【舛添直言】増え続ける「空き家」と単身高齢者、今の社会設計では日本はほどなくドン詰まりに(2024年5月5日『JBpress』)

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 (舛添 要一:国際政治学者)
 4月30日に総務省が発表した住宅・土地統計調査(2023年、速報値)によると、空き家が900万戸にのぼるという。総住宅数に占める空き家の割合は13.8%で、過去最高である。7件に1件は空き家である。
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■ 増加の一途を辿る空き家
 この調査は1948年から5年に1度行われているが、空き家の数は、1993年に448万戸、2008年に756万戸、2018年に846万戸と増えてきたが、今回は前回よりも51万戸増加した。総住宅数は6502万戸である。
 人口が約1億2500万人なので、単純に割り算をすれば、1家屋に住んでいるのは2人未満ということになる。
 空き家比率も、前回比で0.2ポイント高くなっている。
 居住や使用の目的のない家屋を「放置空き家」と呼ぶが、その数は385万戸にのぼる。前回から37万戸増えており、総住宅数の5.9%である。残りの515万戸は、賃貸、売却、別荘などの用途である。
 都道府県別に見ると、空き家比率の高いのは、和歌山県(21.2%)、徳島県(21.2%)、山梨県(20.5%)、鹿児島県(20.4%)、高知県(20.3%)である。低いのが、沖縄県(9.3%)、埼玉県(9.4%)、神奈川県(9.8%)、東京都(11.0%)、愛知県(11.8%)である。
 人口が減少しているのに、住宅が過剰だというのは、住宅を大量に作り続けているからである。住宅ストックが活用されていないのみならず、住む人もなく放置された空き家は、倒壊、放火、異臭、ゴミの不法投棄などの原因となっており、治安の悪化にもつながる。
■ 「子どもが独立し実家はいずれ空き家に」のケースが後を絶たず
 空き家が増えた原因は、少子高齢化である。人々の生活様式、価値観、家族観の変化もあり、日本の出生率は低下しており、一方では医療の発展などで、長寿化が進んでいる。
 合計特殊出生率は、1.36(2019年)、1.34(2020年)、1.30(2021年)、1.26(2022年)と低下してきている。2022年の高齢化(65歳以上人口)比率は、29.92%である。平均寿命は、男性が81.05歳、女性が87.09歳である。
 子どもが結婚し、新たな家を築くと、生活の基盤も職場も違うので、もう実家には戻らなくなる。その家には、定年退職した親がしばらくは住んでいても、亡くなると空き家になってしまう。自分と妻の両方の実家とも空き家になってしまうというケースも多々ある。
 かつては、子どもの数も多かったし、長子相続で長男が家を受け継ぎ、その代わり親の面倒を見るという仕組みであったが、今では、年金制度も充実し、社会全体で親の世話をすることになった。そして、親から相続で家をもらっても住む予定もないという人が増えている。
 親の家を相続で取得した子どもには、相続税のみならず、固定資産税や建物の維持費がかかる。売却しようとしても、住宅過剰社会では、容易には買い手が見つからず、「不動産」ではなく、「負動産」と揶揄されるようになっている。
 若い世代は、都心の快適なマンションを購入する傾向が強い。建物を撤去して更地にすれば、売りやすくはなるが、撤去費用もかかるし、それに、小規模住宅(一区画200m2
以下)を解体・除却して更地にすると、小規模住宅用地に対する固定資産税の優遇措置(評価額の6分の1に税率を乗じた額まで減免)が適用されなくなる。
■ 国・自治体は「空き家」にどう取り組んできたか
 政府も、これまで、空き家問題に対して様々な対応策を講じてきた。
 2014年11月には「空き家対策特別措置法」を成立させ、老朽化で倒壊の恐れがあったり、衛生上有害となったりする「特定空き家」については、6分の1の優遇措置を外した。さらに、撤去する行政代執行を可能にした。
 2023年12月の法改正では、「特定空き家」の前段階として「管理不全空き家」を新設し、行政が指導・改善を促し、勧告を行えるようにした。勧告を受けた管理不全空き家は、特定空き家と同様に、固定資産税などの軽減措置を受けることができなくなる。
 さらに、今年4月から、不動産の相続登記を義務化した。これは所有者不明の空き家を減らすためであるが、土地の取得を知った日から3年以内に正当な理由なく申請しないと、10万円以下の過料の適用対象となる。
 しかし、以上のような対策が十分な効果を発揮しているとはいえない状況である。各自治体の取り組みも必要である。
 私が東京都知事のときには、空き家の有効活用として、たとえば高齢者福祉や子育て支援に、また芸術文化活動の拠点に転用することを考えた。具体的には、一戸建て住宅を高齢者の共同住宅(グループリビング)に改修したり、介護職員の宿舎として活用したりするなど、様々な対策を検討した。
 また、区市町村を支援するため、「空き家利活用等区市町村支援事業」として、2015年度には1億円、2016年度には2億7000万円の予算措置を講じ、(1)空き家実態調査への補助、(2)空き家等対策計画への補助、(3)空き家改修への補助、(4)老朽空き家除却への補助、(5)専門家を活用した空き家相談体制整備への補助を実行した。今の都政も、この方針を継続している。
■ 単独世帯の増加
 2020年の国勢調査によると、「単独世帯」、つまり一人暮らしの世帯は、38.1%で、「親と子ども」の世帯(34.1%)よりも多くなった。また、3世帯同居など「その他の親族世帯」の割合は6.8%である。
 65歳以上の者のいる世帯の構造を見ると、単独世帯が31.8%、夫婦のみ世帯が32.1%、三世代同居が7.1%である。前2者で6割を越えている。これが高齢化社会の世帯構造であり、介護が必要な身になって、老人福祉施設に入居すると、空き家になってしまうのである。
 また、未婚率が上昇している。45~49歳の未婚率は、男性が29.9%、女性が19.2%であり、この比率も上昇している。これも単独世帯を増やす要因になっている。
 平均世帯人数は、1950年代は5.00人、1961年には3.97人、1992年には2.99人、1995年には2.82人、2017年には2.47人と減少し続けた。そして、2020年には2.49人にまで低下した。つまり、一つ屋根の下に3人も住んでいないのであり、単身の高齢者も増えていることが、遺産相続人が見つからない背景にある。
 戦後の日本社会は単身化が進み、「独身文化」が栄えてきたが、それは若者について言われることが多かった。
 ところが、今は高齢者が問題なのであり、上述したように、65歳以上の一人暮らしはほぼ3人に1人となっている。一度も結婚したことのない65歳以上が男女ともに急増し、また離婚も増えている。65歳以上の単独世帯は873万世帯で、65歳未満の単独世帯912万世帯に近づいている。つまり、「独り身」の2人に1人は高齢者ということである。
 
