「ペット専用エアコン」も出てきた中国の家電見本市 成長が止まった業界がすがる「Z世代」「AI」(2024年3月22日『東京新聞』)

 
 深刻な不動産不況で消費が低迷する中、これまで急成長してきた中国の家電業界も停滞が続いている。各メーカーは10~20代の「Z世代」向け商品を相次いで打ち出し、苦境の打開を狙う。共産党・政府も大規模な買い替え喚起を唱えており、政策による下支えへの期待が高まっている。(上海で、石井宏樹)

◆「ウチの子」に合わせ自動で室温調節

 14~17日に上海で開かれたアジア最大級の家電見本市「AWE」。人工知能(AI)や省エネなど従来のトレンドは続き、リンナイ名古屋市)の中国法人は住宅全体の水や温度を一体的に管理し、冬の暖房用エネルギーを4割下げるシステムを紹介した。
14日、上海の新国際博覧センターで、犬猫用のエアコンを紹介する海信集団(ハイセンス)のブース=石井宏樹撮影

14日、上海の新国際博覧センターで、犬猫用のエアコンを紹介する海信集団(ハイセンス)のブース=石井宏樹撮影

 若者向けの商品を多くのメーカーが打ち出し、中でもペット向け家電が目立った。電機大手の海信集団(ハイセンス)は犬猫用エアコンを展示。犬猫の写真を事前に読み込んでおくと体の大きさや毛の長さからAIが自動で最適な温度を算出し、飼い主の不在時に室温を自動調整する。担当者は「ペットは家族との意識が広がり、専用家電の需要が高まっている」と説明する。
 韓国LG電子は携帯式の小型液晶テレビを展示。キャンプなど屋外で映画や音楽を楽しむ生活スタイルを提案した。

◆鈍い消費回復…買い手のコスパ意識を狙う

 ゼロコロナ政策終了後の市場の回復は鈍く、市場調査会社「奥維咨詢」(AVC)によると、2023年の中国の家電(通信機器など除く)の小売額は7931億元(約15兆9000億円)で、ピークだった18年から8%減少している。中国メディアでも「家電市場は40年の時を経て緩やかな成長の周期に突入し、業界は急成長からの転換に直面している」(経済参考報)との危機感が示されている。
 パナソニック中国法人の木下歩最高経営責任者(CEO)は「コロナ後の実体経済は非常に景気が厳しく、消費者の財布のひもが固くなっている」とみる。同社はAWEで、若者向けに生活家電の新シリーズ「Xtra(エクストラ)」を発表。ネット通販大手の京東が独占的に販売する形で若者層への浸透を図る。
14日、上海の新国際博覧センターで、高い省エネ性能をうたったリンナイの住宅向けシステム=石井宏樹撮影

14日、上海の新国際博覧センターで、高い省エネ性能をうたったリンナイの住宅向けシステム=石井宏樹撮影

 パナソニックは19年以降、中国で人気の家電を分解して部品を調べ上げ、3割以上のコスト改善を実現。新シリーズの洗濯機や冷蔵庫は、若者を中心に強まるコストパフォーマンス意識に対応する価格帯で販売するという。

◆政府は「下取り促進策」でテコ入れするが

 消費低迷によるデフレ懸念が強まる中、党・政府は2月、家電や自動車の下取り促進策を策定し、買い替え需要を喚起する方針を発表。具体的な中身や補助金の規模は明らかになっていないが、AWEを主催する中国家用電器協会は「家電サプライチェーン(供給網)全体の機運が高まっている」と声明を出した。各メーカーの期待感も高く、木下氏も「メーカーにとって歓迎すべきチャンス。省エネ商品をそろえており、環境に貢献する訴求もできる」と述べた。
 中国メディアによると、同様の景気刺激策はリーマン・ショック後の09~13年にも行われ、1000億元(約2兆円)の補助金が投じられ、7000億元の家電購入につながったという。しかし、コロナ禍を受けてこの数年、家電への補助金政策は各地ですでに行われている。「就職や給料に不安がある中、積極的に買う気にはならない」(中国の女子大学生)との声も漏れ、大きな消費喚起につながるかは不透明だ。