2024年4月22日のブロック紙・地方紙・政党紙の社説・コラム集

衆院憲法審査会 拙速審議は慎むべきだ(2024年4月22日『北海道新聞』-「社説」)
 
 衆院憲法審査会で今国会の論議が始まっている。
 自民、公明、日本維新の会、国民民主の4党は、大規模災害や武力攻撃など緊急事態時の国会議員の任期延長を中心に、幅広い会派で早急に改憲条文案の作成作業に入るよう求めている。
 これに対し、立憲民主党自民党派閥の裏金事件が未解決だとして「自浄作用のない党が改憲を論じる正当性があるのか」と批判し、共産党改憲自体に反対している。議論は平行線だ。
 4党の側からは賛成派だけで条文案を作成し、多数決に持ち込むべきだとの声も上がる。
 改憲論議を数の力で強引に推し進めるのは、国民の分断を生むだけだ。慎重派の主張には、謙虚に耳を傾けなければならない。
 そもそも緊急事態条項の新設は、無制限な任期延長などの権力乱用や、恣意(しい)的な国民の権利制限などにつながりかねない。拙速な審議は慎むべきである。
 岸田文雄首相は、9月までの自民党総裁任期中の改憲に繰り返し意欲を示している。だが、任期までは残り半年を切っており、日程的には厳しいとの見方が強い。
 自民党側には焦りもあるのだろう。昨年末に改憲条文案を作成する起草機関の設置も提案したが、「改憲ありき」で日程闘争を仕掛けても国民の理解は得られまい。
 憲法審には会派の規模に関係なく発言時間を割り振る「中山ルール」がある。前身の衆院憲法調査会会長だった中山太郎氏が打ち出した方針だが、少数意見を尊重して進めるのが憲法論議の原則だ。
 緊急時の任期延長の問題は、衆院議員が任期切れとなっても、憲法54条が定めた参院の緊急集会で対応できるとの学説がある。
 自民党側は、緊急集会は開催期間や権限が限定された制度だと主張するが、むしろそうした課題を整理し、新たに要件を定めるなど円滑な対応が進むような法整備を進めるのが先決だろう。
 国民に受け入れられやすそうな項目を改憲の突破口にするという思惑なら、不誠実極まりない。
 政府はこれまで専守防衛の原則に反する敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有や、平和国家の理念に背く殺傷武器の輸出解禁などを決定してきた。改憲論議の前にまず憲法を順守しなければならない。
 加えて自民党は、裏金の実態解明や政治資金の透明化に極めて後ろ向きな姿勢だ。そんな体たらくでは、国の最高法規を議論する信任は得られまい。
 
衆院憲法審査会 拙速審議は慎むべきだ(2024年4月22日『北海道新聞』-「社説」)
 
 衆院憲法審査会で今国会の論議が始まっている。
 自民、公明、日本維新の会、国民民主の4党は、大規模災害や武力攻撃など緊急事態時の国会議員の任期延長を中心に、幅広い会派で早急に改憲条文案の作成作業に入るよう求めている。
 これに対し、立憲民主党自民党派閥の裏金事件が未解決だとして「自浄作用のない党が改憲を論じる正当性があるのか」と批判し、共産党改憲自体に反対している。議論は平行線だ。
 4党の側からは賛成派だけで条文案を作成し、多数決に持ち込むべきだとの声も上がる。
 改憲論議を数の力で強引に推し進めるのは、国民の分断を生むだけだ。慎重派の主張には、謙虚に耳を傾けなければならない。
 そもそも緊急事態条項の新設は、無制限な任期延長などの権力乱用や、恣意(しい)的な国民の権利制限などにつながりかねない。拙速な審議は慎むべきである。
 岸田文雄首相は、9月までの自民党総裁任期中の改憲に繰り返し意欲を示している。だが、任期までは残り半年を切っており、日程的には厳しいとの見方が強い。
 自民党側には焦りもあるのだろう。昨年末に改憲条文案を作成する起草機関の設置も提案したが、「改憲ありき」で日程闘争を仕掛けても国民の理解は得られまい。
 憲法審には会派の規模に関係なく発言時間を割り振る「中山ルール」がある。前身の衆院憲法調査会会長だった中山太郎氏が打ち出した方針だが、少数意見を尊重して進めるのが憲法論議の原則だ。
 緊急時の任期延長の問題は、衆院議員が任期切れとなっても、憲法54条が定めた参院の緊急集会で対応できるとの学説がある。
 自民党側は、緊急集会は開催期間や権限が限定された制度だと主張するが、むしろそうした課題を整理し、新たに要件を定めるなど円滑な対応が進むような法整備を進めるのが先決だろう。
 国民に受け入れられやすそうな項目を改憲の突破口にするという思惑なら、不誠実極まりない。
 政府はこれまで専守防衛の原則に反する敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有や、平和国家の理念に背く殺傷武器の輸出解禁などを決定してきた。改憲論議の前にまず憲法を順守しなければならない。
 加えて自民党は、裏金の実態解明や政治資金の透明化に極めて後ろ向きな姿勢だ。そんな体たらくでは、国の最高法規を議論する信任は得られまい。
 
(2024年4月22日『東奥日報』-「天地人」)
 
 清少納言は理想の桜を「花びら大きに、葉の色濃きが、枝細くて咲きたる」と枕草子に記した。当時観賞されたのはヤマザクラ。現代のソメイヨシノの花の波を見たならば、一家言を持つ少納言も大満足ではないか。
 春本番を迎えた本県はあでやかな花の気配に包まれている。桜の名所は次々満開となり、今が「花時」である。先日、かつて勤務した十和田市の官庁街通りの桜並木を数年ぶりに歩き、1キロ以上にわたって続く淡紅白の彩りを満喫した。
 
 通りで中空の枝を見上げれば無数の花弁が浮かび、生を確かめるかのように咲き誇っている。強風でたちまちに散り、くねり、そして渦を巻く花びらのさまもまたをかし。まさに「三日見ぬ間の桜」の言葉通りか。
 この季節の趣を堪能しながら、前に見物した時よりも花のボリュームが増しているとも感じた。市と協力し保全活動を続ける「官庁街通りのサクラを守る会」の大柳泰光会長によれば、施肥や土壌改良に加え、樹勢が衰え腐朽が目立つ木の植え替えなどが奏功しているという。
 自然美の象徴にも見えるソメイヨシノだが、もともと人工交配で生まれたとの説もある栽培品種で全てが同じ遺伝子を持つクローン。明治以降、人の手により接ぎ木、挿し木で全国各地に広まった。毎春、桜が見る者をとりこにするのは守る人がいてこそ。賞美されるべきは花のみにあらずだ。
 
気仙沼線BRTの将来 無人運転、持続可能な「足」に(2024年4月22日『河北新報』-「社説」)
 
 JR気仙沼線バス高速輸送システム(BRT)で導入された自動運転車両について、東北運輸局は先月、気象など一定条件をクリアすれば無人運転が可能な「レベル4」に認可した。自動運転のレベル4は福井県、東京都、神奈川県のバスなどの運行事業に続き全国4例目で、東北では初めてのケースとなる。
 地方の鉄道や路線バスは、人口減と過疎化で存廃の危機に直面している。加えてバス運転手に関しては、働き方改革関連法に基づく時間外労働(残業)の上限規制が今月導入され、ドライバー不足はさらに深刻化する恐れもある。持続可能な運行体系を維持するため、無人運転の進化による可能性をさらに広げたい。
 JR東日本は2022年12月から23年5月まで、運転手を支援するレベル2の自動運転装置を備えたバス(定員70人)を宮城県登米市の柳津-陸前横山間の専用道4・8キロで1日2往復させた。路面の磁気マーカーをバスのセンサーが読み取り、位置を把握しながら最高時速60キロで走行。運転手による周辺状況の監視が義務付けられた。
 認可を受け、JR東は24年度中に同区間でレベル4の開始を目指す。当面は運転手を同乗させる方針。自動運転区間については、陸前横山から宮城県南三陸町水尻川まで10・7キロ延長して計15・5キロとし、同区間はレベル2で運行を始める見通しだ。
 東日本大震災で被災した気仙沼線の柳津-気仙沼間(55・3キロ)でBRT運行が始まったのは12年8月。当初は鉄路の復旧を望む声が根強かったが、11年以上が経過し、BRTはなくてはならない「住民の足」として定着した。
 鉄道時代に比べて駅の数は7駅、運行本数も最大3倍に増えた。一方、同区間の所要時間は、最短で55分遅い1時間48分に延びた。バスの機動力を生かし、専用道から離れた場所をきめ細かく経由できるのは利点の一つだが、長距離を結ぶ速達性は失われた。
 今後の存続と改善の方向性を考えると、沿線の高校生や高齢者ら「交通弱者」を支える生活密着の交通システムとしての位置付けをより明確にすべきだろう。ニーズに即した利便性の向上を重ね、利用者の掘り起こしを図りたい。
 日本バス協会の試算では、全国で必要な運転手の数に対し、24年度は2万1000人が不足する。帝国データバンクは昨年11月、路線バスの民間事業者127社のうち、8割近くが路線を縮小・廃止するとの調査結果を公表した。
 利用者減少や燃料費高騰などが経営を圧迫し、各地で路線バスの運行が困難になっている。政府は地域交通の維持策として25年度、レベル4相当の移動サービスを全国50カ所程度で実現させる目標を掲げる。専用道だけでなく、一般道も走行可能な基盤整備と安全性の確保を伴う技術開発を急がなければならない。
 
 
「秋田犬の里」5年 民間活用で魅力向上を(2024年4月22日『秋田魁新報』-「社説」)
 