 高齢者になると、医療・介護が気になってくる。質の高い医療・介護施設が近隣にあることが安心と安全を保障する。買い物や娯楽の便を考えても、高齢者は都心に回帰する。
■ 保守政治が推進した持ち家政策
 マイホーム志向の強さは、戦後の保守政治と深い関係にある。高度経済成長に伴って住宅需要が増え、賃貸住宅も増えるが、賃貸に住む有権者自民党ではなく、社会党などの革新政党を支持する傾向が強かった。そこで、危機感を抱いた自民党は、持ち家政策を推進したのである。マイホームを持つと、資産を守るために保守志向が強まるからである。
 こうして推進した持ち家政策によって、優良な賃貸物件は増えず、「持つ」か「借りる」か、という二者択一のうち、多額なローンを組んででも前者を選ぶ日本人が圧倒的に多くなった。これが、今の住宅過剰社会につながっている。
 海外では優良な賃貸物件が多く、「借りる」という選択をする人も多い。それは、「木の文化」と「石の文化」の違いのみには還元できない。日本でも、第二次世界大戦前は、賃貸が大きな比率を占めていた。やはり、持ち家政策推進という保守政党の政策によるところが大きいと言わねばならない。
 東京を例にとってみよう。戦後の高度経済成長時代のサラリーマンの夢は、緑あふれる郊外に、庭付きの一戸建てのマイホームを持つことであった。専業主婦の妻が家を守り子育てに専念し、夫は長時間の満員電車での「痛勤」にも耐えてローンの支払いに精を出した。大学も都心から郊外へと移転した。
 しかし、この流れは逆転し始めている。若いカップルは、夫婦共稼ぎが普通である。長時間の通勤で失われる時間とエネルギーを考えれば、その分住居費に上乗せしても都心に住む。たとえば豊洲の高層マンションである。さらに、今後は、郊外の一戸建てを処分した高齢者が参入する。都心への人口集中は避けられない。大学も都心に回帰している。
 60歳で定年退職後、20年間を生き抜かねばならない。10軒に4軒が単身者という社会を想像してみるがよい。社会保障政策も根本から考え直さないと、医療・介護費は鰻登りである。2022年の年間死者数156万人であるが、1989年の2倍になっている。2040年には、現在より167万人となる「多死社会」になる。在宅死を望んでも、いま日本人の8割は病院で死ぬ。看取りの場としての病院も、墓も満杯になってしまう。
 その他の点でも、20年後の日本社会は様変わりする。空き家問題は、この大きな変化への警鐘である。
 
 【舛添要一国際政治学者。株式会社舛添政治経済研究所所長。参議院議員厚生労働大臣東京都知事などを歴任。『母に襁褓をあてるときーー介護 闘いの日々』(中公文庫)、『憲法改正のオモテとウラ』(講談社現代新書)、『舛添メモ 厚労官僚との闘い752日』(小学館)、『都知事失格』(小学館)、『ヒトラーの正体』、『ムッソリーニの正体』、『スターリンの正体』(ともに小学館新書)、『プーチンの復讐と第三次世界大戦序曲』(インターナショナル新書)、『スマホ時代の6か国語学習法!』(たちばな出版)など著書多数。YouTubeチャンネル『舛添要一、世界と日本を語る』でも最新の時事問題について鋭く解説している。
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