姿を消す書店(2024年4月12日『山陽新聞』-「滴一滴」)

 米国のヒット曲も欧州のサッカーの動向もここで情報を仕入れていた。1980年代の中高生のころ。世界に目を向けさせてくれたのは近所の本屋だった

▼誰にとっても身近な存在だった書店がインターネットの普及などに伴ってどんどん姿を消している。全国の店舗数は2022年までの10年間で約3割減少し、4分の1の自治体には書店が一つもないという

▼書店側は危機感を募らせる。読み聞かせイベントを開いたり、カフェを併設したりして集客を図る店も現れている。岡山市内のある大型店の店長は打ち明ける。「考え得る対策は打っているが自助努力にも限界がある」

▼果たして苦境打開につながるか。経済産業省が書店の振興に取り組むプロジェクトチームを先月立ち上げた。経営改善に向け工夫している取り組みを後押しするという

▼海外では本の無料配送を禁止する法律を制定したり、公共図書館が図書を購入する際に最寄りの書店を優先したりする国もある。わが国でも店舗運営を支えることに国民の合意を得られる支援策を考えられぬか

▼作家あさのあつこさんが指摘する。「書店は大人が教えてくれない価値観に触れることのできる特別な場所。子どもたちのためにも必要だ」。自らが暮らす美作市でも書店が姿を消したという。貴重な文化インフラを守る機運を高めたい。