新NISA起点に成長と分配の循環を(2024年4月18日『日本経済新聞』-「社説」)

 1月から仕組みを新たにした少額投資非課税制度(NISA)の利用が広がっている。株式や投資信託への投資益に税金がかからない範囲や期間が広がり、若い世代からの関心も高い。将来を見据えた投資が長期で実を結び、より多くの家計に経済的な豊かさをもたらす流れを太くしていきたい。

 新NISAでは、これまで最長20年間だった非課税期間の制限をなくして恒久化し、非課税枠も最大1800万円に引き上げた。

 日本証券業協会によれば、証券10社のNISA口座の新設数は1〜3月に累計170万件、資金流入額は同4.7兆円といずれも前年同期の約3倍のペースだ。

 環境の追い風もある。国内では日経平均株価が初めて4万円に乗せ、円安は海外投資の価値を押し上げる効果がある。新NISAで投資を始めて早速成果を感じている家計も少なくないだろう。

 ただ資産形成は本来、長期で行うものだ。価格が変動し、期待と逆に進むこともある。自分がとれるリスクの把握が欠かせない。

 定額を積み立てる手法は有効で、投資対象の分散も考えたい。目先の価格の動きを追う売買ではなく、長期で資産が膨らむ複利の効果を頭に入れておくべきだ。

 つみたて投資枠のNISAで選ばれている商品をみると、世界株全体に投資したり、米国株に連動したりする投信が日本株より上位に並ぶ。持続的な株高への期待が海外の方が高い実態を映す。

 国内で成長の機会が増え、資金の出し手となる家計に成果が分配される循環を生むことが日本の課題だ。企業は新たな価値を生む事業に果敢に挑み、資本効率を高めて家計の期待に応えてほしい。

 成長投資枠のNISAでみれば増配を重ねる企業やグローバルに成長する企業が人気だ。こうした企業が増えるのが大事になる。

 「貯蓄から投資」は動き出したばかりだ。新NISAを起点にした資産形成が数十年単位になっていけば金融機関は顧客本位の姿勢がいっそう問われる。運用会社も高い運用益を継続して出す力と効率性を磨かねばならない。

 制度の継続的な見直しも欠かせない。現状ではNISA口座は1つの金融機関でしか開けず、規模の小さい独立系には不利だ。非課税の対象や枠の増額なども含め、ニーズをくみ取りながら家計にとって長期に安定した資産形成に資する仕組みを目指してほしい。