“旧優生保護法下で不妊手術強制“ 最高裁大法廷で29日弁論(2024年5月29日『NHKニュース』)

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優生保護法のもとで障害などを理由に不妊手術を強制された人たちが国に賠償を求めている5つの裁判で、最高裁判所大法廷は、29日弁論を開きます。原告たちは国の政策で子どもを産み育てる自由を奪われたとして、長年苦しんできた思いを大法廷で語ります。
弁論が開かれるのは、旧優生保護法をめぐって全国各地で起こされた裁判のうち、札幌、仙台、東京、大阪の高等裁判所で判決が出され、上告されている5件です。
いずれの原告も旧優生保護法のもとで障害などを理由に不妊手術を強制され、「差別的な取り扱いで憲法に違反していた」と主張して国に賠償を求めています。
大法廷では原告本人が意見を述べます。
何も知らされずに不妊手術を受けさせられ、その後、結婚相手にも打ち明けられずにいた原告もいて、子どもを産み育てる自由を奪われたとして長年苦しんできた思いを語ります。
原告や傍聴する人など多くの障害者に配慮し、最高裁は敷地内に案内役の手話通訳者を配置し、ふりがなが付いた案内表示を作るなどの初めての対応を行うことにしています。
5件の裁判で高等裁判所はいずれも「旧優生保護法憲法に違反していた」と認めましたが、4件が国に賠償を命じたのに対し、1件は手術から20年以上たっていて賠償を求められる「除斥期間」が過ぎたとして訴えを退けました。
最高裁はことしの夏にも判決を言い渡し、統一判断を示す見通しです。
「旧優生保護法」は戦後の出産ブームによる急激な人口増加などを背景に1948年に施行された法律です。
法律では精神障害や知的障害などを理由に本人の同意がなくても強制的に不妊手術を行うことを認めていました。
当時は親の障害や疾患がそのまま子どもに遺伝すると考えられていたことが背景にあり、条文には「不良な子孫の出生を防止する」と明記されていました。
優生保護法は1996年に母体保護法に改正されるまで48年間にわたって存続し、この間に本人の同意なしに不妊手術が行われた人はおよそ1万6500人に、本人が同意したケースを含めると不妊手術を受けた人はあわせて2万5000人にのぼるとされています。
国は「当時は合法だった」として謝罪や補償を行ってきませんでしたが、不妊手術を受けさせられた女性が国に損害賠償を求める裁判を起こしたことなどを受けて、2019年に旧優生保護法のもとで不妊手術を受けた人たちを救済するための法律が議員立法で施行されました。
救済法では旧優生保護法を制定した国会や政府を意味する「我々」が「真摯に反省し、心から深くおわびする」としています。
そのうえで本人が同意したケースも含め不妊手術を受けたことが認められれば、一時金として一律320万円を支給するとしています。
国のまとめによりますと、4月末までに1102人に一時金の支給が認められたということです。
一方、これまで1審と2審で原告が勝訴した11件の判決では一時金を大きく上回る、1人あたり最大で1650万円の賠償を国に命じています。
「子どもを産みたかった」何も知らされずに不妊手術
大阪の原告で、ともに聴覚障害がある高齢の夫婦は、「今でも怒りは収まらない」として長年の苦しみや悔しさを最高裁判所で訴えたいといいます。
70代の妻は50年前、帝王切開で出産しましたが、この手術の時に何も知らされずに不妊手術を受けさせられたということです。
生まれた子どももまもなく亡くなりました。
妻は「不妊手術をされているとは夢にも思っていなかったので後から知ったときは本当にショックで、どこに怒りをぶつければいいのかわかりませんでした。子どもを産みたかったです」と手話で話していました。
夫婦は旧優生保護法の存在を知らないまま長年、苦しみ続けてきましたが、同じように手術を強制された人たちが国を相手に裁判を起こしたことをきっかけに自身の被害を認識し、5年前に訴えを起こしました。
