石炭火力の廃止 日本発の脱炭素技術を生かせ(2024年5月9日『読売新聞』-「社説」)

 脱炭素に向け、二酸化炭素(CO2)を大量に排出する石炭火力発電所の廃止を求める潮流が国際的に強まっている。
 日本は、新たな脱炭素技術を開発し、石炭火力への依存度を下げていきたい。
 先進7か国(G7)の気候・エネルギー・環境相会合は、CO2の排出削減対策を講じていない石炭火力発電所を、2035年までに廃止することで合意した。廃止期限を明示したのは初めてだ。
 日本では、十分な排出削減対策が取られている石炭火力は多くないとされる。対策は急務だ。
 昨年12月の国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)が採択した成果文書では、「この10年で化石燃料からの脱却を加速させる」と明記した。
 G7は今回さらに、化石燃料から脱却する道筋を明確にした。先進国として気候変動対策を主導する姿勢を示したと言える。地球温暖化が進む中、石炭火力の廃止を優先して進めることは重要だ。
 G7の合意は、電力の安定供給に支障が生じるなど各国の事情を考慮し、35年以降も石炭火力の稼働を継続できる余地も残した。
 日本は現在、石炭火力で電力の3割を賄っている。電力の安定供給を確保しながら、石炭火力から出るCO2を着実に減らしていく施策を講じるべきである。
 日本は、燃やしてもCO2が出ないアンモニアを石炭に混ぜて発電する技術の開発を急いでいる。40年代には、石炭を使わず、全燃料をアンモニアに置き換えることが視野に入っているという。
 また、発電所から出るCO2を回収して地中に閉じ込める「CCS」という技術を30年までに実用化することも目指している。
 そうした日本の取り組みに対し、欧米からは「石炭火力の温存につながる」との批判もある。
 だが、アジアの新興国など石炭火力に頼る国は多い。日本が新たな脱炭素技術を確立すれば、これらの国の経済発展と温暖化防止の双方に役立つはずだ。
 政府が、今年度、改定するエネルギー基本計画も焦点になる。
 21年作成の現行計画では、30年度時点の電源構成の目標として、電力の19%を石炭火力で賄う計画となっている。新たに示す35年度以降の電源構成で、その割合は、さらに下がるとみられている。
 代替電源として、太陽光や風力など再生可能エネルギーの拡充が必要になる。政府が、CO2を出さない原子力発電所の再稼働を強く後押しすることも不可欠だ。