江川紹子ジャーナリスト・神奈川大学特任教授
袴田巌さんへの再審無罪判決から2日目となる9月28日、日本弁護士連合会主催の市民集会「司法に翻弄された58年間~袴田事件判決と今なお続くえん罪被害」が東京・霞ヶ関の弁護士会館で行われ、会場とオンラインで合計350人が参加した。
「弟の犠牲を生かして!」
初めに、袴田さんの姉ひで子さんがあいさつ。拘禁症の影響で出廷できない弟に代わって判決を聞いたひで子さんは、「とてもうれしい」「裁判長からねぎらいの言葉までいただいて、本当にありがたい」と喜びを語ったうえで、再審請求などの手続きを定める再審法の改正を訴えた。
「弟が47年7か月拘置所に入っていました。そのこと(=犠牲)を何らかの形(で生かすこと)にしないと、私も思い残すことになります」
「証拠の捏造は犯罪だ」と弁護士
続いて、弁護団事務局長で袴田さんの主任弁護人の小川秀世弁護士が講演。「(判決の)最初で『3つの捏造がある』と言い切ったのには驚いた」と述べ、検察が有罪立証には使わないとした自白調書について「捏造」と判断したのは弁護団の想定以上の判断だったと評価した。
そのうえで、判決で袴田さんに対する謝罪がなかったことについて、次のように批判的な見解も述べた。
「これは死刑事件。にもかかわらず、判決が指摘するように、警察と検察がタッグを組んで証拠を捏造した。ゆゆしき問題で、(国家による)殺人未遂のようなもの。だからこそ、静岡地裁の再審開始決定では『耐えがたいほど正義に反する』と述べた。にもかかわらず、今回の判決が袴田さんに(謝罪の)一言もないのはどういうことか」
検察の一連の対応については厳しく批判。特に重要な証拠がいくつも隠されていた問題は事例を挙げて糾弾した。たとえば、自白を迫る過酷な取り調べ状況を記録した録音テープは、第2次再審でようやく1本だけ提出し、「他にはありません」と言っていたのが、その後大量に「発見」された、という。
「大事な証拠の管理が極めてずさんだ」
また、原審で検察官が虚偽の発言をしていることが、開示証拠で明らかになったこともあった、という。
小川弁護士は、「検察官は、これが明らかになれば無罪になると分かりながら、証拠を隠していた。裁判で嘘もついていた。死刑事件でこういうことが行われていいのか?!」と語気を強めた。
「袴田さんは健康状態がよくない」
さらに、袴田さんの健康状態にも言及。糖尿病でインシュリンの注射を毎日2本打っており、「健康状態はよくない」と明かした。テレビのニュース番組などでは、袴田さんが町を歩く映像が流れるが、小川弁護士によれば「今ではもう、階段も自力で登れないし降りられない」とのこと。
「あと1年、2年と裁判を続けられたら、袴田さんはそれまでがんばれるかどうか心配な状態。検察官の控訴は絶対にやめていただきたい」
全国各地から冤罪の訴え
集会では、再審を求め、あるいは再審無罪となった12事件の当事者やその弁護士、家族などが訴えた。1963年に下校途中の女子高生が行方不明となり身代金を要求されたうえに殺害された狭山事件で無期懲役が確定し、仮釈放となった石川一雄さんは、26日には静岡地裁まで駆けつけた。石川さんは、「イワちゃん(=袴田さん)とは東京拘置所で6年一緒にいた。当時は、運動に出るたびにシャドーボクシングの練習をしていた。彼の筋肉はすごかった」を振り返り、自身が再審無罪となったら「イワちゃんと日本全国を歩きたい、という夢がある」と語った。
石破・新総裁も再審法改正を求める議連のメンバー
最後に、日弁連再審法改正実現本部長代行の鴨志田祐美弁護士が、袴田さんが再審無罪となるまでに時間がかかった原因は「法の不備だ」と言い切り、全国で様々な冤罪が救済されないままになっていると訴えた。
「再審法の不備のために救われず、本人が救済されないまま高齢化したり亡くなったりしている。人生が尽きようとするまで(再審による救済から)待たされなければならないのは、袴田事件だけではない」と述べ、再審法の整備の必要性を強調した。
その機運は高まっており、鴨志田弁護士によると、再審法改正を求める超党派の議連には、すでに347人の国会議員が登録している。自民党総裁に選出された石破茂氏も、その一員。日弁連の賛同メッセージの呼びかけに、石破氏は3番目という早い時期に、再審法改正の趣旨に「全面的に賛同」する旨のコメントを寄せた、という。
「総選挙があれば、議連のメンバーもリセットされるかもしれないが、袴田事件を知り、全国の様々なえん罪事件を知った以上、投票では『再審法改正に賛成』という人以外に票を入れてはダメ」と、再審法への態度を投票先を選ぶ基準とするよう呼びかけた。