CO2の海外貯留 矛盾を押しつける発想だ(2024年4月9日『信濃毎日新聞』-「社説」)

 脱炭素対策として、日本のエネルギー企業や商社などが、排出した二酸化炭素(CO2)を輸出し、海外で処理する構想を相次いで打ち出している。ここ数年で急増し、少なくとも13件に上るという。

 いずれも前提にしているのは、火力発電所などの排出ガス中からCO2を分離、回収し、液化して地下深くの地層内に封じ込める技術「CCS」だ。

 政府は2030年までに事業化し、50年には現在の排出量の1、2割相当を国内で貯留するとしている。ただ、今はまだ北海道・苫小牧で実証試験が行われている段階。50年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするとの政府目標には間に合いそうにないから海外に―というわけだ。

 根底には、経済成長と両立させるためだとして化石燃料依存をやめようとしない政府のエネルギー政策がある。

 政府はエネルギー基本計画に、火力発電の脱炭素策としてCCSを位置づけている。化石燃料からの「脱却」で合意した昨年の気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)でも、CCSなどの排出削減対策を取った石炭火力発電所の存続方針を鮮明にした。

 脱炭素の目標達成のため施策を総動員するという狙いはいいとしても、発想がうなずけない。

 そもそも安全面やコスト面で道半ばの技術である。地層処分目的のCO2の例外的輸出を認める国際議定書も発効していない。CO2の回収、液化はもちろん、輸出となれば長距離の運搬にも多くのエネルギーを費やす。

 未完成の技術だけに、海外の貯留現場でCO2の漏えい事故や汚染が起きないとも限らない。輸出先の一つと想定されているマレーシアの環境団体からは日本政府や企業への批判も出ている。

 日本は、プラスチックごみを「資源」として輸出し、環境汚染を引き起こしたと批判されてきた。原発放射性廃棄物を再生利用を前提に輸出できるようにもしてきた。国内で処理しきれない矛盾を体よく押しつける発想が共通していないだろうか。

 脱炭素が喫緊の課題であることは言うまでもない。だからといってCCSはその柱として寄りかかっていい技術とは言えない。

 COP28は成果文書にCCSの活用も盛り込んだ。とはいえ、あくまで限定的な位置づけだ。追求する先は脱化石燃料である。再生可能エネルギーの拡充に資源を集中すべきだ。