自民派閥の裏金 処分の前に真相解明図れ(2024年3月23日『山陽新聞』-「社説」)

 真相が分からないのに、議員に対する適正な処分や的確な法改正ができるのか。

 自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件で、同党は4月上旬にも関係議員80人規模を一斉処分する方針だが、事件の核心は依然闇の中だ。処分をもって問題の幕引きとすることは断じてあってはならない。処分の前に、真相の徹底解明が求められる。

 事件を受け、衆参両院はそれぞれ政治倫理審査会を開いた。計4日間で安倍派を中心に自民議員10人が弁明したが、国民の理解を得るには遠く及ばなかった。

 疑問が強く残ったのは、安倍派で2022年、パーティー券の販売ノルマ超過分を議員に還流する仕組みが復活した経緯だ。会長だった安倍晋三元首相の指示でいったん中止が決まったものの、安倍氏の死去後に復活した。死去直後の同年8月、幹部協議に参加していた衆院塩谷立下村博文西村康稔の3氏と参院世耕弘成氏が政倫審に出席したが、説明は「困っている人がいるから仕方ない、というくらいの話し合いで継続になった」(塩谷氏)、「結論は出なかった」(西村氏)などと食い違った。

 西村、世耕両氏ら「5人組」と呼ばれる派の中枢幹部と距離があり、踏み込んだ発言が期待された下村氏も「誰がどう決めたのか承知していない」と述べるにとどまった。幹部協議で「ある人」から資金還流に代わり議員個人のパーティー券を派閥が購入する案が出されたと以前の記者会見で述べていたことについても「私自身が特定できないので『ある人』という言い方をした」と釈明した。

 煮え切らない答弁には、質問した自民議員も「国民の納得が得られるのかは大いに疑問」と苦言を呈した。疑念を払拭しようという意思はうかがえず、国民の政治不信は一層深まったと言えよう。

 立憲民主党はおととい、衆院参院で計10人の証人喚問を自民に求めた。政倫審で弁明した議員のうち安倍派の8人と、逮捕・起訴された衆院議員(自民除名)、在宅起訴された安倍派事務局長だ。政倫審での真相解明に限界が見られる中、うそをつけば偽証罪に問われる証人喚問に舞台を移し、核心に迫る必要があろう。自民は真摯(しんし)に対応すべきである。

 自民の処分は、政治資金収支報告書への不記載額や役職歴、説明責任の果たし方などを踏まえて下すという。通常国会では新年度予算の成立後、政治資金規正法改正が焦点となる見通しだ。

 真相解明には、さらに別の議員から事情を聴くことも必要である。不記載が多額だった二階俊博元幹事長、萩生田光一政調会長らにも国会での説明を求めるべきだ。

 安倍派では05年にも派閥パーティーのノルマ超過分の資金還流が発覚している。当時会長だった森喜朗元首相の説明責任は避けられない。