取締役会はファンドと対話し価値向上を(2024年5月8日『日本経済新聞』-「社説」)

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英ファンドは東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランド株の一部売却を京成電鉄に提案した。(ハロウィーンのパレード中のミッキーマウス 千葉県浦安市
 
 6月の株主総会シーズンを前に、投資ファンドがさまざまな提案をしている。そうした市場の声をよく聞き、企業価値を向上させる観点から是非を判断するのが取締役会の務めだ。深い知見を備え多様性に富む取締役会を、企業はつくる必要がある。
 株主提案を受ける日本企業は増えている。大和総研などの調べでは、かつては1年に30〜40社だったが、企業統治コーポレートガバナンス)改革が本格化した2015年から増加傾向が強まり、23年は112社だった。今年はさらに増える可能性が高い。
 英ファンドのパリサー・キャピタルは4月末、京成電鉄オリエンタルランド株の一部売却を求める株主提案を出した。目的が不明確な株式保有は多くの日本企業に共通する課題であり、今年の株主総会の焦点のひとつだ。取締役会は説明責任を問われよう。
 投資家は配当や自社株買いなどの利益還元だけでなく、成長戦略の提案に踏み込むようになった。来年の総会への提案も視野に、香港のオアシス・マネジメントが花王に対して、ブランドの絞り込みや広告宣伝活動の強化を迫ったのは代表的な例だ。
 ほぼ10年に及ぶガバナンス改革は、企業に社外取締役の増員を求めた。多様な意見を持つ株主との対話促進を期待してのことだ。現在、東証プライム市場の上場企業の約95%は取締役の3分の1以上を社外が占める。株主と意思疎通を進めてほしい。
 脱炭素の取り組みや地政学リスクへの備えなど、取締役が目配りすべき領域は広がっている。考えや経験の似通った生え抜きの中高年男性だけでは、とても太刀打ちできない。国際的に見て明らかに少ない女性を含め、いっそうの社外人材の登用が必要だ。
 現状では知名度の高さを理由に、専門性を度外視して社外取締役を選んでいると推察される例も見受けられる。世界に目を向け、自社の事業に最も適した人材を探す必要がある。年齢や性別を超えた、社内からの抜てき人事もためらってはならない。
 強い取締役会を持つ企業は持続可能性が高まり、株価上昇や還元を通じて株主に報いることができる。将来を見すえて資産形成に努める個人にも、取締役会改革の恩恵は及ぶ。その責務の重さを経営者も、取締役一人ひとりも強く自覚すべきである。