英の不法移民 国際機関と協力し解決図れ(2024年5月17日『読売新聞』-「社説」)

 難民は保護すべきだ、という責任感と、受け入れに伴う負担の間で、深まる苦悩がうかがえる。英国は国際機関や関係国と協力し、問題の解決を図れないだろうか。
 英国で、難民申請するために不法入国した人々をアフリカ中部のルワンダに移送することを可能にする法律が成立した。今年夏にも移送が始まるという。
 ルワンダは、英国に代わって移送者を難民として受け入れる予定だ。その見返りとしてルワンダは、英国から多額の経済援助を受けることになっている。
 英国はこれまで、伝統的に多くの難民を受け入れてきた。だが近年は、アフガニスタンや中東など政情不安の国からの不法入国者が増え、治安の悪化などが問題になっている。2022年の不法入国者は4万5000人に上った。
 密航者は小型ボートで英仏海峡を渡ってくるケースが多い。転覆事故も後を絶たないという。
 スナク英政権は今回の対策について、危険な渡航を思いとどまらせるためだ、と説明している。
 英政府は、不法入国者の収容などに年間8000億円以上の予算を投じており、その負担を軽減する狙いもあるようだ。
 しかしこの英国の対策には、国際社会から、先進国が経済力にものをいわせて途上国に難民を押しつけている、といった批判が出ている。英国、ルワンダ双方の事情を考えれば、そうした受け止めが出るのも仕方あるまい。
 国内でも対策への賛否は割れている。難民や難民認定を求める人を送還・追放してはならないというのが国際難民法の原則だ。
 英最高裁は昨年、ルワンダに移送される人が、難民申請をルワンダで適切に判断してもらえず、迫害の恐れのある出身国に送還される可能性があるとして、移送計画を違法とする判決を下した。
 司法判断を踏まえ英政府はルワンダとの間で、移送者を出身国に送還したり、第三国に追放したりしないと保証する条約を結んだ。英政府は、ルワンダは安全な国だと繰り返し強調している。
 ルワンダでは30年前、民族対立を背景に大虐殺が起こった。今は政治情勢が一定程度安定しているが、多くの難民の人権が守られるか、不安視する声も出ている。
 そもそも難民は、戦乱や政治的弾圧、貧困などが原因で発生する。日本は、そうした難民発生の背景を重視する観点から国連や他の先進国に働きかけるなど、難民問題の解決に力を尽くすべきだ。