仮放免中のクルド人、インフルエンザの診療費24万円 「無保険なら1.5倍」ルールは人権上の問題なし?(2024年5月7日『東京新聞』)

 
 在留資格を失ったまま、入管施設への収容を一時的に解かれた「仮放免」の外国人が医療機関を受診する際、公的医療保険の自己負担分を超える高額な医療費を請求されるケースが相次いでいる。仮放免中は働くことも健康保険に入ることもできず、無保険の外国人には費用を上乗せする病院もあるからだ。NPO法人・北関東医療相談会には昨年だけで約10件の事例が報告されており、「法外な請求で貧しい外国人は医療を受けられず、人権上問題」と批判する。(池尾伸一)

 仮放免者 難民申請が不認定になったり、在留期間を過ぎてオーバーステイになったりして在留資格を喪失。入管施設への収容対象だが、病気や子どもの養育などの理由で入管施設外で生活している人。2022年末時点で3391人。就労は禁止。公的医療保険にも加入できない。

入院1日で診療費が24万円になった少女=埼玉県内で

入院1日で診療費が24万円になった少女=埼玉県内で

◆保険が利けば5万円で済んだが…

 トルコの少数民族クルド人の埼玉県の少女(15)が2月下旬、38度を超える熱を出した。市販薬を服用したが、けいれんを起こして気絶。救急車で同県川口市立医療センターに搬送された。
 インフルエンザと診断されて1日入院し、点滴などを受けて退院したが、請求された診療費は24万円。家族とともに仮放免中の少女は国民健康保険に加入していなかった。保険適用後の医療費負担は原則3割だが、同病院では、無保険者に全額自己負担の1.5倍を課すのがルールだった。少女の場合、全額自己負担は約16万円、保険が利けば約5万円で済んだはずだった。父親は「どう工面すればよいか」と頭を抱える。

◆外国人へ上乗せする医療機関

 無保険者への医療は「自由診療」となり、病院が自由に価格設定できる。同病院は本紙の取材に「川口市の条例で決まっている」と説明。「川口市病院事業使用料及び手数料条例施行規程」は「無保険者は1.5倍」の旨を明記している。日本人の無保険者なら生活保護制度で医療扶助を受ける道もあるが、仮放免中の外国人は生保も受けられない。
 
 一方、川口市の例は無保険者全体へのルールだが、外国人に絞って上乗せする医療機関も少なくない。北関東医療相談会が一昨年関わったアフリカ出身の男性は、国立国際医療研究センター病院(東京都新宿区)に救急搬送され、心臓手術が必要と診断されたが、費用は通常の全額負担の2倍の300万円と言われ、手術を受けられなかった。同センターによると、「無保険の外国人旅行者や短期滞在者は2倍」との内規がある。
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◆割り増しの理由は「事務手続きに時間がかかる」

 厚生労働省の外国人患者の受け入れ実態調査(2022年度)によると、無保険外国人への割り増し徴収は、救急車を受け入れる救急医療機関(回答2450件)では、全額自己負担を超えて徴収する病院が20%、1.5倍超の病院も10%に上った。病院全体(5035件)でも14%が全額負担を超えて徴収。19年度の10%から増えている。各病院は割り増しの理由を「事務手続きに負担がかかる」などと回答している。
 
 ただ政府は成長戦略の一環で、「医療ツーリズム」と称して富裕外国人の検査や治療目的の訪日を促進。そのあおりで無保険外国人の受診が困難になっていると指摘する医療関係者もいる。外国人医療に詳しい小林米幸AMDA国際医療情報センター理事長は「病院も短期滞在の外国人を収益源として価格を引き上げている」とみる。
 厚労省は「自由診療の価格に口を出せない」(医政局)とするが、名城大の近藤敦教授(憲法学)は「生命の権利を保障する憲法や人権関係の条約上問題」と主張。多くの外国人を診療する港町診療所(横浜市)の山村淳平医師は「救急時医療は、保険加入者と同じ3割負担とし、残りは政府が補塡(ほてん)するなどの仕組みが必要だ」と訴える。