水際対策で済まぬ難民問題(2024年5月27日『日本経済新聞』-「社説」)

リビア沖の地中海で救助される木造ボートに乗った移民(23年9月)=ロイター
 欧州で移民・難民の受け入れを厳しくする動きが相次いでいる。水際で追い返される人が増え、必要とする保護を受けられなくなる事態を憂える。
 欧州連合EU欧州議会は4月、難民申請が認められない人の送還を迅速にする新制度を決めた。英国は不法移民をアフリカのルワンダに強制移送する法律を成立させた。
 秩序だった受け入れはもちろん重要だ。アフリカから対岸の欧州へ小型ボートで密航し、転覆する悲劇は受け入れがたい。こうして地中海で死亡または行方不明になった人は2023年に3千人を超え18年以降で最悪になった。英仏海峡をボートで渡る不法移民は22年、4万5千人を上回った。
 英国では不法移民に対応する財政負担が問題になっていた。EUにとっては加盟国の公平な分担がかねて課題だ。しかし新たな策が、危険な密航を思いとどまらせる抑止力になるのだろうか。
 背景に欧州の政治日程がちらつくのは気がかりだ。6月の欧州議会選で「反移民」の極右の躍進が予想されるなか、現在多数派の中道勢力が対応を迫られたとの見方がある。英国のスナク政権は7月4日に設定した総選挙で、不法移民対策を実績として訴えようとしている。
 門前払いだけで移民・難民問題は解決しない。アフリカや中東などで暮らせないと感じる人を減らさなければ、豊かで安全な欧州を目指す流れは止まらない。サハラ砂漠以南のサヘル地域では武装集団の暗躍で治安が悪化し、スーダンの武力衝突は泥沼化している。
 紛争や政情不安、貧困といった難民をうむ原因に対処しなければならない。食糧難や干ばつなど気候変動の影響も無視できない。移民・難民を押し出す側の地域を安定させ、豊かにする息の長い取り組みが必要だ。
 それを手助けする力を欧州をはじめ先進国は持っている。日本も資金拠出や開発支援、国際機関との協力で活躍する機会は多い。