す基地負担(2024年4月13日『沖縄タイムス』-「社説」)
岸田文雄首相とバイデン米大統領の日米首脳会談で前面に押し出されたのは、一層の同盟強化と一体化だ。
「未来のためのグローバル・パートナー」と題した共同声明では、世界のあらゆる課題に日米が共に対処することを強調。「日米同盟は前例のない高みに到達した」とうたう。
特に踏み込んだのは、自衛隊と米軍の指揮・統制機能の見直しだ。
自衛隊が今年度中に陸海空の部隊を一元的に指揮する「統合作戦司令部」を設けるのに合わせ、米側は在日米軍司令部の体制を強化。共同訓練の企画立案や実動部隊の限定的な指揮権を付与する案を検討している。
指揮・統制機能の一体化を懸念する声に対し、政府はあくまで指揮系統は別だと強調する。だが、質量共に圧倒的な米軍の指揮権の下で自衛隊の独立性が本当に担保されるのか。
日米安全保障条約は、憲法9条を前提として米軍を「矛」、自衛隊を「盾」とする役割分担が主体だった。日本が敵基地攻撃能力を保有したことで米軍と指揮・統制機能の調整が必要になった。
防衛力の一体運用が進めば同盟の質的な変容は避けられない。合意の前に国民への説明が先だ。
岸田首相は米連邦議会の演説でも日本国民が「米国と共にある」と強調。平和、自由、繁栄に「共に大きな責任を担っている」とした。
専守防衛を原則とする日本と米国には取れる軍事行動に決定的な違いがある。憲法を無視するような前のめり発言で看過できない。
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首脳会談の共同声明では、台湾海峡の平和と安定の重要性も強調。そのため南西諸島などで同盟態勢を「最適化」するとした。
在日米軍施設の7割が集中する県内では、これによりさらなる基地負担の増加が懸念される。
共同声明では地元への影響を軽減するため普天間の移設に関し「辺野古が唯一の解決策」とも繰り返した。
だが、移設完了時期は「早くても2037年」とされる。深海の軟弱地盤の改良工事という不確定要素も抱え、完成はなお不透明だ。
そうした中、県内で実施される日米共同訓練の規模は拡大し、頻度も増えている。米軍普天間飛行場や嘉手納基地の騒音は増え、自衛隊施設はミサイル機能を追加するなど配備強化が進む。
基地負担は軽減どころか増える一方なのである。
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日米が同盟強化を急ぐ背景には、急速な軍拡を続ける中国の存在がある。
ただ、軍備強化は「もろ刃の剣」であり、逆に緊張を生じさせかねない。中国への対抗だけが突出すれば、かえって地域の不安定化を招く。そうなれば国境を接する県内への影響は計り知れない。
首相は会談後の会見で中国を名指して批判する一方、「対話を継続する」とも述べた。実践を強く求めたい。
米国だけでなく中国とも首脳や閣僚級の直接対話が必要だ。
日米首脳会談で了解得た? 急浮上した首相・岸田文雄の訪朝計画(2024年4月13日『日刊スポーツ』-「政界地獄耳」)
★10日に行われた日米首脳会談で、首相・岸田文雄は北朝鮮に関して多岐にわたる問題の解決に向け、北朝鮮の朝鮮労働党総書記・金正恩(キム・ジョンウン)との首脳会談を望んでいることを説明、バイデン大統領は北朝鮮との対話を開始する機会を歓迎するとした。その後の日米共同記者会見の中で岸田は「バイデン大統領から、拉致問題の即時解決に向けた力強い支持を改めて表明いただきました」と答えている。
★昨年の7月、韓国の有力紙「東亜日報」は日朝の実務者が6月に、中国やシンガポールなど第三国で複数回にわたって接触したと報じた。当時の官房長官・松野博一は「報道は承知しているが、そのような事実はない」としていた。その間、北朝鮮はミサイル実験など繰り返しながら今年1月、能登半島地震のお見舞い電報を送るなど、表の接触も怠らない。朝鮮労働党副部長・金与正(キム・ヨジョン)が立て続けに談話を発表したり、会談を拒否する態度に出るなど目まぐるしい反応を見せている。先月25日にも金与正は「拉致問題は解決済み」との談話を出したばかりだが、岸田は国会でも「北朝鮮との間の諸懸案の解決に向けて、首脳会談を実現すべく、私直轄のハイレベルでの協議を進めていく方針は変わりはない」と動じず、秘密接触を示唆している。
★日米首脳からの言葉は少ないが、北朝鮮問題が議題に上ったどころか、双方の情報交換とともに、首相の訪朝の了解を得たのではないかとの見方がある。「日米首脳にとっては(前大統領の)トランプが出しゃばってくる前に日朝関係を前進させることは日米の利害の一致するところ。日本は拉致問題の大きな前進を図りたい考えだろう。ロシアと蜜月な北朝鮮に対して不快感を持つ中国も、今なら乗りやすい」(外交筋)。国内では6月会期末解散説が飛び交うが、訪朝という政治日程が急浮上したとみるべきだ。(K)
(2024年4月13日『しんぶん赤旗』-「潮流」)
上を下への大騒ぎだったにちがいない。江戸市中には「異国船渡来の節は騒ぎたててはならぬ」との町触(まちぶれ)も。黒船来航から1年後、ペリー率いる米艦隊がふたたび姿を現しました
▼開国か交戦か。緊迫のなかで結ばれた条約は言葉の壁にもかかわらず交渉のたまものでした。その経過を追った加藤祐三著『幕末外交と開国』には、格別の偏見や劣等感を抱かず、熟慮し行動した幕府側の姿勢が明記されています
▼国を開き、歴史を大きく変えることになった日米和親条約が締結されたのは170年前の今頃でした。そのあと両国は戦争の相手となり、日本は一時占領されるなど複雑な道すじをたどってきました
▼そして、現在―。「日本は米国と共にある」。岸田首相が米議会で宣言しました。国内では見せられない喜色満面の笑みを浮かべて。「日本の国会では、これほどすてきな拍手を受けることはまずない」。演説のつかみで使った自虐ネタは、この人の厚顔無恥ぶりを表しているかのよう
▼米国が果たしている役割はすばらしいと天までもちあげ、私たちは米国のグローバル・パートナーであり続けると誇らしげに訴えかけた首相。日本を米国の戦争に巻き込む危険も顧みずに。いったい、背負っているのはどちらの国なのか
▼裏金事件もそっちのけで、この演説に備えスピーチライターを雇い、出発前から練習にいそしんでいたそうです。列強のいいなりにならず、主張すべきは主張した歴史はどこへ。いまこそ国中で大騒ぎするときです。