 大館市の観光交流施設「秋田犬の里」は本年度、オープンから5年を迎える。「秋田犬に会える施設」として認知度が高まっており、魅力をさらに向上させたい。
 
 秋田犬の里は、JR大館駅に近い旧小坂鉄道大館駅の跡地に建設された。鉄骨一部2階建て1246平方メートルで総事業費約10億5200万円。2019年5月にグランドオープンした。
 入館無料で、ガラス越しに秋田犬を見ることができる展示室が目玉だ。秋田犬の特徴や大館生まれの忠犬ハチ公の物語などを紹介するコーナーのほか、土産物売り場などもある。
 初年度の19年度は約31万5千人が訪れた。新型コロナウイルス禍により一時休館した20年度は約7万2千人に減少したものの、21~23年度は約11万人、約13万2千人、約19万1千人と盛り返している。累計は約82万人で、本年度の入館者数が23年度並みであれば100万人に達する計算だ。
 増加基調を今後も持続させる取り組みの一つとして、インバウンド(訪日客)への情報発信にさらに力を注ぐべきだ。昨年12月には台湾と秋田空港を結ぶチャーター便が就航している。この便の利用者や台湾の旅行会社へのアピールを強化する必要がある。
 リピーターを獲得するには、新しい企画を打ち出したり、施設の機能を充実させたりすることが重要だ。秋田犬の里を直営する市は、そうした企画などにノウハウを持つ民間の力を活用しようと、来年度には指定管理者制度を導入したいとしている。多様なアイデアを持つ指定管理者が登場することを期待したい。
 施設機能の充実に関しては、飲食ブースの設置が待たれる。市議会でも繰り返し取り上げられている課題だ。市も必要性を認識しており、キッチンカーを含めて飲食提供の仕組みを模索中。早期の実現が望まれる。
 市は秋田犬の里を、地元の児童生徒がハチ公や秋田犬について学ぶふるさと教育の場にしたいとも考えている。北秋田市の伊勢堂岱遺跡では、遺跡について学んだ子どもたちがジュニアボランティアガイドとして活躍している。こうした例も参考にしてほしい。
 大館商工会議所は、この施設を発着点に市内の秋田犬ゆかりの地を巡るモデルコースづくりを検討している。ハチ公の生家や秋田犬会館と組み合わせることで観光客の満足度を高める試みとして注目したい。
 市は新たな総合計画として、「おおだて未来づくりプラン」(24~27年度)を策定。22年度実績値で180万人だった市への観光入り込み客数を、27年度には300万人に増やすとする目標を掲げた。達成には、中核施設の一つである秋田犬の里の機能に磨きをかけることが欠かせない。そのための不断の努力が求められる。
 
(2024年4月22日『秋田魁新報』-「北斗星」)
 
 紙を付け足して書き込むなど、推敲(すいこう)の跡が生々しいという。平安期の905年に編さんされた最初の勅撰(ちょくせん)和歌集、古今和歌集の注釈書「顕注密勘(けんちゅうみっかん)」の原本が見つかった。平安末期―鎌倉期の歌人藤原定家が解釈などを書き、その個性的な筆跡から自筆と判断された
古今集完成から約300年後の1221年の記載がある。これまでは写本しかなく、誤記や欠落がある可能性を否定できなかった。原本は国宝に値するとの声もある。古今集や和歌の研究がさらに進むことを期待したい
古今集醍醐天皇の勅命で、紀貫之ら4人が名歌約1100首を編集した。序文では代表的な歌人6人を挙げている。その一人が平安期の小野小町。「花の色はうつりにけりないたづらにわが身世にふるながめせしまに」などの歌も収められている
古今集目録によると、小町は「出羽国郡司の娘」とされる。生涯については諸説あり、湯沢市小野地区で809年に生まれ、宮中に仕えた後に帰郷し、92歳で没したとの説もある。この伝説から「こまち」は県産米や秋田新幹線などの名前に使われている。もはや本県を表すキーワードの一つと言えよう
▼小町の歌「花の色は―」は小倉百人一首でも知られる。百人一首の選者は定家。小町の歌を評価していたことがうかがえる
▼定家が注釈書を書いていた当時、小町について伝わる話は今より多かったかもしれない。詳細な書き込みの中から小町の人物像を知るヒントが得られるといい。
 
麺用の県産小麦、新品種育成 ラーメン県、より強固に(2024年4月22日『山形新聞』-「社説」)
 
 山形や酒田のラーメンが全国から注目を集め、県が商標登録に乗り出すなど本県のラーメンが話題となる中、山形大農学部鶴岡市)は麺用の新たな県産小麦で「ラーメン県」をさらに盛り上げようと新品種育成に取り組んでいる。本県ラーメンの人気をより強固にする一手として、また地産地消の観点からも、栽培しやすく高品質な小麦を使った県産麺のおいしいラーメン誕生に期待したい。
 本県のラーメンを巡っては、山形市総務省家計調査の1世帯当たり中華そば(外食)消費額で2022、23年と2年連続トップとなっているほか、昨秋初めて行われた日本ご当地ラーメン総選挙で「酒田のラーメン」が初代王者となり一躍、全国の脚光を浴びた。本県は人口当たりのラーメン店舗数が全国トップとのデータもあり、県はかねて名が知られていたそばと共に「ラーメン県そば王国」の商標登録を出願。イベント開催や情報発信など、本県のラーメンをもり立てる官民挙げた動きが活発化している。
 ただ、本県のラーメンと一口に言っても共通する特徴や材料があるわけではない。昔ながらの中華そばから個性的なスープや具材の一品、つけ麺や冷やしラーメンまで、個々の店が工夫を凝らして磨き上げた味を県民や来県者が味わってきた。そのような歴史の積み重ねが近年の評価につながっているのだろう。
 そうした中、麺の原料となる小麦に着目したのが山形大農学部の取り組みだ。より本県の気候風土や中華麺用に適した品種の小麦を普及させようと、20年度に農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)と共同研究契約を締結した。学部付属の高坂農場(鶴岡市)で笹沼恒男准教授(植物遺伝・育種学)らが中心となり、雪や湿気に強く、高タンパクなどの特性を持った品種を選抜、育成。30年ごろの品種登録を目標としている。
 そもそも本県の小麦生産量は東北最少の年260トンほどにとどまり、需要は高い一方で供給の大半を海外産に頼っている。小麦は9~10月に種をまき、冬を越した翌年6~7月に収穫する。水分の多い雪や収穫期に当たる梅雨の長雨が支障となり、東北の日本海側では栽培に不向きな作物だった。雪に強い「ゆきちから」もあるが、麺のコシを決定づけるタンパク質含有量を保つには栽培が難しい品種という。こうした現状を背景に、積雪期や梅雨期の高湿度下でも病害に強く、中華麺向きの高タンパクを維持できる新たな品種が求められていた。
 本県の生産者は少ないが、栽培しやすく中華麺に適した品種が現れれば転作作物として小麦の有用性は格段にアップする。同学部で地域循環型農業を研究する中坪あゆみ助教らのリサーチでも、価格や販路次第で農家側の小麦栽培ニーズは根強いとみられ、ラーメン店側にも付加価値がブランド力強化につながると地元産小麦を待望する声があるという。
 同学部は「麺の伸びにくさや香りも含め、真にラーメン向きの小麦品種ができれば、自給率向上に貢献するだけでなく地域振興にもつながる」と意気込む。品種開発には年月を要するだろうが、名実ともにラーメン県を発信する小麦新品種を実現してほしい。
 
(2024年4月22日『山形新聞』-「談話室」)
 
▼▽平地の桜はあらかた散ったが、先日摘み草を楽しんだ山里はようやく見頃を迎えていた。枝先に響くブーンという力強い羽音はクマバチのよう。大きな体で気ぜわしく蜜を吸い、飛び立つ際に、ひらりと花片を散らす。
▼▽その様子を眺めながら、家の年寄りがこのハチを「アマゴバチ」と呼んでいたのを思い出した。詳細は聞きそびれたが、戦後の貧しい時代、内陸地方の寒村では、悪童たちが「なめると甘い」と言ってよく捕まえていたというのだ。アマゴバチの呼び名はそこからきたのか。
▼▽ミツバチの仲間なので、吸った花蜜をためる袋が体内にある。これを取り出して舌でつぶすとおいしかったと、ブログに思い出を書いている隣県の高齢者もいるぐらいだから、戦中戦後は皆が甘さに飢えていたのだろう。クマバチにとっては、受難の時代だったに違いない。
▼▽今、満開のサクランボやモモが景色を彩る。体に花粉を付けて園地を飛び回るハチは受粉に欠かせない存在だ。特に大きな働きをするのが、小さなマメコバチ。蜂蜜はためず、かつてのクマバチのように勇敢な子の“おやつ”にもならないが、甘い甘い果実を与えてくれる。
 
高校生語り部事業/震災の教訓を考える契機に(2024年4月22日『福島民友新聞』-「社説」)
 
