東京・池袋で2019年4月に母子2人が死亡した乗用車暴走事故の遺族、松永拓也さん(37)と、事故を起こした男性受刑者(92)が29日、判決確定後で初となる面会をした。双方の願いは、再発防止を進めること、だ。
池袋暴走事故は、高齢ドライバー対策を強化した2020年の道路交通法改正のきっかけになった。その効果を調べると、再発防止は道半ばという実情が浮かんだ。
◆死亡事故の発生率は減…でも件数は増えている
改正道交法は2022年5月施行。75歳以上の免許更新で、認知機能検査に加え、一定の違反歴があれば実際に運転し、一時停止などの課題をこなす「実車試験」を課すようになった。
一方、2023年の死亡事故件数は384件で、2021年より約11%増加。75歳以上の免許保有者が2年間で118万人増え、発生率が下がっても事故件数は増えた。免許保有者は今後も増え続け、2025年以降は800万人を超えると推計される。
「団塊の世代が75歳以上になる2025年からが、高齢ドライバーの激増時代」と、高齢者の交通問題を研究する立正大の所正文教授が指摘する。池袋事故の教訓も生かし切れていないとして「対策を見直すべきだ」と訴える。
◆「警察行政だけでは対応できない」
池袋事故を起こした男性受刑者は、認知機能に問題がなかったとされる一方、右足を動かしづらく、パーキンソン症候群の疑いで治療中だった。所教授は「(免許更新時に)認知機能と視力だけでなく、健康面を総合的に医師がチェックする必要がある」と語った。
また「都市と地方では違う」と、車以外の交通手段に乏しい地方在住の高齢者への配慮を求める。
改正道交法では、運転が必要な高齢者向けに運転支援機能のある「サポートカー」限定免許を導入したが、広まらず、有効性が不透明。所教授は「警察行政だけでは対応できない」として、免許返納後の生活支援の充実など、医療や福祉分野と連携した対策を求めている。(福岡範行)