既存の1株を2分の1や5分の1などに分割し最低投資単位を小さくするのが株式分割だ。購入に100万円かかる銘柄が2分の1になれば50万円で株主になれる。
2023年度に株式分割を発表した企業は191社で前の年度比6割増えた。NTTは23年夏に25分の1に分割。三井物産やソニーグループも今夏以降に予定する。
日本はこれまで最低投資単位が高く、個人のハードルとされてきた。株主数が膨らむことに後ろ向きな企業も少なくなかった。
これに対し、東京証券取引所は50万円未満に下げるよう促しているうえ、1月に始まった新しい少額投資非課税制度(NISA)が株式分割の契機になった。個別株に投資できる成長投資枠は年240万円が非課税の上限で、それ以下なら投資しやすくなるからだ。
少額であれば複数の銘柄に分散でき、積み立て投資もしやすい。一方で株式投資が初めてという個人は多い。リスクを踏まえつつ長期の資産形成にのぞむよう金融リテラシーの向上が重要になる。
経営側はアクティビストらから厳しい要求を突きつけられる中、安定株主を増やしたい思惑もあろう。株式の持ち合いも崩れてきた。しかし、個人株主も持続的な企業価値の向上を望んでいる点で変わらないはずだ。
野村資本市場研究所の調査では23年の株主総会で全議案に賛成した個人の比率は62%と2年前から13ポイント下がった。配当のほか役員選任にも反対が目立つ。個人株主が増えることがガバナンスの緩みになってはなるまい。投資家向け広報(IR)の充実が欠かせない。
株主総会では総会資料のデジタル配布が認められた。物理的に離れた個人株主もオンラインで参加できるような総会のあり方を多くの企業が探るべきだ。
日本には単元株制度があり、東証の要請で100株を1単元として最低売買単位にしている。このくくりを変えることで投資金額を小さくする方法もあろう。
不特定多数が株主になる株式会社の仕組みは本来、中間層を豊かにするものだ。企業が持続的に成長し、生み出す富が広く家計におよぶ循環に結びつけたい。