 県教委の「震災と復興を未来へつむぐ高校生語り部事業」は、高校生に改めて震災を学び、自らの言葉で語ってもらう取り組みだ。教訓などの風化防止を目的としており、2021年度の開始から3年間で、延べ67校の生徒が「語り部」として学びを深めた。
 高校生語り部事業は、「総合的な探究の時間」などを使って震災学習を行う学校が実践校となる。授業に参加する生徒はそれぞれのテーマを設定し、東日本大震災原子力災害伝承館の見学、被災経験者の講話を聞くなどして考えをまとめる。その上で県外の高校などとの交流を通じ、自分の言葉で学んだ成果を発表する。
 県教委によると、生徒から「震災についてあまり関心がなかったが、学んでみて語り継ぐことの意義を感じた」との声があったという。高校生は、震災当時を記憶している最後の世代となる。県教委は、生徒が震災を「自分ごと」と再確認する契機に位置付け、語り部事業により多くの高校の参加を呼びかけていくことが重要だ。
 語り部事業では、実践校の代表らが集まり、それぞれの取り組みを報告する交流会が開かれる。昨年度の交流会では、中間貯蔵施設にある除去土壌の最終処分の在り方から、被災した住民との対話や復興の現状などの各校の地元に根差した内容まで、幅広いテーマが語られた。
 本県の被災状況は、原発事故に目が向きがちだが、沿岸部の津波被害は甚大で、中通りでは土砂崩れの被害があった。会津地方では、震災の4カ月後に新潟・福島豪雨が発生した。県教委は、実践校間の交流や成果の共有を進め、高校生が同年代の取り組みを通じて、県内で発生した多様な被災の実情についても理解を深められるよう後押ししてほしい。
 語り部事業には主に高校1~2年生が参加するが、年を追うごとに震災を経験した年齢は低くなっていく。21年度の事業開始当初、参加した生徒は、小学1年生や幼稚園で震災を経験していた。本年度に参加する生徒は震災当時は未就園児で、震災を記憶する最後の世代のなかでも、記憶がよりあいまいな学年になる。
 近い将来、高校教育の現場で生徒だけではなく、教える若手教員も震災を経験、記憶していない状況は確実に訪れる。県教委は高校での震災学習について、被災した県民の体験などを聞いて学び、自分の言葉で語る現在の取り組みに続き、その内容を先輩から後輩へとつなぐ「語り継ぎ」の要素を加えていくことが求められる。
 
よい夫婦の日(2024年4月22日『福島民友新聞』-「編集日記」)
 
 巨匠ルノワールの妻は「人の好(よ)さをそっくりそのまま具(そな)えた可愛(かわい)らしい婦人」だと画商は評した。18歳下の妻は職人かたぎの夫を相手に、絵のモデルになったり家事育児に奔走したり、飲食もスポーツも楽しみ、おおらかに家庭を守った
 
▼友人モネは2度結婚している。最初の若き妻は多くの作品のモデルになったが、貧困生活の果てに大病を患い他界。後妻は夫をがっちり支えたがモデルを雇うことは認めず、おのずと風景画が増える一因になった
 
▼ノンフィクション作家の沢地久枝さんが「画家の妻たち」(文藝春秋)に書いている。夫の苦しみ抜いた挑戦の後、名画が世に出た背景に妻たちの奮闘があったと思うと、絵もまた違った輝きを放つのではないか
▼日本なら明治の頃。パリで著名な女性画家はベルト・モリゾやメアリー・カサットにとどまり、画壇は男性にほぼ占められた。芸術の世界で女性が躍動するには、社会変革へ先人たちの長き闘いを経ることになる
▼夫婦の役割を固定化しない現代。結婚を選択肢から外す生き方も増えた。互いに幸福感を得る人生を描きたいなら、自分本位の筆遣いをやめ、絵の具選びから会話を尽くしてこそ近道だ。「よい夫婦の日」に思う。
 
【海自ヘリ墜落事故】訓練全般の検証を(2024年4月22日『福島民報』-「論説」)
 
 
 伊豆諸島の鳥島東方海域で起きた海上自衛隊の哨戒ヘリコプター2機の墜落事故で、搭乗者1人が死亡し、7人が行方不明となっている。重大事故が近年、続いている。再発防止に向けては、今回の事故の原因究明と合わせ、夜間を含めた訓練の在り方、進め方全般に及ぶ検証も必要ではないか。
 
 防衛省によると、墜落した2機は別のヘリ1機と海自艦艇とともに、海自の潜水艦を探知する訓練に加わっていたという。中国海警局の船が尖閣諸島周辺への領海侵犯を繰り返すなど、中国との接続水域の監視、警戒活動は国の防備を進める上で、重要度を増している。そんな中、国土と国民の安全を守る強い使命感を持ち、厳しい訓練に当たる隊員が命を落とす事態は痛ましく、あってはなるまい。
 
 自衛隊を巡っては、沖縄県宮古島付近で昨年4月、陸自のヘリが墜落し、搭乗員10人全員が死亡した事故の衝撃が記憶に新しい。当時は悪天候ではなく、有視界飛行が可能だったとされる。陸自は先月、ヘリの搭載エンジン2基の相次ぐ出力低下で墜落したとの調査結果を公表した。しかし、明確な原因は特定できていない。
 陸自トップの陸上幕僚長は「事故を深く、重く受け止め、この先一人の犠牲者も出さない決意で、飛行の安全に万全を期す」と、記者会見で述べていた。にもかかわらず、重大事故は1年足らずでなぜ、再び起きたのか。詳細な分析は、隊員の生命と安全、任務に懸ける強い意識を守る上でも重要だ。
 防衛費の国内総生産(GDP)比2%への大幅増額、反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有など、岸田政権下で軍備増強への動きが加速している。自衛隊在日米軍の指揮・統制枠組みの見直しは、双方の一体化がさらに強まる可能性が取り沙汰されている。
 現実問題として、米国との関係強化は有事の安全保障を考える上で重要ではある。一方で、軍備を異次元に拡大する現下の政策に対し、訓練を含めた自衛隊の態勢は追い付いているのか。重大事故が重なる現状に懸念も拭えない。自衛隊による事故は国民に不安を抱かせ、信頼を損ないかねないとの危機感を強め、再発防止策をしっかりと打ち出してほしい。(五十嵐稔)
 
「石の魅力」(2024年4月22日『福島民報』-「あぶくま抄」)
 
 「石っこ」。宮沢賢治のあだ名だった。ハンマーを携えて野山を歩き、石を集めて回った。お気に入りを見つけるたびに一喜一憂した。残した詩や小説に数多くの鉱石が登場する
▼「銀河鉄道の夜」で、ジョバンニとカムパネルラが停車場に下車した場面。〈河原の礫[こいし]は、みんなすきとおって、たしかに水晶や黄玉や…〉。その場が輝く様子が分かる。賢治は博学で農学校教師を務めた。座右の書は化学の教科書。鉱石を構成する元素の美しさに魅了されたらしい
▼石川町は、全国に誇る鉱石産地の魅力を伝える町歴史民俗資料館を27日に移転オープンさせる。目玉は、町内に唯一残る和久観音山鉱山跡のVR展示だ。水没した未公開区画の様子を再現した。国内最大級の約1メートルの電気石や、「県の石」ペグマタイトの姿を、臨場感ある映像で確認できる。黒や白に輝く自然美が目を引く。100点以上の実物も並ぶ
▼施設の愛称は「イシニクル」。年代記を表す「クロニクル」をもじった。雨にも負けず、風にも負けず…。長い年月を経て完成する様は、まるで忍耐の凝縮のよう。大型連休は「鉱石の里」へ。歴史をさかのぼる時間列車の旅で、しばし「石っこ」気分を味わおう。
 
カスハラ対策 安心の職場環境を整えよ(2024年4月22日『茨城新聞』-「論説」)
 
 顧客や取引先による従業員への暴言や脅迫、言いがかりといった迷惑行為「カスタマーハラスメント(カスハラ)」がさまざまな職場に影を落としている。理不尽な要求だけでなく、交流サイト(SNS)で個人情報を拡散するなどインターネット上での被害も相次ぎ、企業の間で自衛策を講じる動きが出ている。
 客からの正当なクレームに企業側に真摯(しんし)な対応が求められるのは言うまでもない。だが、度を越した要求には毅然(きぜん)とした態度で拒む権利を従業員に保障しなければならない。傷ついた被害者へのケアも怠ってはならない。
昨年実施された民間企業による調査では、営業や販売などの職種でクレーム対応をしたことがある20~60代の64・5%が、直近1年間に土下座の強要や長時間の居座りといったカスハラを受けたとの結果が出た。
 航空業界では利用者がスタッフに「手数料なしで解約しろ」と迫ったり、「死ね」「能なし」などと暴言を繰り返したりする行為が報告され、鉄道業界でも切符の変更・払い戻しをした駅員に「対応が遅い。多くのフォロワーがいる私のSNSに載せる」と言って食ってかかるといった被害が出ている。
 外部とのやりとりは多くの職種で欠かせない業務だけに、誰もが嫌がらせの標的になり得よう。
 被雇用者とフリーランス計千人を対象とする連合の調査(2022年)によると、36・9%が「直近5年でカスハラが増えた」と回答。理由は「格差、コロナ禍など社会の閉塞(へいそく)感によるストレス」が最多だった。
 航空や鉄道業界に限らず、コンビニやホテルなど顧客に向き合う仕事に携わる人々は国民生活にとって不可欠の存在。カスハラによって離職者が増えてしまい、人手が確保できなくなれば、私たちの日々の暮らしに大きな支障をもたらすことになりかねない。健全な社会機能を維持するためにも、安心して働ける職場環境の整備を喫緊の課題ととらえるべきだ。
 対策としてJR九州は全在来線車内での運転士や車掌の名前の張り出し廃止を決定。JR西日本と四国も昨年から車内の「氏名札」を取りやめている。全日本空輸も運送契約を定めた約款を改め、搭乗を拒否する迷惑行為の明示を検討するなど対策強化に取り組む。
 パワハラやセクハラは法律で事業主側の防止措置が義務化されているのに対し、カスハラ対策はそこまでに至っていない。労働団体側からは実効性ある法整備の必要性を指摘する声が出ており、政府の関与の姿勢も問われよう。
 こうした中、東京都の小池百合子知事がカスハラ防止条例の制定方針を表明。罰則のない「理念条例」とする方向で、24年度内に都議会への条例案提出を目指すという。
 カスハラに特化した条例は全国初で、北海道など他自治体でも同様の動きがみられる。対策に取り組む企業にとって、地域行政の後押しは心強い支援と映るはずだ。
 もっとも、「守り」が過度になってしまい、外部からの苦情を何でもかんでもカスハラにしてしまっては本末転倒である。当然のことだが、条例制定にあたっては正当なクレームとの線引きを明確にすることが求められる。顧客の権利が不当に損なわれることのないよう、バランス感覚を見失わないでもらいたい。
 
