物価上昇続く 賃上げの力が足りない(2024年4月3日『東京新聞』-「社説」)

 食品を中心に商品やサービスの値上げが続く。消費者の財布のひもは緩まず買い控えも顕著だ。大企業を中心に賃上げは進むものの、中小企業の経営環境はむしろ悪化している。雇用者の7割を占める中小を支援しなければ、物価高が暮らしを押しつぶす最悪の展開に陥りかねない。
 民間調査会社の帝国データバンクによると、4月に値上げする食品は2806品目。平均値上がり率は約23%と昨年平均の約15%を大幅に上回る。値上げは食品にとどまらず、トイレットペーパーやティッシュペーパーなどの紙製品のほか、5月には電気、ガス料金の引き上げも予定されている。
 総務省による1月の家計調査では、1世帯(2人以上)当たりの消費支出は前年同月を6・3%下回り、消費活動の停滞は数字でも裏付けられた。
 値上げが続く要因は原材料価格高騰や高止まりだ。4月に始まったトラック運転手の残業規制に伴う輸送コスト上昇が今後、値上げに拍車をかける可能性もある。
 賃上げが物価高を上回れば、日銀が描く「賃金と物価の好循環」の起点となり得るが、現実は程遠い。今春闘での賃上げ率は5・25%(連合調べ)と昨年実績を大幅に超えたが、これは大企業を中心とした数字にすぎない。
 中小でも賃上げは進むものの日本商工会議所の調査に6割が「業績改善はないが、賃上げを実施」と回答するなど、人手不足の中、人材確保のために、やむを得ず賃上げに踏み切ったのが実態だ。
 中小の経営を圧迫する最大の要因は原材料費の高騰に伴う価格転嫁が進んでいないことにある。
 帝国データバンクによると、中小企業の75%が価格転嫁はできているものの、100円のコスト増分のうち反映できたのは約40円分にとどまり、昨年7月の約43円分から悪化している。
 経済成長に不可欠の個人消費の大半は、非正規雇用者を含む中小で働く人々が支える。国や大企業は中小の賃上げを後押しする力が不足している現実を直視して、価格転嫁対策を中心に、中小に対する支援強化を図るべきである。