選挙は、国民が政治に参加し、主権者として意思を反映させる民主主義の基本である。その選挙を
「NHKから国民を守る党」などの政治団体が、24人の候補を出馬させ、ポスター掲示の権利を有料で第三者に譲渡したためだ。
党は「あなたのオリジナルポスター24枚を貼ってみませんか?」と呼びかけ、現在1口2万5000円の寄付で、都内1か所の掲示板に貼れると説明している。
選挙の掲示板は、有権者が投票する候補を選ぶため、公費で設置される公共物だ。それを私物化し、ポスターを掲示する権利を、金もうけのために販売するかのような行為は言語道断である。
都内に約1万4000か所ある掲示板のうち、約1000か所分を譲渡したという。知事1人を選ぶ選挙に24人もの関連候補を出馬させたのは、掲示板の枠を大量に確保するのが狙いだったのか。
一部のポスターは風営法に抵触する疑いがあるとして、警視庁が党側に撤去するよう警告した。だが今も放置されている第三者のポスターは少なくない。
公職選挙法には、ポスターの内容を直接制限する規定がない。1976年には最高裁が、ポスターの内容の削除や修正を選管が候補者に求めることは認められないとの判決を出している。
しかし、これはあくまで選挙の自由と公正を守るため、候補者の政見や主張を尊重するという趣旨だろう。候補者以外の人物が好き勝手に掲示板を使うことは公序良俗に反する。容認できない。
警察や行政は、現行法で規制や取り締まりができないか、検討すべきだ。それが難しいなら、候補者以外のポスター掲示や権利の譲渡を禁止するなどの公選法改正を行い、再発を防ぐ必要がある。
4月に行われた衆院東京15区の補欠選挙で、政治団体「つばさの党」の候補らが他候補の街頭演説を妨害し、インターネットで動画配信したことは記憶に新しい。
SNSの普及により、過激な言動で人々の関心を集め、動画の再生回数を稼げば、それが収益につながる構図がある。近年は、悪ふざけのような政見放送を行う候補もいる。選挙の劣化をいかに食い止めるかが根源的な課題だ。