上水道の耐震化 計画的推進へ国の支援を(2024年4月22日『福井新聞』-「論説」)
2024年4月22日 午前7時30分
 
 能登半島地震で石川県の断水は最大約11万戸に上り、地震発生から3カ月余りたってもなお、珠洲市などの約4500戸で水が使えない状況だ。道路と配水管が広範囲に損傷したためで、配水管の老朽化が被害拡大の要因とみられている。同県は基幹的な水道管の「耐震適合率」も37・9%(2022年度末時点)と全国平均の42・3%より低かった。福井県は44・2%でわずかに上回っている程度。水道事業運営はどの市町も厳しい。国には予算の優先度を高め、水道施設の耐震化を後押ししてほしい。
 断水は大災害のたび繰り返されてきた問題だ。11年の東日本大震災では約257万戸が断水し、最長で約5カ月継続した。16年の熊本地震でも最大44万戸超が断水し、復旧まで最長3カ月半を費やした。水道施設の耐震化は大きな課題だ。
 福井県内の基幹的水道管の総延長は1188キロ。このうち地震時に継ぎ目が壊れない耐震管を導入したり、揺れに強くなるよう地盤改良したりした「耐震適合性」のある管は525キロにとどまる。福井市上水道は全国的にも比較的早期に整備され、今年で100周年を迎える。その分老朽化も著しく、耐震適合率は39・6%だ。国は28年度までに60%に引き上げる目標を掲げている。
 耐震工事の実施は自治体や事務組合など各地の水道事業者が決める。費用は水道料金に上乗せされ住民負担が重くなる。物価高が叫ばれる中、耐震化のためとはいえ料金引き上げは難しいのが実情だろう。自治体は国の交付金を当てにするが、この交付金活用のハードルが高い。
 交付金を受ける要件の一つが、水道料金が全国平均以上であること。福井県によると、県内市町でこの条件を満たすのは2市町のみ。交付金の交付率も通常の公共事業が事業費の半額に対し、上水道はおおむね3分の1から4分の1。地方の厳しい財政状況を踏まえ、支援のあり方を検討してほしい。
 珠洲市では各家庭につながる配水管とともに浄水場も大きく損壊し、広範囲に影響した。これまでの災害と比べ、水道施設全般に被害が及んだと指摘する消防関係者もいる。福井県内の浄水施設の耐震化率は28・4%、配水池50・0%で、全国平均よりそれぞれ15ポイント、13・5ポイント低い。
 石川の被災者は断水の長期化に「人間的な生活を送れる状況ではない」と切実に訴える。今回の地震で水道の重要性が改めて浮き彫りになった。水道施設の耐震化を計画的に進めたい。
 
 
グーグル行政処分 公正な競争を確保せねば(2024年4月22日『新潟日報』-「社説」)
 
 巨大IT企業が市場を独占すれば、消費者に不利益が生じかねない。公正な競争を確保するには一定の歯止めが必要だ。
 公正取引委員会は、米グーグルがLINEヤフーの検索連動型広告事業の一部を制限したとして、グーグルに初の行政処分を科す方針を固めた。
 グーグルは公取委の調査を受け、独禁法の確約手続き制度に基づき改善計画を提出した。
 公取委は改善計画に実効性があると評価し認める見込みだ。計画の認定は行政処分の一つとなり、グーグルに履行義務が生じる。
 圧倒的な技術力で市場の独占を狙う動きに、「ノー」を突き付けたといえよう。
 検索連動型広告は検索サイトで入力した語句に合わせた広告が示されるもので、広告主には費用対効果が高い。国内シェアはグーグルが7~8割で、ヤフーが追う。
 ヤフーは2010年からグーグルと提携し、スマートフォンなどのポータルサイト検索連動型広告を配信していたものの、10年代半ばにグーグルから広告をやめるよう求められた。
 ヤフーが、グーグルの検索エンジンが使えなくなることを懸念し、要求をのまざるを得なかった構図が浮かぶ。
 公取委は、広告主の選択肢が狭まることでグーグルの寡占が一層進むと判断した。公正な競争原理を守る上で、妥当だろう。
 23年にも公取委はグーグルに関し、スマホ端末の初期設定で、スマホメーカーに対しグーグルのアプリストア搭載を認める代わりに自社の検索サービスを優遇させるなどした疑いがあるとし、独禁法違反の疑いで審査していた。
 グーグルは今回、既にヤフーへの要求を撤回している。公正な市場を維持していく責務があることを自覚してもらいたい。
 欧米の当局は、インターネット検索やオンライン広告、通販、基本ソフト(OS)、アプリ販売といったネット産業の基盤(プラットフォーム)を握る巨大ITへの監視を強めている。
 欧州では自社サービスの優遇を禁じる「デジタル市場法」が3月に全面適用された。
 巨大ITは資本力や技術力を背景に、さまざまな市場で利益独占を狙っている。
 日本も、巨大ITへの抑止力強化を図る姿勢が欠かせない。
 公取委は新たな巨大IT規制法案の今国会提出を目指している。巨大ITによるデジタル市場の寡占に風穴をあける狙いがある。アプリストアなどの運営を他事業者に開放するよう義務付ける。
 一方、新規参入で巨大ITが担ってきたセキュリティー機能が弱まるとの声もある。関係機関との連携を強め、懸念を払拭したい。スピード感を持って適切なルールを整備していかねばならない。
 
2024年4月22日『新潟日報』-「日報抄」)
 
 3人の子どもを育てた新潟市の女性が新聞に投稿していた。この春、ついに末っ子も就職して家を出て「心の大きな穴を見つめている」という。春は子離れを余儀なくされる季節でもある
▼著しい喪失感は「空の巣症候群」とも言われる。新潟日報のデータベースによると、言葉として最初に紙面に登場したのは30年前だ。子どもが巣立った寂しさで、しばらくは大きな人形を抱えて寝ていたという母親の話だった
高校野球を母親目線で描いた小説「アルプス席の母」(早見和真著)は、そんな親の悲哀が差し込まれた物語でもある。シングルマザーの主人公は、特待生として野球強豪校に進学する一人息子と一緒に、神奈川から大阪へ引っ越しを決める
▼息子が入寮する直前には「今日までの当たり前が明日から当たり前じゃなくなる」と泣き続け、息子にあきれられる。同じ境遇のママ友と「母性愛ばっかりで自我がないみたいな女、ホンマ嫌い」と話しつつ、息子のことでジタバタする現実に「ダサいよね、私たち」と卑下し合う
▼子離れも親離れもさらりと乗り越える親子関係もある。家族の在り方はさまざまだが、子どもと一緒に過ごせる時間は一生のうちでそう長くはないと、子育てを終える頃に気付き、うろたえる親も結構いるのでは
▼小説の母親は、野球を通して人間的に成長していく息子の姿に「これからが面白い」と思えるようになる。子どもに置き去りにされないように、そんな心持ちで上手に子離れができるといい。
 
ギャンブル依存症 「スマホ」1台から泥沼に(2024年4月22日『信濃毎日新聞』-「社説」)
 
 ギャンブル依存症のすさまじい実態に驚いた人も多いだろう。
 米大リーグ大谷翔平選手の元通訳、水原一平容疑者の違法賭博問題である。借金返済のため、大谷選手の口座から24億円以上を不正送金したとして連邦地検に訴追された。賭けた回数は2年余の間に約1万9千回、損失総額は60億円を超える。
 ギャンブル依存症は思いのほか身近な病だ。厚生労働省の推計によると、国内で依存症が疑われる人は300万人を超える。
 オンラインでのギャンブルが拡大している。水原氏がのめり込んだのもオンラインのスポーツ賭博だ。スマホが1台あれば、24時間どこにいてもギャンブルができる環境になっている。新たな対策を講じなくてはならない。
 ギャンブル依存症は意志の弱い人がなる―。そんな誤解はないか。心がけの問題ではなく、条件がそろえば誰もがなり得る病だ。
 慢性的にギャンブルができる状態が続くと脳内の物質が過剰に働き、社会生活に支障を来してもやめられなくなる。周りの人は気づきにくい。本人に病識がないことも多く、借金を隠すためうそをつくこともあるからだ。
 深刻なのは、患者の低年齢化だ。
 公益社団法人ギャンブル依存症問題を考える会」によると、2023年の相談件数は計479件で、8割近くを20~30代が占めた。
 スポーツ賭博を含むオンラインカジノの相談は全体の20%に達した。闇バイトに勧誘されるなど犯罪絡みの相談も増えている。
 特別法がある競馬やサッカーくじなどを除けば、日本ではそもそも賭博は違法である。海外で合法的に運営されているオンラインカジノも、日本から利用すると犯罪に当たる。若い世代に正確な知識を届ける工夫が要る。
 ネット上にはオンラインカジノの広告があふれている。政府は規制に乗り出すべきだ。
 ギャンブル依存症の治療と支援の拡充も欠かせない。
 まずは、本人と家族が抱え込まずに相談できるかが鍵になる。精神保健福祉センター医療機関などの窓口の周知を進めたい。
 大阪市でカジノを中心とする統合型リゾート施設(IR)の計画が進んでいる。依存症患者のいっそうの増加が懸念される。
 18年にギャンブル依存症対策基本法が施行されたものの、人材育成などの取り組みは十分とは言えない。政府と自治体は、オンラインカジノの実態も踏まえて対策を練り直すべきだ。
 
南海トラフ情報 混乱招かぬよう周知急げ(2024年4月22日『信濃毎日新聞』-「社説」)
 
