「無罪請負人」の異名を取る弘中惇一郎弁護士が…毎日新聞(2024年5月27日『』-「余録」)

改正入管法が成立し、国会の前で抗議の声を上げる人たち=東京都千代田区で2023年6月9日午後6時37分、和田大典撮影
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最高裁判所=東京都千代田区で2023年5月25日午後2時14分、宮武祐希撮影
 「無罪請負人」の異名を取る弘中惇一郎(ひろなか・じゅんいちろう)弁護士が、若い頃に代理人を務めた訴訟がある。国を相手に争ったが敗訴した。著書に「ひどい判決をもらってしまった」と記している
▲提訴したのは、米国人のロナルド・アラン・マクリーンさん。英語教師の資格で来日し、琵琶や琴に魅了された。在留の延長を申請するが不許可とされた。ベトナム戦争に反対する集会への参加など、政治活動をしたというのが理由だった。裁判では表現の自由の侵害だと主張した
最高裁が1978年に出した結論は、こうだ。外国人にも基本的人権は保障されるが、あくまでも在留制度の枠内に過ぎない。在留の可否を決めるのは国の裁量だ。マクリーンさんの活動は日本にとって好ましくないとして延長を認めなかった対応に問題はない――
▲「マクリーン判決」は、その後の外国人の権利を巡る裁判に当てはめられた。在留資格を失った人を家族と引き離して送還する。施設に収容する。そうした入管の措置について、裁判所は「裁量の範囲内」とお墨付きを与えた
▲近年、批判の声が上がっている。元最高裁判事の泉徳治(いずみ・とくじ)弁護士は、在留に関する処分が憲法に拘束されないことになり「明らかに誤りだ」との論文を発表した
▲今や、人口の2・7%は外国人である。さまざまな場面で社会を支えている。そうした中で来月、在留資格がない外国人の帰国を徹底させる改正入管法が施行される。半世紀近く前の判例にとらわれたままで人権を守れるだろうか。