感染症行動計画 失策直視し実効性高めよ(2024年5月10日『産経新聞』-「主張」)

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開催された新型インフルエンザ等対策推進会議=東京都港区
 
 新型コロナウイルス感染症感染症法上の位置づけを、季節性インフルエンザと同じ5類に移行してから1年が過ぎた。
新型コロナは、いまなおくすぶる。緊張を保ちつつ、新たな感染症への備えを万全にしなければいけない。
 政府は次なる感染症危機に対応するための「行動計画」の改定案を取りまとめた。平時の準備と有事の対応を整理した。6月に閣議決定する。
 平成25年に策定された行動計画は、新型コロナ禍では有効に機能しなかった。検査体制の充実を記していたが、実際には整っていなかった。感染症発生時の病床計画の必要性を指摘しながら、計画は不十分で、コロナ禍では病床が不足した。
 立派な計画を作っても実現しなければ意味がない。準備を怠った政府の責任は極めて重い。同じ轍(てつ)を踏んではならない。
 平素の準備が重要なのは言うまでもない。対策の要である検査と隔離が徹底されるように体制を整え、計画の実効性を確保しなければならない。
 改定案は、「水際対策」「蔓延(まんえん)防止」など13の重点項目を挙げ、「準備期」「初動期」「対応期」に分けて対策を記した。平時から検査機器を確保することや、都道府県と医療機関が協定を結び、感染症の医療を提供できる体制を整えることなどを盛り込んだ。
 ワクチンについては、平時から研究開発を進め、製造体制を迅速に構築することを明記した。欧米からのワクチン調達を待つしかなかった苦い経験を忘れてはならない。
 対策を講じる上で鍵を握るのは、来年4月の設立を目指している「国立健康危機管理研究機構」だろう。米疾病対策センターCDC)をモデルに、既存の研究機関と医療機関を統合する。感染症の発生を早期に捉え、検査法や治療法を確立する狙いがある。昨年9月に発足した「内閣感染症危機管理統括庁」が司令塔となる。
 ただ、今回の行動計画の改定には重大な問題点がある。それは、厚生労働省や政府がこの間のコロナ対応について、徹底的な検証と、痛切な反省を怠っていることだ。
 それなくして、十全な行動計画を作れるはずがない。検証と反省の作業に直ちにとりかかるべきである。