欧州の対中戦略 秩序修復へ外交力発揮を(2024年5月26日『毎日新聞』-「社説」)

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中国の習近平国家主席(右)の訪問を歓迎するハンガリーのオルバン首相=ブダペストで9日、ロイター
 中国との関係安定化を図りつつ、自由や民主主義、基本的人権といった価値観をいかに守ることができるか。欧州が難しいかじ取りを迫られている。
 中国の習近平国家主席が5年ぶりに欧州を歴訪した。フランス、セルビアハンガリーの3カ国だ。米国が主導する対中包囲網にくさびを打ち込もうとの思惑がうかがえる。
 ハンガリーセルビアは、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」の欧州における拠点として、中国企業の投資を積極的に受け入れている。ハンガリーでは、電気自動車(EV)最大手の比亜迪(BYD)が欧州初となる組み立て工場を建設中だ。2025年の欧州連合EU)加盟を目指すセルビアでも、中国企業による大規模なインフラ整備が進む。
 フランスには、中国との貿易や投資の拡大を国内経済の活性化につなげたい事情がある。経済不振に悩むドイツも最大の貿易相手国である中国を重視する。ショルツ独首相は4月に自動車グループ大手の幹部らを連れて訪中し、習氏と会談した。
 一方、フランスなどには、米国と中国、ロシアとの対立に巻き込まれて国益を損なうことへの警戒感もある。
 その一例が、長期化するウクライナ侵攻への対応だ。戦争の出口を探るマクロン仏大統領は、7月に開幕するパリ・オリンピック期間中の休戦実現を目指しており、ロシアに影響力を行使できる中国の協力を取り付けたい考えだ。
 マクロン氏は台湾問題を巡っても「欧州は米中のいずれにも追随すべきではない」と発言し、台湾を支援する米国とは一線を画す。
 ただ、EUは中国への過度の経済依存を避ける「デリスキング」に取り組む。政府の補助金を受けた中国製EVが欧州市場で競争をゆがめていないかも調査している。加盟国の足並みが乱れれば、中国を利するだけだ。
 欧州はエネルギーを依存するロシアに融和的な姿勢を取り、ウクライナ戦争を防げなかった苦い経験を持つ。
 中国との経済関係を重視するあまり、ルールに基づく自由で開かれた国際秩序がこれ以上損なわれることがあってはならない。