 大きな地震が起きると、より大きな「後発地震」が続いて発生するケースがある。
 愛媛、高知両県で最大震度6弱を記録した17日の地震は、震源南海トラフ巨大地震の想定震源域にあり、その引き金になる可能性に懸念が高まった。
 2011年3月の東日本大震災では、2日前に三陸沖でマグニチュード(M)7・3の地震が起きていた。巨大地震に先行する地震だったとみられている。
 今回の地震については、気象庁などが、巨大地震が起きる可能性が「急激に高まったとは考えにくい」との見解を示している。
 ただ、地震はそもそも前触れもなく起きる可能性があり、気象庁の見解が100%合っているとも限らない。これを機に、備えを点検しておきたい。
 東海沖から九州沖の海底に延びる溝状の地形(トラフ)では、30年以内に70~80%の確率で巨大地震が発生するとされ、情報発信で特別の態勢が敷かれている。
 先行現象とみられる地震地殻変動を確認すると、気象庁が「臨時情報」を出して住民に避難の準備や警戒を呼びかける。2019年に運用が始まった制度だ。これまでに実際に出た例はない。
 発表の条件は、想定震源域を含む「監視領域」でのM6・8以上の地震や、通常とは異なる地殻変動など。今回はM6・6で、地震の規模が条件に満たなかった。発生のメカニズムも先行現象の想定と異なっていたという。
 出なくて良かった。そう胸をなで下ろして済む問題ではないだろう。出たらどうするか、理解している人が多くはないからだ。
 内閣府の昨年の調査では、被害が見込まれる「南海トラフ地震防災対策推進地域」の住民の7割超が、臨時情報を「知らない」「詳しく知らない」と回答した。
 この地域に、長野県内では南信地域全域と南佐久郡の2村、木曽郡4町村の計34市町村が指定されている。混乱を招かぬよう、国や県は周知に力を入れてほしい。
 臨時情報の内容は、最初は「調査中」として有識者の検討会が開かれ、最短で2時間後、危険度が高い順に「巨大地震警戒」か「巨大地震注意」が出る。事前避難を求められる地域もある。
 何も起きない可能性も高く、扱いの難しい情報だ。地域で不確実性とどう向き合っていくかは、まだ手探りの状態にある。
 まずは仕組みを知り、一人一人が発生時をイメージしてみる。その積み重ねが備えにつながる。
 
日本版DBS/防犯と人権尊重の両立を(2024年4月22日『神戸新聞』-「社説」)
 
 政府は、子どもと接する仕事をする人の性犯罪歴を確認する「日本版DBS」の創設法案を国会に提出した。学校や保育所などに照会を義務付け、性犯罪歴があった場合、就業希望者は採用せず、現職者は子どもと接触しないよう配置転換などを求める。準備期間を経て、2026年ごろの施行を目指す。
 子どもの心身に深い傷を残す性犯罪の防止は喫緊の課題だ。一方で、憲法の定める職業選択の自由や加害者の更生に配慮する必要もある。衆参両院で議論を尽くし、双方のバランスを図ってほしい。
 性犯罪歴の照会は、裁判所で有罪判決が確定した「前科」に限り、期間は拘禁刑(懲役刑と禁錮刑を25年に一本化)が刑終了から20年、罰金刑以下は10年とした。痴漢や盗撮などの条例違反も含める。
 検討過程では照会期間を無期限にするよう求める意見もあった。だが、刑法は禁錮以上の刑について執行後10年で消滅すると定めている。法案は再犯の傾向を踏まえ、10年を超えても就業を制限する。慎重な審議が求められる。
 性犯罪歴はこども家庭庁が照会システムを構築して管理し、雇用主が確認を申請する。高い秘匿性が求められる個人情報が漏えいしないよう万全を期す必要がある。
 法案は犯歴のない人からの被害防止も図る。子どもの訴えなどで雇用主が「加害の恐れがある」と判断した場合、職場替えなどを求める。
 加害者の大半が「初犯」であることへの配慮だが、危険性の判断は容易ではない。子や親とのあつれきを背景に恣意(しい)的に職場を追われることがないよう、政府は厳密で具体的な指針を示すべきだ。
 「抜け穴」への懸念もある。学習塾や放課後児童クラブ、スポーツクラブなどは任意の「認定制」となった。認定を受けない施設には、犯歴照会の義務はない。
 制度開始3年後に法律は見直されるが、問題点や課題などを詳細に洗い出し、改善に向けた議論を早期に始めてもらいたい。
 日本版DBSは重大な私権制限を含む制度である。社会の混乱を招かないよう、あらかじめ内容について十分周知する必要がある。
 
共同親権法案 子の権利守る議論尽くせ(2024年4月22日『山陽新聞』-「社説」)
 
 未成年の子どもに対し、現在の民法では婚姻中は父母が共同で親権を持ち、離婚後は父母の一方を親権者と定めることになっている。この規定を改め、離婚後も共同親権を選べるようにする民法改正案が衆院を通過し、参院での審議が始まっている。
 改正案では、父母の協議で共同親権か単独親権かを決め、合意できない場合は家庭裁判所が判断する。改正法施行前に離婚した人も家裁に申し立てれば共同親権に変更できる。離婚後の家族の在り方を大きく変える法案だ。成立すれば2026年までに施行される。
 共同親権で離婚後も父母が協力して養育の責務を果たすことができるなら、子どもの利益になろう。懸念されるのはドメスティックバイオレンス(DV)や虐待の恐れがある場合だ。元配偶者と関わりを持つことで、再び安全を脅かされないかという不安の声があるのは当然だ。
 こうした懸念に対し、衆院審議での政府の答弁は不明瞭な部分が多かった。廃案を求めるオンライン署名は審議が進むにつれて急増しており、22万人を超えている。
 DVがある場合は父母が対等な立場で話し合えない懸念があり、衆院では与野党の修正協議で「真意を確認する措置を検討する」と付則に盛り込まれた。「真意」をどのように確認するかは政府が改正法施行までに検討するという。DV被害者らの不安の払拭につながるものになるのか、今後の審議で明らかにしてほしい。
 親権を巡る紛争が増えるとみられ、役割が増す家裁の体制整備は大きな課題となる。現状でも調査官の不足で、DVなどについて適切な判断ができていないとの指摘がある。これまでの審議では、家裁の体制強化の具体策は明らかになっていない。
 さらに、共同親権となった場合、一方の親が単独で判断できるのは「急迫の事情」があるか「日常の行為」に限られる。父母の意見が対立すればその都度、家裁が判断することになる。「急迫」や「日常」の基準について政府の答弁は曖昧だ。政府は今後、具体例を指針で示すとしているが、審議の中でより詰めておくべきだ。
 保護者の収入で受給資格が変わる公的給付について、政府は共同親権なら父母の収入の合算で判定する方針を示している。しかし、養育費が支払われないケースも想定され、制度の精査が必要だ。
 子どもの権利について盛り込まれていないことも改正案の大きな欠陥と言わざるを得ない。日本が批准してきょうで30年となる国連の「子どもの権利条約」には自分の意見を表明する権利が明記されている。家裁などで子どもの意向を丁寧にくみ取る仕組みが要る。昨年施行された「こども基本法」を踏まえ、国会は子どもの権利保障のための議論を尽くすべきである。
 
夜のパン屋さん(2024年4月22日『山陽新聞』-「滴一滴」)
 
 「食品ロス削減へのご協力ありがとうございます」。仕事帰り、スーパーの食品売り場に立ち寄ると、総菜パックの値引きシールにこんなメッセージが添えられていた
▼物価高の昨今、少しでも安く夕食に並ぶ品がそろえば助かるし、自分の行動が無駄の削減にもつながると思うとつい手が伸びる
▼東京都内に、夕方になると店を開くちょっと変わったパン店がある。「夜のパン屋さん」。売っているのは、主に街のパン屋でその日売れ残った商品だ。スタッフたちが街を回って集めてくる
▼日が暮れたオフィス街の路地の一角。テーブルにあんパンやクリームパン、マフィンといった多彩な品々が並ぶ。スタッフの中には雇い止めなどで職を失い、困窮した経験がある人も多いという。ユニークなパン屋は新たな雇用も生んでいる
▼政府によると2021年度の国内食品ロスは523万トンに上る。国民1人が毎日、おにぎり一つを捨てている計算になる。一方で、その日の食に困るような人たちがいる
▼パンが売れ残る背景には、商業施設などでは閉店間際になってもある程度の量の商品を並べることを求められるという事情もあるそうだ。夜のパン屋さんを立ち上げた料理研究家枝元なほみさんは言う。「都合よく捨てられるのはパンも人も同じです」。人にもモノにも優しい社会でありたい。
 
政府の書店支援 本と出合える場守らねば(2024年4月22日『中国新聞』-「社説」)
 
