家族バラバラ強制…入管庁の「過酷な選別」の実態 生まれが1カ月遅いから「全員アウト」も 在留特別許可(2024年4月4日『東京新聞』)

 
 出入国在留管理庁(入管庁)が進める外国籍の子どもへの特例的な在留特別許可で、過酷な決定にさらされる家族が相次いでいる。生まれが約1カ月遅かっただけで家族全員が不許可となったり、親に許可しないなど「家族分断」のケースも。当事者たちは4月1、2日と東京都内で相次いで記者会見し「早く平穏に住めるようにしてほしい」と訴えた。(池尾伸一)

 子どもへの在留特別許可の特例措置 在留特別許可は在留資格がない人に法相が裁量で在留を認める制度。難民申請3回目以降の人の強制送還を可能にする改正入管難民法の6月施行を前に、出入国管理庁は今回限りの措置として日本生まれの小中高生と、保護者の親やきょうだいに特例的に在留を認める方針。親が偽造旅券で入国したり、懲役1年超の実刑を受けたりしている場合は対象外。同庁によると在留資格のない18歳未満の子どもは22年末で295人。うち条件を満たす約140人を救済する見通しを公表している。

◆「1カ月早く生まれていれば家族全員に在留資格が出ていた」

出生1カ月の差で対象から外された男児(右)と、父親=1日、東京・永田町の参院議員会館で

出生1カ月の差で対象から外された男児(右)と、父親=1日、東京・永田町の参院議員会館

 「おたくの子は誰も当てはまらない」。埼玉県川口市のトルコなどの少数民族クルド人の男性は昨年末、入管庁からの電話にがくぜんとした。在留資格がないと働けず、健康保険証もない苦境が続く。子どもたちは将来、就職もできない。
 在留特別許可は、難民申請不認定などで在留資格を喪失、退去命令が出ている外国人に法相が裁量で在留資格を与える仕組み。政府は、強制送還を容易にする入管難民法施行を控え、特例的な子どもたちの救済策を講じているが、「日本生まれで小中高に就学中」の子どもと家族に限定。この基準で厳格な「線引き」を行っているのだ。
 男性は母国で迫害され10年前に逃れてきた。3人の子どものうち、上の2人はトルコ生まれだが、一番下の5歳の男児は日本生まれ。2018年5月に生まれたため、約1カ月の差で小学校にはまだ入学しておらず、対象から外された。高校2年の長女は「弟が1カ月早く生まれていれば家族全員に在留資格が出ていたが、違ったので全員不許可なんて、おかしい。わたしたちの人生はどうなるの」と不安を明かした。
 幼少時に来日した別のクルド人高校生の姉妹も「なぜ日本生まれに限るのか。わたしたちも自由がほしい」と疑問をぶつけた。

◆父だけ在留特別許可が出ず、退去命令が出たまま

父親だけには在留資格が許可されず在留カードももらえなかった家族

父親だけには在留資格が許可されず在留カードももらえなかった家族

 「家族分断」につながる決定も既に出ている。
 アフリカ系の家族の場合、母と子ども3人に在留特別許可が出たが、父親は許可されず退去命令が出たまま。肉親の葬儀のため母国に帰国し、再入国の際に日本で道交法違反などで有罪判決を受けたのを申告しなかったことを「不法入国」と認定された可能性があるという。高校生の長女は「パパが強制送還させられるのではないかと、とても心配」と話す。
 タイ国籍で長野県に住む専門学校生の姉と高校生の弟は、母が在留資格を得られず、支援者が寄付を集め学費と生活費を工面する。

◆「しゃくし定規な線引きで子どもたちがどれだけ傷ついたか」

在留許可を求めるため子どもたちが書いたメッセージ=東京・永田町の参院議員会館

在留許可を求めるため子どもたちが書いたメッセージ=東京・永田町の参院議員会館

 支援者らは2日、入管庁に在留特別許可の対象拡大を求め、約4万3000筆の署名を提出。外国人たちを支援する駒井知会弁護士は「しゃくし定規な線引きで在留許可されなかった子どもたちがどれだけ傷つき、不安にさいなまれるか考えてほしい。子どもの人権尊重を定める『子どもの権利条約』などに則し対象を早く広げるべきだ」と指摘した。