安倍派初公判に関する社説・コラム(2024年5月11日」)

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自民党安倍派の会計責任者は初公判で、起訴内容を大筋で認めた
 
安倍派初公判 不正の実態どこまで迫れるか(2024年5月11日『読売新聞』-「社説」)
 
 安倍派の「金庫番」だった被告の公判が始まった。国民の政治不信を招いた「裏金」づくりの実態はどこまで解明されるのか。被告は法廷の場で真相を語らねばならない。
 自民党派閥の政治資金パーティーを巡る事件で、「清和政策研究会」(安倍派)の会計責任者・松本淳一郎被告の初公判が東京地裁で開かれた。一連の事件で正式裁判が行われるのは初めてだ。
 被告は2018~22年、約6億7500万円の収入などを派閥の収支報告書に記載しなかった政治資金規正法違反に問われ、初公判では起訴事実を大筋で認めた。
 安倍派では、所属議員にパーティー券の販売ノルマを課していた。それを上回る販売分は議員側に還流させるなどし、派閥側も議員側も収支報告書に記載しないという運用が続けられていた。
 安倍派の幹部らは国会で追及を受けたが、還流をいつ、誰が始めたのかなどの疑惑は解明されなかった。真相究明が一向に進まないことが、政治への信頼回復を妨げているのは明らかだ。
 派閥の会長だった安倍元首相は22年4月、派閥幹部の協議で「疑念を生じかねない」として、還流の中止を指示した。しかし、安倍氏が銃撃事件で死去した後、還流は継続されることになった。
 なぜこの時に還流をやめなかったのか。その点の解明も大きなポイントになる。松本被告は19年2月から会計責任者を務めており、事件のキーマンだと言える。還流が中止されなかった経緯も知る立場にあったのではないか。
 検察側の冒頭陳述は、「収支報告書の作成に派閥幹部らは関与していなかった」などと指摘するにとどまり、疑惑の多くは残されたままとなった。今後の公判で不正の実態に迫る必要がある。
 一連の事件では、自民党の議員や秘書ら計10人が起訴された。このうち4人は、公判が開かれない略式裁判で有罪が確定した。
 一方、2億円を超える収入などを収支報告書に記載しなかったとして起訴された「志帥会」(二階派)の元会計責任者の公判は6月に予定されている。高額の還流を受けた国会議員2人の公判も今後順次行われることになる。
 還流された資金を何に使ったのかも明らかにせねばならない。
 国会では現在、パーティー券購入者の公開基準額や、政党が議員に支給している政策活動費の使途公開など、政治資金の制度改革を議論している。透明性の高い仕組みにすることが不可欠だ。
 
法廷で裏金の実態に迫れ(2024年5月11日『日本経済新聞』-「社説」)
 
 自民党派閥の政治資金規正法違反事件の公判が始まった。
深刻な政治不信を招いた事件は、いまなお闇に包まれたままである。不正を繰り返さないためにも、背景を含めた全貌に迫る審理を尽くさねばならない。
 東京地裁で10日、安倍派(清和政策研究会)の会計責任者、松本淳一郎被告の初公判が開かれた。事件で起訴(公判請求)された6人のうち、公開の法廷に立つのは松本被告が初めてだ。被告は大筋で起訴内容を認めた。
 松本被告が関与したとされる収入不記載額は約6億7000万円に上る。裁かれるべきは「政治資金の流れを透明にする」という法の趣旨をないがしろにした犯罪の悪質性にとどまらない。「政治とカネ」の関係にルーズな自民党の体質ではないか。そのためには過去のいきさつを含め、実態をつまびらかにすることが欠かせない。
 検察側は冒頭陳述で「安倍派の収支報告書作成に国会議員は関与していなかった」とした。
だが、裏金を捻出する仕組みをいつ、誰が考えたのか。同派ではいったん廃止を決めたのに、安倍晋三元首相の死後に覆ったとされる。その過程で何が話し合われたのか。さらに還流分の使途もはっきりしない。国民の多くが抱くこれらの疑念は、国会の政治倫理審査会では拭えなかった。
 松本被告ら各派閥の会計責任者は、詳細を知りうる立場にいたはずだ。政治不信を招いた過ちを悔いるのであれば、前任者からの引き継ぎを含めて包み隠さず語るほかない。検察側にも丁寧な立証を求めたい。
 東京地検特捜部は安倍派幹部のほか、還流を受けた議員の大半の立件を見送った。しかし市民団体などによる追加告発や検察審査会への申し立てが続く。事件は完全に決着したわけではない。
 事件の再発防止に向け、国会で政治資金規正法の改正論議が本格化している。組織の病根を直視して真摯に反省しない限り、実のある改革はおぼつかない。