サントリーと京浜急行電鉄が18日から京急蒲田駅(東京都大田区)で実施しているコラボイベントが、アルコール依存問題の予防に取り組むNPO法人から「公共の場にそぐわない」などと抗議を受け、対応に追われている。サントリーのチューハイ「こだわり酒場のタコハイ」になぞらえて掲げている「京急蒲タコハイ駅」の看板などを撤去するという。飲酒による健康障害リスクを示した厚生労働省の飲酒ガイドラインが2月に公表されたこともあり、酒類メーカーの広告はさらに繊細な対応が進みそうだ。
■「乗客に禁酒中の人もいる」
ASKのホームページに公開された申し入れ書では、「駅は不特定多数が利用する極めて公共性が強い場です。乗客には、20歳未満、ドクターストップで禁酒・断酒中の人や飲めない体質の人もいます」と指摘。「駅の呼称を期間限定で『京急蒲タコハイ駅』とし駅空間をその仕様に変更するなど、公共性を完全に無視した愚行」と非難し、イベントの中止を求めた。
■駅構内でイベントは継続
同イベントは、飲み屋街として知られる蒲田を盛り上げようと、両社や大田区商店街連合会も協力して企画。6月18日までの期間中、同駅を「京急蒲タコハイ駅」として特別装飾を施し、2番線ホーム上の構内や停車している列車の中で蒲田名物の餃子とタコハイが楽しめる酒場(18日~19日、6月8日~9日)を開業するなどの催しを展開している。
ASKの抗議を受け、サントリーは「今回の活動の一部においてふさわしくないといったお声をいただいたことも確かであり、真摯に受け止め対応していきます」とコメント。同駅西口に掲げていた「京急蒲タコハイ駅」の看板を今月29日までに撤去するなど装飾期間を短縮し、構内に掲出予定の広告を縮小することで対応するとした。
ただし、「安全性は確保できている」とし、構内での酒場の催しは継続する方針を示した。
「京急蒲タコハイ駅」への駅呼称変更とホームでの酒場開店の中止を求める申し入れ書
2024年5月17日
サントリー株式会社
代表取締役社長 鳥井 信宏 様
京浜急行電鉄株式会社
取締役社長 川俣 幸宏 様
特定非営利活動法人ASK
代表 今成 知美
会長 河村 真紀子
〒102-0085 東京都千代田区六番町15−1
「京急蒲タコハイ駅」への駅呼称変更とホームでの酒場開店の中止を求める申し入れ書
5月17日、京急電鉄のホームページで、以下がリリースされました。
京浜急行電鉄株式会社(本社:横浜市西区、社長:川俣 幸宏、以下 京急電鉄)は、サントリー株式会社(本社:東京都港区、代表取締役社長:鳥井 信宏、以下 サントリー)、と大田区商店街連合会とコラボし、2024年5月18日(土)から6月16日(日)までの期間、蒲田の街を盛り上げるため、京急蒲田駅や京急蒲田駅周辺エリアで各種施策を実施いたします。
コラボ期間中、京急蒲田駅は「京急蒲タコハイ駅」になり、構内や周辺の各種装飾を変更し、CMキャラクターを務める田中みな実さんによるアナウンスを実施するなど「蒲タコハイ」仕様になります。また、5月18日(土)、19日(日)、6月8日(土)、9日(日)の4日間は、京急蒲田駅2番線ホーム(3階)にて、蒲田の愛されグルメである餃子とタコハイが楽しめる「京急蒲タコハイ駅酒場」を開店いたします。
【中止を求める理由】
1.アルコールの特性
アルコールは単なる嗜好品ではなく、含有されているエチルアルコールには、致酔性・依存性・発がん性・胎児毒性などさまざまなリスクがあるため、日本においても、「アルコール健康障害対策基本法」が施行され、国の基本計画が第2期まで策定。今年2月19日には厚生労働省から「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」も公表されています。世界的には、2010年にWHOが「アルコールの有害な使用を低減するための世界戦略」を出しており、グローバルな酒造会社はこれに賛同しています。
酒類の交通広告については、すでに「酒類の広告・宣伝及び酒類容器の表示に関する自主基準」に車体広告など5つの留意事項が記載されていますが、これ以外にも様々な問題事例があるため、私たちは、2020年11月13日、ビール酒造組合に「交通広告の全面自粛を含む抜本的な対策を求める要望書」を提出。同組合も理解を示し前向きの検討を約束していただいています。
サントリー株式会社は同組合の加盟社であり、当時、リスクマネジメント本部グローバルARS部ともお話をして、要望書の趣旨をよく理解していただきました。
以下は、その要望書の抜粋です。
駅・電車などの交通機関は、不特定多数が利用する極めて公共性が強い場です。乗降客には20歳未満の青少年も含まれ、ドクターストップで禁酒・断酒中の人や飲めない体質の人もいます。また、早朝からの通勤・通学や、勤務中の移動時に酒類広告はなじみません。
交通広告は、駅や電車を利用するときに意図せず目に飛び込む「強制視認性」が前提となっています。健康問題・社会問題を引き起こす側面をもち年齢規制もある酒類の広告にはふさわしくないと、私たちは考えます。この点を押さえずに自粛項目を追加するだけでは、イタチごっこになります。
今回の抗議の主旨はまさに上記と同じです。
繰り返しますが、駅は不特定多数が利用する極めて公共性が強い場です。
乗客には、20歳未満、ドクターストップで禁酒・断酒中の人や飲めない体質の人もいます。
また、早朝からの通勤・通学や勤務の移動時に酒類広告はなじみません。
駅の呼称を期間限定で「京急蒲タコハイ駅」とし駅空間をその仕様に変更するなど、公共性を完全に無視した愚行です。絶対にやるべきではありません。
また、酔ってホームからの転落、乗客同士のケンカやトラブル、駅職員への暴力など、鉄道会社は日ごろから酔客の対応に苦慮しているはずです。それなのに自らがホームで「京急蒲タコハイ駅酒場」を開店し、酔客を増やすとはどういうことでしょう。
鉄道は、乗客の安全を最優先にしていただきたいと思います。
以上