離婚後の共同親権は子の利益最優先で(2024年5月24日『日本経済新聞』-「社説」)

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親権に関する法律が大きく変わる
 離婚後も父母双方が子の親権を持つ「共同親権」の導入を柱とした改正民法が成立した。77年ぶりの見直しで、施行に向け解決すべき課題は多い。子どもの利益を最優先に、十分な体制で運用しなければならない。
 現行は、婚姻中は双方に親権があり、離婚後はどちらか一方の単独親権となる。改正法では、父母が協議して単独親権か共同親権かを選ぶ。折り合わなければ、家庭裁判所が判断する。施行は2026年の見通しだ。子どもと父母双方の関わり合いの重要性から主要国では共同親権を認める国が多く、その意義は理解できる。
 一方で、懸念の声も多い。とりわけ、ドメスティックバイオレンス(DV)や子どもへの虐待が継続しかねないという声は強い。
 改正法は、虐待やDVのおそれがあるなど「子の利益を害する」場合は、家裁は必ず単独親権にしなければならないと定めた。それぞれの家庭内の状況を的確に把握し判断する家裁の責任は重い。改正法により、家裁に持ち込まれる事案の増加も予想される。裁判官や家裁調査官の増員、専門性の向上といった体制整備が急務だ。
 共同親権のもとでは、進学先の選択や引っ越し、生命に関わる医療行為などは父母の同意で決める。緊急手術など「急迫の事情」がある場合や「日常の行為」については一方だけで決められるというが、線引きは曖昧だ。政府は分かりやすいガ イドラインをつくる必要がある。子どもの暮らしが不安定になるようなことがあってはならない。
 人口動態統計によると、2022年に親の離婚を経験した子どもは16万1902人いた。すでに離婚し単独親権になっている場合も、施行後に家裁に共同親権への変更を申し立てることは可能だ。改正は多くの人に関わる。
 日本はそもそも「家庭のことは家庭で」という意識が強い。DVや児童虐待の防止・介入や、困難を抱える家族への支援策を社会をあげて拡充することも重要だ。