“団地グルメ”で活気…空き店舗に「醸造所」“ビール煮”求め…電車乗り継ぎ来る客も(2024年5月25日)

■“新感覚バーガー”求め…団地外から客

団地の空き店舗に「醸造所」
週末、商店には多くの人の姿がありました。

そのきっかけとなったのが、2017年にオープンした飲食店「ガハハビール」です。休日は、ランチタイムから満席状態。驚きなのは…。


「(住まいは)隣町なんですけど、たまにお邪魔します」
「私は横浜」
「(Q.横浜からこのために?)そうですね」

わざわざ電車を乗り継ぎやってくる客のお目当ては、「牛ばら肉ビール煮」。自家製のビールと赤みそをベースにしたソースで牛のバラ肉を煮込んだ、和風テイストの一品です。


「トロトロ。すごくやわらかい」
「濃厚で、めっちゃうまい」

やわらかさの秘密は、肉を漬け込むビール。実は、それが団地に店をオープンさせた理由でもありました。店主の馬場さんに案内され、商店が並ぶ通りを歩いていくと…。

ガハハビール店主
馬場哲生さん(45)
「ガハハビールのビール醸造所です」

江東区内で初めて醸造の認可を得て、団地の空き店舗に醸造所を造りました。

馬場さん
「都内で醸造所となると、場所代がかかってしまうので。団地だから、安く借りられた」

さらに、都は団地にテナントを誘致するため、礼金や更新料を不要としています。これも、出店の後押しになったそうです。

客のほとんどが、団地の外からやって来るという店。それが、団地を活気づけるきっかけになっていました。

50年前から店を営む青果店では、このような声が聞かれました。

丸長青果店(50年営業)
野々山肇子さん(65)
「外からどんどんお客さんを呼び込めている。シャッター商店街にならずに、なんとか済んでいる」

50年団地に暮らす人(79)
「この頃、また子どもの声も(して)にぎやかになってきた」
「(Q.活気づいてほしいですね)そりゃほしいわよ」

住民の高齢化とともに、消えつつあった商店。“団地グルメ”が、外からも客を呼びよせ、団地全体を活気づかせていました。

洋食店が…「おばんざい」を出す理由
一方こちらは、53年前から入居が始まった「若葉町団地」。総戸数1400以上、37棟ある昭和の“マンモス団地”です。

現在、団地内にある店舗のおよそ2割が空き店舗となっています。そんななか、異彩を放っていたのが、12年前にオープンした洋食レストラン「てくたく」です。

団地に暮らす常連客
「気に入ったお店が(近くに)あるのは、幸せですよね」

団地に暮らす常連客(80)
「きょうだけで2回目」

地域に愛される“団地グルメ”は、6つの小鉢に盛られた「おばんざい」。味を守るため奮闘しているのは、24歳の若者でした。

この団地に妻と暮らす、オーナーの佐藤義明さん(70)。以前は、フレンチのシェフを務めていました。店を出すきっかけは、イベントで団地に暮らす高齢者に料理をふるまったことでした。

「てくたく」オーナー 
佐藤義明さん
「料理がおいしいので(団地の住民から)、ぜひお店を作ってくださいと言われた」

悩んだ末、仕事を辞めて団地内の空き店舗に妻と店をオープンしました。

客の6割が注文するという大人気のメニュー「おばんざい定食」。ランチは1050円です。だし巻き玉子やチャーシュー、白身魚のほか、毎日食べても飽きないよう、日替わりの3品があります。

まずは、白だしで味付けした、だし巻き玉子からいただきます。ホッとする味で、しっとりと柔らかい口どけです。優しいだしとタマゴの味がしみわたっています。

定番の自家製チャーシューも、人気の一品です。チャーシューにしっかりと甘辛い味がついています。香ばしい香りもあり、オニオンソースの酸味でさっぱり食べられます。

それにしても、洋食店でなぜ、和の「おばんざい」なのでしょう?

佐藤さん
「最初は(洋食で)良かったが、半年ぐらいすると売上が落ちて。地域に合わせないと、お店は生き残れない」

試行錯誤を繰り返した末、たどり着いたこだわりの味。それは地元の野菜を中心に使い、高齢者でも食べやすい優しい味付けの「おばんざい」だったのです。

団地に暮らす常連客
「蒸したキャベツなのかな。いい具合に味がしみていて、とてもおいしいですよ」

団地外から来店
「お客さん同士のふれあいもいっぱいあるし、また来たくなるようなお店だと思います」

「おばんざい」を求めやってくる客の半数以上が団地の住民。いつしか店は、交流の場になっていました。

■採用なるか…?「おばんざい」の試作
夫婦で始めた店ですが、おととし妻が病に倒れ、佐藤さん1人で店を切り盛りすることになりました。

このままでは、店の存続が危ぶまれる…。そんな時、現れたのが須長辰友さん(24)です。以前は、すし店で修業していた経験もあります。退職後、知人から紹介され、このお店で働き始めました。

「てくたく」店長 
須長辰友さん
「この店に来たら、一日に(客が)2回来るとか、一日4、5回来る人もいたので。愛されているんだな」

団地住民の大切な場所を守るために、働き始めてから続けていることがります。

佐藤さん
「試作です。1回作ってみて良かったら、あすのおばんざいで出します」

店の顔、おばんざいの一枠の試作。この日は、若筍煮に挑戦です。

須長さん
「緊張します。長年マスターがやってきた(料理)の1つになるので。マスターの顔を汚さないように」

料理の決め手となるカツオなどのだし、その味は…。

佐藤さん
「いいんじゃない」

肝心のタケノコのゆで具合は?

佐藤さん
「おいしいね。優しい味で、年配の方に好まれる味付け」

佐藤さんのお墨付きを得て、安堵する須長さん。ところが…。

佐藤さん
「だめ、浅い。もっと深いものじゃないと、持っていくときに(だしが)こぼれる」

器選びにダメ出しがでました。とはいえ、味に問題はないため、おばんざいの一品「若筍煮」の採用が決定しました。

佐藤さん
「これ、若手が作った新作です」

団地に暮らす常連客
「初物だよね?おいしい、免許皆伝だね」

須長さん
「ちょっとずつ自分の色を出しながら、佐藤さんの雰囲気を崩さずにいければなと」

2人の思いが詰まった「おばんざい」は、団地に暮らす人々の絆をつむいでいました。

テレビ朝日