1審では訴えを退けられたものの2審の大阪高等裁判所が国に賠償を命じる初めての判決を言い渡し、そしてきょう、最高裁判所大法廷の弁論を迎えます。
夫婦は、国の政策によって子どもを産み育てることができなかった苦しみや悔しさを訴えたいといいます。
妻は「子どもがいたら一緒に裁縫したり、旅行に行ったりしたかったです。みんな同じように子どもを産んで育てられるような社会にしてほしい。障害があるからといって差別をしないでほしいと訴えたいです」と話していました。
80代の夫は「聴覚に障害があっても子どもは育てられます。旧優生保護法のもとで行われた不妊手術は聴覚障害者に対する差別で、今でも怒りは収まりません。国には、これは悪いことだったと認めてもらいたいと思っています」と話していました。
29日の弁論 障害者が参加しやすいように初の取り組みも
29日の弁論で最高裁判所は、原告側の要望を受け、障害がある人が裁判に参加しやすいように、さまざまな初めての取り組みを行います。
裁判所の敷地内には手話通訳者を配置し、所持品検査などの手続きで聴覚障害者をサポートします。
裁判所が傍聴を希望する人のため手話通訳者を手配するのは全国の裁判所で初めてだということです。
知的障害者視覚障害者を想定し、傍聴を希望する人向けに配られる説明文などには漢字にふりがなをつけたり、点字版も用意したりします。
こちらも最高裁としては初めての取り組みだということです。
法廷内でも、聴覚障害がある人などのため最高裁では初めて、原告が話した内容を伝えるモニターが6台設けられるほか、原告の負担で手話通訳者が配置されます。
こうした取り組みについて弁護団の関哉直人弁護士は、「障害者ができるだけ傍聴できるように最高裁が試行錯誤しながら対応してくれたと評価している」とした一方、「法廷での手話通訳は裁判所が費用を負担すべきだと主張したが採用されなかったので、非常に遺憾だ。改善してほしい」と話していました。
これまでの裁判は
優生保護法のもとで不妊手術を強制された人たちが国に賠償をもとめる裁判は、2018年に知的障害がある宮城県の女性が仙台地方裁判所に初めて起こし、その後、全国に広がりました。
弁護団によりますと、これまでに39人が12の地方裁判所支部に訴えを起こし、1審と2審であわせて20件の判決が言い渡され、原告の勝訴が11件、敗訴が9件となっています。
これまでの判決では多くの裁判所が旧優生保護法について憲法違反と判断したものの、不法行為を受けて20年が過ぎると賠償を求める権利がなくなるという「除斥期間」がそのまま適用されるかどうかについて判断が分かれました。
最初の判決となった2019年の仙台地裁の判決では旧優生保護法憲法に違反していたという判断が示されましたが、賠償については国の主張を認め、手術から20年以上たっていて「除斥期間」が過ぎているとして訴えが退けられました。
その後、全国の裁判所でも時間の経過を理由に原告の敗訴が続きました。
おととし2月、大阪高裁が「除斥期間の適用をそのまま認めることは著しく正義・公平の理念に反する」と指摘して初めて国に賠償を命じる判決を言い渡すと、その翌月にも東京高裁が「原告が国の施策による被
害だと認識するより前に賠償を求める権利が失われるのは極めて酷だ」として「除斥期間」を適用せず、国に賠償を命じました。
これ以降、全国で原告の訴えを認める判決が次々と出されるようになり、去年3月には札幌高裁と大阪高裁が「除斥期間」をそのまま適用せず国に賠償を命じました。
一方、全国で初めて提訴され1審で原告の敗訴となった裁判については去年6月、仙台高裁が「除斥期間」を理由に再び訴えを退け、原告側が上告しました。
最高裁判所大法廷では、札幌、仙台、東京、大阪の高裁で判決があったこれらの5件についてまとめて審理されています。
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