データが示した「医学管理料」の非効率 「生活習慣病」でひんぱんに経過観察する日本 医療費削減の標的に(2024年6月4日『東京新聞』)

 <医療の値段・第3部・明細書を見よう>⑥
 高血圧・脂質異常症・糖尿病の三つの生活習慣病の医学管理料が6月から新しくなった。200床未満の医療機関に限り、これまでは月2回まで算定(請求)できたが、今後は月1回までとなる。この算定回数に着目した調査研究が7年前に行われ、診療所が病院よりも頻回に算定している傾向がすでに判明していた。
◆診療ガイドラインでは診察「数カ月に1回」
 2017年秋に健康保険組合連合会健保連)が発表した「政策立案に資するレセプト分析に関する調査研究Ⅲ」。まず提言の根拠としたのは国内外の学会などの診療ガイドラインだ。
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 高血圧患者の経過観察は「欧州高血圧学会・欧州心臓病学会」が、降圧剤療養により目標血圧到達後は数カ月に1回の診察を推奨。
 「カナダ高血圧教育プログラム」は、降圧剤を処方して目標血圧到達後は3〜6カ月の間隔で経過観察を行うとしていた。
 脂質異常症患者の場合、「日本動脈硬化学会」のガイドライン(17年版)は定期的な検査のタイミングを「薬物療法開始後、半年間は2〜3回程度、その後は3〜6カ月に1回程度」としていた。
 診療ガイドライン 世界中で行われている医学研究の成果(エビデンス)を横断的に審査・検証して、現時点で推奨できる検査や診断、治療法などをまとめた文書。過剰や過少な医療を防ぎ、施設間の診療レベルの格差解消を目指す。第一線の医療者や研究者らがチームを組んで作成する。書店やネットで購入でき、各学会のホームページで公開されていることもある。
◆日本の実態は診察「1~2カ月に1回」
 健保連がもう一つの根拠としたのが膨大なレセプト(診療報酬明細書)データだ。14年10月〜16年9月までの2年間(24カ月)に、高血圧と脂質異常症の治療薬を継続的に処方され、特定疾患療養管理料を算定されていた35.4万人のレセプトを分析した。

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 医療施設別に算定回数の中央値(ちょうど真ん中に来る値)を比べると、診療所(20床未満の医療機関)は1.1カ月に1回の割合で、24カ月で22回算定していた。一方、100床未満の病院の中央値は14回(1.7カ月に1回)、100〜199床の病院は12回(2カ月に1回)だった。
 海外の診療ガイドラインと比べると、日本では診療所を中心に頻回に経過観察を行い、再診料や同管理料などを算定したことになる。診療所の中央値は病院の2倍近くとなっている。
◆診察の頻度とその後の入院発生率に明確な関係はみられず
 健保連は分析対象期間の前半1年間の算定状況と後半1年間に入院が発生する関係を調べ、「算定月数の多寡と入院発生率との間には有意な関係が認められなかった」と結論付けた。算定回数の少ない人が、より重い病気になるわけではなかった。
 その上で、病院レベルに近づけて「仮に、患者に対する特定疾患療養管理料の算定回数を『2カ月に1回に限り算定可』とした場合、医療費の削減額は年間2000億円程度の規模」と推計、算定回数の要件の見直しを提言したのだった。
 提言から6年半。政府は生活習慣病の医学管理料や処方箋料の適正化で、約1220億円の削減を見込む。それでも高齢化や医療の高度化で、24年度の総額の国民医療費は予算ベースで8200億円の増加が見込まれている。健保連の松本真人理事は言う。
 「生活習慣病にどう対処していくかは医療界にとっても大きなテーマ。ただ薬を出すだけでなく、ガイドラインにのっとって、より質の高い医療を『効率的』に提供していただきたい」
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<連載:医療の値段・第3部・明細書を見よう>
 「医療の値段」である診療報酬が6月から改定され、高血圧など3つの生活習慣病の管理料が見直された。患者は全国に約2500万人。診療所やクリニックの収入の柱で「聖域」とされ、過剰な診療も一部で見過ごされてきた。改定で患者や医療現場にどのような影響が出るのかを探った。(杉谷剛が担当します)
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