偽計業務妨害容疑で書類送検された受験生が早大入試で使用し、報道陣に公開されたメガネ型電子端末「スマートグラス」。左右の両端に丸いカメラレンズが確認でき、眼鏡自体のレンズはない=東京都新宿区の警視庁戸塚署で2024年5月16日午前10時37分、北山夏帆撮影
アジア各地でヒットしたタイ映画「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」(2017年)は米大学の入学資格を得る国際的試験でのカンニングが主題だった。時差を利用し、オーストラリアで受験して得た答えを試験前のタイに伝えた
▲映画を地でいく不正が世界的な大学入学資格である国際バカロレアの試験で起きたらしい。今月初め、アジアでの数学などの試験終了後、SNSに問題と答えが流出し、試験前の欧州でダウンロードと再投稿が繰り返されたと報じられた
▲運営側は「ごく少数の受験者」による「時差カンニング」を認める一方、影響は限定的ときょうまでの断続的な試験を予定どおり実施した。だが、アジアの受験生からは不利になりかねないと不満の声が出ている
▲試験会場の電波を遮断するには巨額の経費がかかるという。試験のあり方そのものをデジタル時代に合わせて見直すか。不正は許されないと当たり前のモラルを粘り強く説くか。不正再発を防ぐ解答は簡単には見つかりそうにない。
早大入試で不正 先端機器の悪用をどう防ぐか(2024年5月17日『読売新聞』-「社説」)
デジタル技術の進歩で入試の不正行為が巧妙化している。試験監督の強化などで対応しきれるのか。国や大学当局は、不正防止の具体的な方策を改めて検討すべきだ。
警視庁によると、男子受験生は撮影した設問の画像を手元のスマートフォンに転送し、SNS上で複数人から解答を得ていた。答えを送ってくれた人には、報酬を支払っていたとされる。
男子受験生は「国立大に落ち、他の大学も落ちることが不安で、不正を思いついた」と供述しているという。入試の不正は、他の受験生が積み重ねた努力を踏みにじる行為で、決して許されない。
男子受験生は、早大の受験が無効となり、刑事処分の対象にもなった。代償は極めて大きい。
眼鏡型のスマートグラスは、遠隔地にいる人とも同じ目線で画像が共有できるため、農業や医療の現場などで活用されている。
刻々と進化するデジタル技術に対応するため、文部科学省や各大学は、技術者からも意見を聞きながら、国公私立の枠を超えて再発防止策を考える必要がある。
試験会場に外部との通信を遮断する装置を設置する方法もあるが、多額の費用がかかる点がネックだとされる。会場の規模や試験の内容などに応じて、合理的な対策を模索してほしい。
22年には、就活生向けに企業が行ったウェブ上の適性検査で、替え玉受検も発覚した。不正を働いてでも大学や企業に入ればどうにかなると考えたのだろうが、本当に合格できる実力がなければ、後で苦しむのは目に見えている。
ネット時代に電子情報機器を悪用した新手のカンニングがまた発覚した。
受験時は私立高3年で、「反省している。不正に巻き込んだ人たちや大学に対して申し訳ないと思っている」と供述しているが、後の祭りだ。
カンニングは公正な入試を損なう、卑怯(ひきょう)な行為であることは言うまでもない。今回のように未成年者でも犯罪として立件されることを周知し、再発防止に努めたい。
手口は、早大創造理工学部の試験中、スマートグラスで撮影した問題用紙の画像を持参のスマートフォンに転送し、X(旧ツイッター)を通じて外部の複数の人物に解答を求めた。応じてくれた人に報酬として数千円程度を支払っていたという。
平成23年には受験生が京都大入試などで携帯電話を使って問題をインターネットの質問サイトに投稿し、偽計業務妨害容疑で逮捕された。令和4年の大学入学共通テストでは受験生が袖口に隠したスマホで問題を撮影、家庭教師紹介サイトを通して解答を求めたことが発覚し、書類送検された。
文部科学省は昨年、不正防止対策の強化などを大学側に通知し、大学側も電子機器の使用を警戒する中で起きた。機器の小型化や精密化により、不正防止が難しくなっている。
電子機器による入試の不正は海外でもあり、韓国や中国の一部では金属探知機を導入して持ち込みを禁止している。日本では試験会場の通信電波を遮断する案もあるが、会場数が多くコストもかかり限界がある。
カンニングは今に始まったことではないが、情報機器の急速な発達で今後も想定外の不正が起こりうる。現代的な課題にどう対処するか。卑怯な手段に走らせない日頃の教育活動も大切である。何より地道な学びが身を助ける。