 経営難のため各地で減り続けている街の本屋を支援しようと、経済産業省が省内横断の書店振興プロジェクトチームを立ち上げた。
 政府が乗り出すほど、書店の経営は悪化している。人口減少や活字離れ、ネット販売の増加などを背景に、店舗数は10年ほど前に比べ、約3割も減っている。政府として、その要因を掘り下げ、対策づくりを急いでもらいたい。
 驚くのは「書店ゼロ」自治体の多さだ。地域間で文化的環境の格差が広がっているといえよう。放置できない。
 出版文化産業振興財団によると、2022年9月時点で書店のない市町村は456。全国1741市区町村の4分の1を超え、1店舗しかない自治体と合わせると、半数近い市町村が危機的状況だ。特に町村が深刻で、地域文化の拠点が失われつつある。
 広島県は、全ての市町に書店があった。しかし山口、島根は「書店ゼロ」市町村の割合が20%を上回っていた。
 書店数減少のペースは、新型コロナウイルス禍による巣ごもり需要などで一時は鈍った。しかし街の本屋の売れ筋だった雑誌や漫画の電子化が進み、経営悪化にはなかなか歯止めがかかっていない。
 ネット販売の定着も響いている。地方からでも、夜中や早朝であっても注文できるなど、便利なことは確かだ。
 ただ、書店には捨てがたい魅力がある。目当てのジャンルの本だけではなく、多種多様な分野の本に目が留まり、思いがけない本を見つけることも少なくない。そうした新たな出合いや発見の場となるのは、書店ならではだろう。
 もちろん、最新の情報や文化に触れられる拠点としての機能も果たしている。
 その点、気になる数字がある。書店と並ぶ地域文化の拠点でもある図書館のない市町村が、全国で394あることだ。うち247町村には書店もない。多様な本と直接触れ合う機会がほとんど奪われていると言わざるを得ない。
 地域の本屋をどう守っていくか。青森県八戸市の思い切った取り組みが参考になる。市営書店を8年前にオープンさせた。売れ筋の本は取り扱いを控え、良質だが採算のとりにくい本をそろえている。民間書店や図書館との連携や役割分担を心がけているからだ。とはいえ、毎年赤字で、市が税金を数千万円つぎ込んで補っているという。
 「本のまち八戸」を3期目の公約に掲げた市長が、東京に負けない読書環境を―と考えて実現させた。多額の税金投入を考えれば、市民の理解が大前提である。
 地域の文化拠点を維持する施策として、書店の経営支援だけでは不十分ということだろう。図書館との機能分担や税金投入の是非など、考えるべきことは多い。本を売る側だけではなく、買う側の視点も欠かせないはずだ。
 経産省だけでは到底、手に負えそうにない。本と出合える場を守るため、文化や教育、生涯学習を管轄する文部科学省や、地方行財政に関わる総務省を含めた省庁横断的な取り組みが求められる。
 
道の駅の旅情(2024年4月22日『中国新聞』-「天風録」)
 
 少女は旅に出る。広島県呉市からヒッチハイクで古里岩手を目指して。広島市出身の諏訪敦彦(のぶひろ)監督が4年前に撮った映画「風の電話」は東日本大震災で家族を亡くした悲しみを描いたロードムービー。少女が旅を共にする元原発作業員と出会う舞台が、道の駅だった
▲その原点も広島だそうだ。1990年1月、広島市で中国地方の将来を考える集いが催された。「道路にも駅がほしい」。山口県に住む出席者の提案から国が動き出す。道中のトイレ確保に悩んでの発言だったと聞く
▲きょうは「道の駅の日」。31年前に第1弾の103カ所が登録された。今や全国津々浦々、1200カ所以上。温泉や文化体験、果物狩りと特色も豊か。単なる休憩所でなく、目的地に据える人も多いらしい
▲近年は防災を冠した施設も増えた。中国地方で最も新しい広島県東広島市の「西条のん太の酒蔵」もそうだ。災害の時は自衛隊や警察の救援基地となる。そう思えば広い敷地も見慣れぬ発電装置、貯水タンクも頼もしく映る
▲進化はしても、旅情は感じる。その土地ならではの産物やグルメ、もてなしが醸すからだろう。目指しても、気まぐれに寄っても良し。薫る風が旅へいざなう季節である。
 
医療・介護費倍増の試算 厳しい未来、回避したい(2024年4月22日『山陰中央新報』-「社説」)
 
 内閣府は、2060年度までの財政状況や社会保障費を巡る中長期試算を公表した。現状が続けば「長期的に経済の伸びを医療・介護費の伸びが上回る」と指摘。医療・介護給付費の対国内総生産(GDP)比が19年度の8・2%から60年度は最大16・1%へほぼ倍増すると予測した。少子高齢化が進む日本の未来はこのままでは厳しい。いかに回避するかが問われている。
 65歳以上の人口増は40年頃ピークを越す。だが若年人口は減少が続くため高齢化率は上がる。しかも医療の利用が増える75歳以上、要介護者が多い85歳以上はなお増加していくことが医療・介護費を押し上げる。これが倍増もあり得る要因だ。
 試算は、25~60年度の実質経済成長率を巡り(1)0・2%程度の「現状投影」(2)1・2%程度の「長期安定」(3)1・7%程度の「成長実現」―の3シナリオに分けて実施。現状投影ケースで、医療高度化による給付拡大が従来の2倍ペースで進んだ場合に医療・介護費が最大になるとしている。
 どうすればこのシナリオを回避できるのか。内閣府は言う。1%超の成長率を確保するとともに、医療高度化などによる給付拡大を相殺する社会保障の歳出改革を実行できれば、医療・介護費の対GDP比は8・8%程度で安定させられると。問題は、これらの条件を満たすためにどんな具体的政策を打てるかだ。
 試算は結論として、人口減少下の経済成長には「生産性の向上、労働参加の拡大、出生率の上昇などによる供給力強化」が必要とした。医療・介護の給付と負担の見直しで財政を改善していくには「デジタルトランスフォーメーション(DX)による効率化、地域事情に応じた提供体制構築、応能負担徹底」を求めた。改革の「項目」は網羅されたが、肝心の具体策は挙げられていない。
 処方箋を伴わない警鐘では、国民の不安をあおるだけに終わりかねない。岸田文雄首相は「人口減少が本格化する30年までに持続可能な経済、社会を軌道に乗せる」と請け合うなら、それを実現する具体策を早急に国民へ示し、国会の審議に付さなければならない。
 試算には懸念される点も多い。内閣府が目指すべきだとする長期安定シナリオは成長率1・2%に加え、合計特殊出生率1・64程度も前提とする。「現状のままでは長期的に0%程度」と見る成長率を1%超に引き上げるのはそう容易ではない。出生率は19年で1・36、22年は1・26まで落ち込んだ。1・6台は1989年以降記録したことがない高いハードルだ。
 甘い見通しを前提にして成り立つ試算では、内閣府の言う「長期安定」実現の目標そのものが現実味を疑われかねない。
 医療・介護を含む社会保障費は国の一般会計歳出の3分の1を占める。さらなる膨張に歯止めをかけるには歳出改革とともに、経済成長と出生率上昇などで歳入を底上げしていくことが求められるのは間違いない。
 「30年までに新たな経済社会システム構築が必要」とした試算結果を受け、政府は経済成長実現へ今後3年で集中的に取り組む施策をまとめる。一方「30年までが少子化傾向反転のラストチャンス」とする政府は今後3年に子育て支援の「加速化プラン」を実行する。経済対策と少子化対策はまさに一体と認識したい。
 
「ずる働き」って何?(2024年4月22日『山陰中央新報』-「明窓」)
 
 用例採集」とは、新しい言葉や言葉の用法の変化などを文献や身の周りから集める作業のこと。イメージしやすいのは、辞書を作る編集者の姿。気になった言葉があれば、どこでも専用カードに書き込んでいく。三浦しをんさんの小説を映画化し、11年前に公開された『舟を編む』で知った
▼先月、テレビドラマを見ていてカードに書き込みたくなる言葉を見つけた。「ずる働き」。手元の広辞苑を広げると、「ずる休み」(正当な理由がなく横着して学校や勤務を休むこと)はあっても、その反義語であろう「ずる働き」なんて当然掲載されていない
▼報道記者を扱ったドラマで時間外労働をこなす先輩に若手が訴える。「そういうの美しいとか思ってるのかもしれないですけど、単なる『ずる働き』ですからね」「本当は休むべき時間にも働いてるんです。そしたら会社はその仕事量を時短でこなせると判断しちゃいますよね。それって私たちも同じことしないと同じ評価をもらえないんです」
▼胸に響いたのは同様なことを後輩に言われた経験があるから。やりたいままに新しい仕事を増やしてきたが、「後任のことを考えてますか」とたしなめられた
▼生産性を高めながら勤務時間内で仕事を終えるには、個々の能力を高めるか、人員を増やすしか思い付かない。簡単にできそうにないが、「ずる働き」という言葉が辞書に載る時代にはしたくない。(健)
 
【巨大IT規制】ゆがむ競争食い止めたい(2024年4月22日『高知新聞』-「社説」)
 
 スマートフォンやインターネットを使ったサービスはいまや生活に欠かせないインフラの一部といえる。その市場が特定の巨大IT企業によって支配されるようでは、安心して利用できない。
 市場の独占を防ぎ、いかに利用者サービスを向上させるか。より便利で高度なインフラにできるか。私たちの社会はいま、重要な局面を迎えている。
 公正取引委員会が今国会に提出を目指す「スマホ特定ソフトウエア競争促進法案」を自民党に示した。
 巨大ITに対し禁止・順守事項をあらかじめ規定。スマホ用アプリを取り扱うアプリストアや決済システムの運営では、競合他社の利用を妨げたり、差別的な取り扱いをしたりしないよう義務付けた。
 違反した場合は国内での関連売上高20%分の課徴金を科す。改善が見られなければ30%に引き上げることもできるようにした。
 先行する欧州連合(EU)は今年3月から「デジタル市場法」を全面適用。違反企業には、最大で全世界の年間売上高10%の制裁金を科すようになった。
 日本では現行、独禁法が一定の競争制限行為を「排除型私的独占」として禁止。違反者には売上高6%分の課徴金を科すことにしている。EUなどが規制を強化する中、日本も歩調を合わせたかたちだ。
 スマホを巡っては、スマホを動かす基本ソフト(OS)が米巨大ITのアップル製とグーグル製にほぼ二分されている。このためアプリを開発しても、アプリストアでの販売条件や手数料が両社優位になりやすかった。
 こうした状況が続けば、良質で安価なアプリ開発が妨げられ、結果的に利用者の損失につながりかねない。社会のスマホやネットへの依存度は増しており、監視・規制の強化は世界的な流れといってよい。
 折しも日本では、グーグルがLINE(ライン)ヤフーの「検索連動型広告」事業の一部を制限していたことが明らかになった。これもゆがむ競争を象徴している。
 検索連動型広告は、検索サイトで入力した言葉に関連する商品などが表示される。やはりグーグルは圧倒的なシェアを占め、ヤフーが追う構図にある。
 ただ、ヤフーは検索サイトに競合相手のグーグルの技術を活用。代わりにグーグルがヤフーの検索連動型広告事業を制限する契約を結んでいた。公取は、市場でグーグルの独占を招きかねないと問題視。グーグルが改善計画を提出した。
 巨大ITを巡ってはこれまでも、運営サイトなどでの自社サービス優遇や、利用者の同意なくデータを収集して興味関心に沿った「ターゲティング(追跡型)広告」を表示することなどが問題となってきた。
 寡占企業本位のサービスにさせないためにも、ゆがむ競争を食い止めなければならない。望ましいサービスや公正な競争環境の在り方について論議を加速させる必要がある。
 
