ガザでの攻撃 人道危機の拡大を傍観するな(2024年5月26日『読売新聞』-「社説」

 住宅や病院などを見境なく攻撃し、どれだけの犠牲者を出すつもりなのか。人道の危機を拡大し続けるイスラエルの強硬姿勢は看過できない。
 イスラエル軍が、パレスチナ自治区ガザをまたしても空爆した。最南部ラファには戦車を投入し、大規模な地上作戦を始めた。
 ラファには、ガザ北部や中部から逃れてきた数十万人がなおとどまっている模様だ。軍はエジプトとの間の検問所を制圧し、食料などの搬入も妨げている。
 イスラエルは「ラファへの攻撃は限定的だ」と主張しているが、日々、犠牲者は増えている。
 ガザ侵攻開始から7か月で、女性や子供を含む住民3万5000人以上が死亡した。イスラエル軍が人命を顧みない無差別攻撃を仕掛けている結果だ。
 今回の紛争は、イスラム主義組織ハマスの越境攻撃が直接の原因だ。約1200人を殺害し、今も100人以上の人質を取っている。ハマスのテロは許し難い。
 だが国際社会の批判はむしろ、過剰な反撃を続けるイスラエルに向けられるようになった。
 南アフリカなどはイスラエルの攻撃をジェノサイド(集団殺害)と非難している。欧州でも、イスラエルに対し「国際法を守るべきだ」との批判が広がっている。
 米国のバイデン大統領は、ラファを本格攻撃すれば武器供給を停止すると、異例の警告を発したが、イスラエルのネタニヤフ首相は、聞く耳を持たないかのように攻撃を続けている。
 11月の米大統領選で、親イスラエルのトランプ前大統領が返り咲けば、全面的に支持してくれるとでも思っているのだろうか。
 国連の機関・国際司法裁判所(ICJ)はイスラエルに対し、ラファ攻撃の即時停止などを求める暫定措置を命じた。この命令には法的拘束力があり、従わなければ国際法違反となる。
 一方、人道の罪などに関する条約締約国でつくる国際刑事裁判所(ICC)の検察官は、戦争犯罪などの容疑でハマス幹部に加え、ネタニヤフ氏とイスラエル国防相に対する逮捕状を請求した。
 ハマスの罪を問うのは当然として、イスラエルの行為も重大な犯罪だととらえているのだろう。
 日本が、こうした国際社会の動向を「注視している」などと紋切り型の説明で済ませているのは物足りない。人命や人権の尊重といった普遍的な価値を重視する観点から、関係国に戦闘停止を強く働きかける外交を展開すべきだ。