「人生狂わされた」“旧優生保護法下で不妊手術“最高裁で弁論(2024年5月29日『NHKニュース』)

優生保護法のもとで障害などを理由に不妊手術を強制された人たちが国に賠償を求めている裁判の弁論が最高裁判所で開かれ、原告たちが長年苦しんできた思いを語りました。

29日の動きを随時更新してお伝えします。

9:00すぎ

最高裁入り 原告 “国には一言でもいいから謝ってほしい”

原告と弁護団は、29日午前9時すぎ、国に謝罪と補償を求める横断幕を掲げて歩き、最高裁判所に入りました。

原告の1人で都内に住む北三郎さん(仮名)は、「最高裁にはいい判決を出してもらいたい。国には一言でもいいから謝ってほしいと思っている」と話していました。

10:30から

東京と大阪の裁判の弁論行われる 

29日、最高裁判所大法廷で弁論が開かれているのは、旧優生保護法のもとで障害などを理由に不妊手術を強制された人たちが「差別的な取り扱いで憲法に違反していた」と主張して国に賠償を求めている、5件の裁判です。

午前中は東京と大阪の裁判の弁論が行われ、大阪の原告でともに聴覚障害がある高齢の夫婦が手話通訳者を通じて15人の裁判官に思いを伝えました。

70代の妻は50年前、帝王切開で出産しましたが、この手術の時に何も知らされずに不妊手術を受けさせられました。

子どもは生まれてまもなく亡くなりました。

妻は法廷で「最後まで母も誰も、不妊手術を受けたことを教えてくれませんでした。手術せず、そのままの体にしてほしかったです。聞こえる人も聞こえない人も子どもを産んで育てられる幸せな生活をしたいです」と訴えました。

一方、国は、不法行為から20年がたち、賠償を求められる「除斥期間」が過ぎたなどと主張しました。

午後は札幌と仙台、神戸で起こされた裁判の弁論が行われます。

大法廷で審理されている5件で、高等裁判所はいずれも「旧優生保護法憲法に違反していた」と認めましたが、このうち4件が国に賠償を命じたのに対し、1件は「除斥期間」が過ぎたとして訴えを退けました。

最高裁はことしの夏にも統一判断を示す見通しで、1万6000人以上の強制的な不妊手術の根拠となった旧優生保護法憲法違反と認めるかどうか、除斥期間についてどのように判断するのかが焦点です。

14歳で手術 “人生は大きく狂わされた”

都内に住む原告の北三郎さん(仮名・81)は、子どものころに問題行動を起こしたとして施設に入れられ、14歳の時、手術を受けさせられました。

弁論で北さんは、「手術を受けたことを妻にも誰にもずっと言えませんでした。施設と親が受けさせたと思い、ずっと親を恨んできました。手術のせいで私の人生は大きく狂わされました」と振り返りました。

その後、裁判を起こしたことで被害者が自分だけではないことを知ったといいます。

北さんは「わたしの人生をめちゃめちゃにしたのは親ではなく国だった。それが分かったので国と正面からたたかおうと思えました。国には謝罪してもらいたいです」と述べました。

そして、「子どもを産む・産まないは、人から勝手に決められることではありません。裁判官の皆さん、私たち被害者の苦しみと正面から向き合ってください。そして、どうか被害者みんなの人生を救う判決を書いてください」と訴えました。

ともに聴覚障害がある夫婦 “知らぬ間に不妊手術 悔しい”

大阪の原告でともに聴覚障害がある高齢の夫婦は手話通訳者を通じて思いを伝えました。

70代の妻は50年前、帝王切開で出産したときに不妊手術を受けさせられました。

子どもは生まれてまもなく亡くなりました。

70代の妻は「私は知らない間に不妊手術を受けさせられ、悔しい思いをしました。最後まで、母も誰も、不妊手術を受けたことを教えてくれませんでした。手術せず、そのままの体にしてほしかったです。優生保護法は障害者差別です。聞こえる人も聞こえない人も同じように子どもを産んで育てられる幸せな生活をしたいです」と話していました。

80代の夫は「私の妻は帝王切開手術をしたときに不妊手術もして、知らない間につらい思いをしました」と訴えていました。

国 「除斥期間」適用し訴えを退けるよう主張

国は弁論で「国は障害者に対する差別を解消するための取り組みを行ってきた」などとして、賠償を求められる20年間の「除斥期間」を例外なく適用し、訴えを退けるように主張しました。

また、不妊手術を受けた人たちに一律320万円を支給する法律が施行されたことを踏まえ「国会が問題解決の措置を執ったのに、裁判所が判例を根本的に変更して解決を図ることは裁判所の役割を超えている」と述べました。

一方、旧優生保護法憲法に違反していたかどうかについてはこれまでの裁判と同様、触れませんでした。

12時すぎ

東京と大阪 原告と弁護団 最高裁の弁論後に会見

東京の原告 北三郎さん(仮名・81)
「自分の人生を返してほしいと思っている。1日も早い全面解決を望んでいて、裁判官たちにはできるだけいい判決を出してほしいと思う」

大阪の原告 聴覚障害があり妻とともに弁論に
80代の夫(手話で)
「子どもを産んで一緒に遊んだり、旅行に行ったりする家庭を夢見ていたが、優生手術によってそれはかなわなかった」

大阪の原告の弁護団の辻川圭乃弁護士
除斥期間がそのまま適用されるかについて最高裁判所で統一判断が示されることになるが、すべての被害者が救われる判断をして、さらに旧優生保護法が非人道的で、差別的で違憲だと認めてほしい」

これまでの裁判の状況

優生保護法のもとで不妊手術を強制された人たちが国に賠償を求める裁判は、6年前に知的障害がある宮城県の女性が仙台地方裁判所に初めて起こし、その後、全国に広がりました。

弁護団によりますと、これまでに39人が12の地方裁判所支部に訴えを起こし、1審と2審の判決は、原告の勝訴が11件、敗訴が9件となっています。

これまでの判決では多くの裁判所が旧優生保護法について憲法違反と判断した一方、不法行為を受けて20年が過ぎると賠償を求める権利がなくなるという「除斥期間」がそのまま適用されるかどうかについては判断が分かれました。

最初の判決となった2019年の仙台地裁の判決では旧優生保護法憲法に違反していたという判断が示されましたが、賠償については国の主張を認め、手術から20年以上たっていて「除斥期間」が過ぎているとして訴えが退けられました。

その後、全国の裁判所でも時間の経過を理由に原告の敗訴が続きました。

おととし2月、大阪高裁が「除斥期間の適用をそのまま認めることは著しく正義・公平の理念に反する」と指摘して初めて国に賠償を命じる判決を言い渡すと、その翌月にも東京高裁が「原告が国の施策による被害だと認識するより前に賠償を求める権利が失われるのは極めて酷だ」として「除斥期間」を適用せず、国に賠償を命じました。

これ以降、全国で原告の訴えを認める判決が次々と出されるようになり、去年3月には札幌高裁と大阪高裁が「除斥期間」をそのまま適用せず国に賠償を命じました。

一方、全国で初めて提訴された裁判は、去年6月、仙台高裁が「除斥期間」を理由に再び訴えを退け、原告側が上告しました。

原告は高齢で、弁護団によりますと、これまでに、全国で訴えを起こした39人のうち6人が死亡しました。最高裁判所大法廷では、札幌、仙台、東京、大阪の高裁で判決があったこれらの5件についてまとめて審理されています。