右半身不随、能登地震、豪雨…「負けとられん」 不屈の書家は復興願う日本酒「絆舞」に右手で揮毫する(2024年9月28日『東京新聞』)

 
 地震と豪雨に見舞われた能登半島の書家で願正(がんしょう)寺前住職の三藤観映(みつふじかんえい)さん(77)=石川県七尾市=は脳卒中での右手まひと、たび重なる災害を乗り越え、東日本大震災などの被災地復興を願ってつくられている日本酒「絆舞(きずなまい)」のラベルに揮毫(きごう)する。地震で本堂や鐘楼堂が崩れ落ちても「負けとられん。あきらめん姿勢を身をもって示す」と、不屈の精神を字に込める。

◆左手で稽古、執念のリハビリで右手も動き「両利きの書家」に

「絆舞」の文字をけいこする三藤観映さん。右手で筆を握る=石川県七尾市で

「絆舞」の文字をけいこする三藤観映さん。右手で筆を握る=石川県七尾市

 三藤さんは東大寺仁王尊像修復で記念胎内経を書き、テレビ番組に書道講師として出演したこともある。2022年6月に脳卒中で倒れ、右半身不随に。4カ月の入院中、左手で稽古した。「執念でやった」というリハビリで右手が動くようになり「両利きの書家」となった。
 揮毫するのは東日本大震災からの復興を願い、福島県の酒蔵が醸造する「絆舞」。全国の心を一つにしようと信用金庫のネットワークが取り組むプロジェクトで、47都道府県の米をブレンドする。試練を乗り越える強さを発信する三藤さんに、揮毫の打診があった。
日本の心を一つにする「絆舞」。能登に思い寄せる限定ラベルが販売される=曙酒造提供

日本の心を一つにする「絆舞」。能登に思い寄せる限定ラベルが販売される=曙酒造提供

◆「能登のみなさんに希望を」

 寺は創建360年超。築160年余の本堂は地震で壊れて解体。再建の道筋は見えない。三藤さんは3カ月の避難生活を余儀なくされ、心労が重なる。「書家としてこの病気は残酷で絶望したが、はい上がった。地震も乗り越えられると信じる。能登の皆さんに希望を持ってもらうため、この右手で書く」(前口憲幸)

 絆舞 東日本大震災などの被災地支援のため、全国の米を使い、福島県の曙酒造が年間最大1万リットルを醸造する日本酒。人々の「絆」と、踊るようなおいしさを表現する「舞」と米(まい)をかけて名付け、城南信用金庫(東京)が事務局となり、2017年にプロジェクトを始めた。23年は全国308地域の米をブレンド能登半島地震で被災した石川県珠洲市コシヒカリ穴水町能登ひかりなどを使った。三藤観映さん揮毫(きごう)のラベルは限定3千本を予定。税抜き2200円から。1本当たり100円を被災地に寄付する。