核と米国(2024年4月22日『高知新聞』-「小社会」)
 
 1956年の「怪獣王ゴジラ」はなんとも腹立たしい映画だ。日本のゴジラシリーズ第1作「ゴジラ」(54年)の海外版で、以前も本欄で触れたように内容が米国で再編集された。
 元の日本版が製作されたのは終戦の9年後。まだ広島、長崎の原爆の記憶も新しいこの年、米国の水爆実験で多くの日本の漁船が被ばくする。ビキニ事件である。ゴジラはこの実験で目覚める設定で、反核を強く意識した作品だった。
 それが米国版ではゴジラが暴れる場面を生かしつつ、核の問題に触れたシーンはほぼカットされた。核実験が続けば「ゴジラの同類がまた、世界のどこかへ現れてくるかもしれない」。山根博士の悲痛な訴えも消された。
 要するに単なるパニック映画にしてしまった。米国社会の核への意識の低さが分かる。そんな出来事から約70年。日本で上映中の米映画「オッペンハイマー」が話題になっている。原爆を開発した米国人科学者のその後の苦悩を描いた。
 ドイツや日本との戦争を終わらせるために開発した原爆。旧ソ連に対抗して手にした水爆。だが1個の核兵器はやがて1万個、10万個の問題へと発展する。「われわれはそう考えるべきだった」とオッペンハイマーは生前、講演で語っている。
 きょうは彼の生誕120年。その半生を映画にするようになったいまの米国社会なら、過去も省みることができるだろうか。狂気の核開発も、反核映画の改悪も。
 
医師の残業規制 地域医療との両立目指せ(2024年4月22日『西日本新聞』-「社説」)
 
 医師の過酷な長時間労働が医療体制を支える現状はいびつだ。やりがいや使命感に依存した仕組みを変えるきっかけにしたい。
 病院などで働く勤務医の残業時間を規制する「医師の働き方改革」が今月始まった。
 2019年に施行された働き方改革関連法に基づく措置で、医療現場への配慮から5年間猶予されていた。もう先延ばしはできない。
 過重労働は心と体をむしばむ。勤務医に対する調査で、死や自殺について週に数回以上考える人が20代で14%に上った。神戸市で26歳の医師が自殺し、労災と認定された事例は記憶に新しい。
 疲労の蓄積で集中力が下がれば、医療ミスや質の低下につながりかねない。
 新たな規制は、時間外・休日労働の上限を原則年960時間と設定した。過労死ラインの月80時間が毎月続くレベルで、一般労働者の規定を大きく上回る。厚生労働省の22年調査では勤務医の2割が超えている。
 さらに救急医療やへき地医療を担う医師、研修医らは特例として年1860時間まで認める。福岡県では26の医療機関が指定された。
 夜間や休日に待機する宿日直は「軽度」などと認められれば、労働時間に含めなくてよい。実態と懸け離れた運用が懸念される。若手医師の自己研さんと労働時間の線引きも曖昧なままだ。
 こうした「改革」で働き方が根本的に改善するとは思えない。罰則付きとはいえ、現状の追認ではないか。
 規制が厳しくならなかったのは、地域医療への影響を抑えるためだ。
 産科をはじめ夜間や休日の対応は、大学病院などからの医師派遣で成り立っている。労働時間の制限で派遣されなくなれば現状維持は難しい。日本医師会の調査で、3割の医療機関が救急医療の縮小や撤退を懸念している。
 実際に福岡県飯塚市と周辺市町では、休日・夜間の小児科診療の受け入れ先と時間を変更した。重症者以外は24時間体制でなくなったが、開業医の協力で影響を最小限にとどめようとしている。
 こうした模索が各地で増えそうだ。医師の健康と地域医療の充実は両立させなければならない。自治体と医師会が連携し、地域事情に合った仕組みを整えてもらいたい。
 医療現場の工夫も必要になる。医師の役割を分担するタスクシフトは不可欠だ。研修を受けた特定看護師や事務作業を補助する医療クラークは増員したい。複数の医師で患者を担当すれば交代勤務がしやすい。情報通信技術による効率化は急ぐべきだ。
 残業規制の強化によって、サービス残業が増えることがあってはならない。医療機関は肝に銘じてほしい。
 救急車を呼ぶ前に相談電話を利用するなど受診する側も理解を深め、社会全体で医療の質を確保したい。
 
ダムと地元同意 分断の回避は県の責務だ(2024年4月22日『熊本日日新聞』-「社説」)
 
 球磨川支流の川辺川に国土交通省が計画している流水型ダムの建設について、五木村の木下丈二村長は21日の村民集会で「ダムを前提とした村づくりに向けて新たなスタートラインに立つ」として受け入れる意向を示した。2020年7月豪雨を機に浮上したダム計画は新たな局面に入る。
 ダムが建設されれば五木村の一部は水没する。村民からは「ダムを前提としない振興策は考えないのか」といった反対意見も出た。村長の表明は重い意味を持つが、村民の総意とは言えまい。
 ダム本体の建設予定地である相良村でも、吉松啓一村長はダムへの賛否表明を留保していた。熊本県の木村敬知事は18日、「対立や分断をあおることはしたくない」として村に同意を求めない意向を伝えた。
 しかし、五木村相良村の同意は、そもそも県が望んだものだ。知事の言う通り、ダム建設によって住民間の対立や分断を深めるべきではない。地域にわだかまりを残さぬよう、今後は対立や分断を回避する取り組みを県が主導するのが筋だ。県は住民の声を丁寧に聞き取り、納得を得られるまで説明を重ねなければならない。
不可欠なプロセス
 1期目に川辺川ダム計画の白紙撤回を表明した蒲島郁夫前知事は、4期目にその方針を大転換し、流水型ダム容認へとかじを切った。ダム問題に長年翻弄[ほんろう]され、苦渋の決断を重ねて強いられた両村にとっては、簡単には受け入れ難い方針転換だったに違いない。
 県は五木村に対し総額100億円規模の財政支援を含む振興計画を提示。相良村にも、総額112億円超の振興策を示した。その上で、前知事は任期中に両村からダム建設への「同意を得たい」と意欲を示していた。
 両村の同意はダム建設にあたり法的に必要な手続きではない。とはいえ、今後の事業を円滑に進めるためには不可欠なプロセスだ。知事が交代したからといって、その重要性が薄れるわけではない。
「後継」名乗るなら
 蒲島前知事は退任直前の12日、流水型ダムに対する国交省の「環境影響評価準備レポート」に対する意見書を提出。環境に極限まで配慮された内容である、とレポートを高く評価した。その上で「(ダムを柱とした)緑の流域治水に住民の理解を得られるよう、新知事に取り組みを引き継ぐ」と語った。実際には、何がどの程度引き継がれるのだろう。
 木村知事は「蒲島後継」を前面に押し出して知事選を勝ち抜いた。前知事が果たし得なかった同意取り付けの意向をあっさり引っ込め、ダム計画を先に進めようとするかのような姿勢には戸惑いを禁じ得ない。
 村長が賛否を表明できないのであれば、県が時間をかけて村民に説明を尽くすべきだ。国交省とともに丁寧な取り組みを重ねる覚悟がないのなら、ダム建設を推進する資格はない。
思いを受け止めて
 球磨川流域12市町村でつくる川辺川ダム建設促進協議会は12日、流水型ダムの早期着工と完成、五木村相良村の振興を求める要望書を国交省と県に提出した。
 その事実だけをみると、ダム建設をちゅうちょする必要はないように見える。しかし、五木村相良村と同じように、他の自治体でも住民の思いは一様ではない。球磨川治水は流域住民の悲願だが、住民間のわだかまりを深めるようなやり方では、人口減少にあえぐ地域はさらに衰退してしまう。
 国交省はダム建設に向けた取り組みのピッチをさらに上げるだろう。県には、そうした動きに無批判に追従するのではなく、流域住民の複雑な思いをしっかり受け止め、国交省に慎重な対応を求める役割を果たしてもらいたい。
 
株価の行方(2024年4月22日『熊本日日新聞』-「新生面」)
 
 「株上がれー」と両手に野菜のカブの束をつかんで持ち上げてみせたのは故小渕恵三元首相だ。1998年11月、視察先の栃木県内の農村でのこと
▼当時の日本経済は金融システム不安が絡んだ平成不況の真っただ中。日経平均株価が1万3千円を割り込みバブル崩壊後最安値を更新していた時期だ
▼その日経平均株価は今年に入って史上最高値を更新して一時は4万円を超える好調ぶりだった。それが先週末には、終値で千円を超える下げ幅を記録した。「中東情勢の緊迫化でリスク回避の売りが膨らんだ」とされるが、株価の動きには説明しきれない部分も多い。さて今週はどんな動きを見せるのやら
小渕内閣の支持率は発足後に最低を記録して上昇傾向となり、日経平均株価に連動していた。深刻な支持率低迷にあえぎ、株価の上昇も支持に結び付かない岸田文雄首相にしてみれば、先輩にあやかりたいところだろう
▼ただ、多くの日本国民にとって株価の上昇は日々の暮らしとは遠い場所の話だ。一方、海外には株価上昇が国民の生活に直接的に結び付いていて大歓迎される国もある。家庭の金融資産に占める株や投資信託の割合の高さからだが、株価と暮らしを結び付ける策はほかにもありそう
▼政府の少子化対策を巡っては、野党から日銀が保有する投資信託の収入を財源として活用する案も浮上している。案の是非はともかく、株価が上がれば暮らしにも恩恵があると感じられる社会になったら、首相の「株」も多少は上がるのではないか。
 
