春闘の賃上げ 非正規を置き去りとは(2024年5月17日『東京新聞』-「社説」)

 今年の春闘では、働き手の4割弱を占める非正規労働者の賃上げ回答が低調だった。大企業を中心とする大幅賃上げの波が、労働組合への参加率が低い非正規労働者には及ばず、無防備のまま物価高にさらされている形だ。
 国や経済界は、賃上げから取り残された非正規労働者を置き去りにせず、支援する必要がある。
 非正規支援に取り組む「非正規春闘実行委員会」によると、同委が賃上げ要求した107社のうち半数に近い48社が賃上げに応じない「ゼロ回答」だったという。5月上旬に実施したアンケート(251人回答)にも7割以上が「賃上げがなかった」と答えた。
 非正規雇用で働く人は約2100万人に上り、労働者全体の37%を占める。厚生労働省の2022年調査によると、非正規の月給は正社員・正職員の7割程度にとどまる。
 もともと給与水準が抑えられている上に、賃上げの波からも取り残された非正規労働者の暮らしが深刻な状況に追い込まれていることは想像に難くない。働き手が1人の非正規世帯などでは、子どもの教育費や食費さえ削らざるを得ない例も多いのではないか。
 政府は近年、非正規労働者の就労訓練を後押しするリスキリング(学び直し)事業に力を入れ、非正規労働者正規雇用への転換を図ろうとしている。
 ただ、リスキリングの効果が出るには時間がかかる。足元の物価高に苦しむ非正規世帯の家計支援には不十分だ。
 政府は、正規雇用への転換に前向きな企業への助成金を拡充したり、優遇税制を導入したりするなどの支援策を検討すべきだ。
 春闘は昨年以降、経団連経済同友会、中小企業を束ねる日本商工会議所がそろって賃上げを呼びかけ、一定の効果を上げた。経済団体は今後、非正規の賃上げの必要性も訴えてほしい。
 経済を支えている非正規労働者が長く雇用の調整弁として扱われてきた。しかし、こうした非正規を軽視する雇用の在り方がもはや許されないことも、社会全体で共有したい。