「合理的配慮」の提供 全障スポの「レガシー」に(2024年4月22日『佐賀新聞』-「論説」)
 
 改正障害者差別解消法が1日に施行され、車いす移動のサポートや筆談など、過重な負担がない範囲で障害のある人の困りごとに対応する「合理的配慮」の提供が、民間事業者にも義務付けられた。佐賀県では今年10月、全国障害者スポーツ大会が開催され、多くの当事者たちが来県する。丁寧にコミュニケーションを取り、工夫を重ねながら、県民一人一人の「心のバリアフリー」につなげたい。
 障害者差別解消法は、障害の有無に関わらず全ての人が分け隔てなく暮らすことができる社会の実現を目指し2016年4月、施行された。障害のある人と障害のない人が同じ機会を得られるようにするために必要な調整などを行う「合理的配慮」を国や行政機関、自治体に義務付け。24年4月の改正法では企業や団体、個人事業主といった民間事業者にも拡大された。
 合理的配慮の提供は、その言葉から難しいイメージがあるかもしれないが、障害のある人が日頃の暮らしの中で直面している困りごとを取り除く具体的な対応と言い換えられるだろう。例えば、飲食店で備え付けのいすを移動させて車いすのまま着席できるスペースを確保したり、会合でホワイトボードの文字の書き写しが難しい人にカメラ撮影を認めたりするなど、さまざまな対応が考えられる。
 県は改正法施行を見据えて23年10月、県障害者差別解消条例を改正した。県職員が出向いて15年度から実施している出前講座は23年度、商工会議所や商工会も含めて前年度より12回多い35回開催。23年11月には障害者差別に関する相談専用ダイヤルを県障害福祉課内に開設したほか、24年3月には当事者たちの意見を踏まえた事業者向けの「合理的配慮の提供 入門ハンドブック」を1万6千部作成し、配布している。
 生まれつきの視覚障害で視野が狭い佐賀市出身の10代男性は「全盲と間違えられたことがある」と自らの体験を振り返る。障害の特性は一人一人違うことから、合理的配慮の提供についてハンドブックでは「障壁を取り除くため、まずは障害について知ることが大切」と明記している。障害の特性ごとに困りごとや配慮の事例をまとめており、分かりやすいように漫画などを使って伝えている。
 折しも県内では今年10月、全国障害者スポーツ大会が初めて開かれ、さまざまな障害のある選手のほか家族、役員ら多くの関係者が県内を訪れる。競技会場だけでなく飲食店、宿泊施設、観光地などで当事者たちと対面で接する機会は増える。準備を整えつつ、まずは積極的にコミュニケーションを取り、事例を積み重ねることが大切だろう。
 合理的配慮の提供には、手すりの設置や段差解消といったハード整備も考えられるが、どうしてもコストと時間がかかる。また事業者側の「過重な負担にならない範囲で」と裁量があるが、捉え方次第ではトラブルの原因にもなりかねない。ハード整備が難しくても、現場では、一人一人の障害の特性や困りごとがケース・バイ・ケースで違うことを理解し、互いに向き合っていくことが肝要だ。
 海外からの観光客や労働者が増え、高齢化が進む中で、合理的配慮を提供する考え方は何も障害の有無に限ったことではない。誰もが互いの思いに寄り添い、自然に支え合う優しい佐賀県を目指す取り組み「さがすたいる」を、全障スポの「レガシー」として定着させていきたい。(林大介
 
「出直し」市長選(2024年4月22日『佐賀新聞』-「有明抄」)
 
 多久小城支局に勤務していた2000年4月、ある町の町長が職員採用試験を巡る収賄容疑で逮捕された。全く予期せぬ事態。しかも辞職に伴う町長選には4人が出馬、息つく間もなかった。この時、「出直し選挙」という言葉をよく使った。まちづくりの原点に立ち戻るという意味が強い
◆構図は違うものの、きのう告示された神埼市長選も市政出直しの選挙だ。ふるさと納税事業を巡る官製談合事件で2月に逮捕された市長の辞職に伴って実施される
◆二つの「出直し選挙」は逮捕された首長の資質が最大の要因としても、日本の政治は首長の権限が絶大で、利益誘導型になりがちということも一因ではないか。24年を経た今、そう思う。だからこそ議会による監視や苦言、提言が必要だ。加えて、政策に対する住民の関心が求められる
◆首相や国会は遠い存在でも市町村の首長や議員はまだ身近に感じられる。元県議の佐野辰夫氏は自著『市民と地方議員が主役の政治改革!』に、地方自治の主役は住民。民主主義とは参加と議論を経て、みんなで責任を担うこと、という趣旨の文章を記す
神埼市長選には新人2人が届け出た。「民主主義=選挙」ではないが、高い投票率が新市長の覚悟につながる。選挙は自分たちの町の未来を考える機会。一票を無駄にせず、出直しの意義も考えてみたい。(義)
 
スポーツ賭博(2024年4月22日『しんぶん赤旗』-「主張」)
 
もうけ優先の解禁 犠牲は国民
 ギャンブルがスポーツや社会、人間性を蝕(むしば)む現実を浮き彫りにしています。米大リーグ・ドジャース大谷翔平選手の元通訳・水原一平容疑者による違法賭博事件です。
 同容疑者はスポーツ賭博の借金返済のため、大谷選手の口座から24億5千万円あまりを不正送金していました。2年間で約1万9千回の賭けを行い、損失総額は62億円余に上ります。
 米連邦地検の訴状には、胴元に「賭けの上限額引き上げ」を頼み、深みにはまるギャンブル依存症の生々しい姿が示されています。
■米は解禁で急拡大
 犯した罪はぬぐいようもありません。しかし、賭けが氾濫する社会環境に目を向ける必要があります。米国では2018年にスポーツ賭博が解禁されました。それまでは原則禁止でしたが、連邦最高裁連邦政府に規制する権限はないと州に権限を委ねました。
 それによって50州中38州が解禁したのは、州の税収増となるからで、その額は21年までに約1700億円となっています。併せて賭博産業も巨大ビジネス化し、昨年の収益は約1・6兆円に上っています。
 公認業者の宣伝合戦が起き、テレビ中継に賭け情報があふれます。スマートフォンなどで手軽に賭けられることで、若者の依存症が社会問題化しています。米問題ギャンブル全国協議会は成人250万人が重度の状態と公表。18年からの3年間で依存症リスクが3割アップしたといわれます。
 スポーツ現場への影響も深刻です。17日、米プロバスケットボール協会(NBA)の選手がスポーツ賭博に関わる情報を漏らし永久追放になっています。NBAでは3月、賭けに参加した一般の人が、チームの監督を脅迫する事件も起きています。
■日本で導入の動き
 問題はこれが対岸の火事ではないことです。
 日本には01年からサッカーのJリーグを対象にしたスポーツ振興くじがあります。刑法では賭博を禁じているため、競馬や競輪同様、特別法で例外的に認め公営賭博として実施。売り上げが思うように伸びず、一昨年のバスケットボールに加え、プロ野球を対象にする動きも強まっています。
 その上、米国のような民間のスポーツ賭博導入が画策されています。スポーツ庁は昨年から中学校の休日の部活動を地域に移す取り組みを始め、財源に「スポーツベッティング(賭博)の可能性」を挙げています。教育に関わる財源を賭博のあがりで賄おうとする驚くべき発想です。
 同庁と経済産業省が研究会を重ね、自民党のスポーツ立国調査会やIT関連企業も含めた政財官一体で推進しようとしています。
 米国の現状を見る限り、もうけ優先で規制緩和を続ける新自由主義的な施策によって、多くの依存症を生むなど犠牲になるのは国民の側です。スポーツもその根幹が傷つけられ、ゆがめられることが明瞭です。
 ギャンブル大国といわれる日本では6年前、カジノを解禁したばかりです。これ以上、賭博を増やすことの愚は論をまちません。今回の事件の教訓は、有害なスポーツ賭博は決して解禁すべきでないということにほかなりません。
 
(2024年4月22日『しんぶん赤旗』-「潮流」)
 
 納期を守れ―。この発言が批判を広げたのは1年ほど前でした。経済同友会の新浪代表幹事が納期と称して強く迫ったこと。それは、マイナンバーカードの強要と健康保険証の廃止でした
▼受けた岸田首相は、さっそく「私自身が先頭に立って進めてまいります」と表明。相次ぐトラブルや国民の不安、混乱などお構いなし。財界の意向にそって突き進んでいく政権の姿は、ここでもあらわになっています
▼マイナ保険証の運用が開始されてから3年。躍起になって手を打ってきたが、いまだに利用率は5%程度。それなのに現行保険証の今年12月の廃止を強行するのか。共産党の倉林議員が国会で追及しました。ところが武見厚労相は、利用率に関係なく廃止する、その後も支障は生じないと強弁
▼多くの医療現場では、いまもトラブル続きで解消の見通しはたたず、面倒な事務手続きだけが増えています。そんな現状も顧みず、利用率が上がらないことを医療機関の対応のせいにする発言も
▼河野デジタル相にいたっては、マイナ保険証での受け付けができない医療機関を「通報」するよう、自民党の国会議員に呼びかけていました。みずからの失政の責任を医療機関や受診者に押しつける。まさになりふり構わぬ、卑怯(ひきょう)なやり方です
▼個人情報をビジネスに利用するため、財界が強力に推進してきたマイナンバー制度。臆面もなくいい顔をむけ、実行するのは財界や米国のためばかりの岸田首相。いったい、この国の政府は何のためにあるのか。